これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

昭和の呪縛

2017年11月09日 20時49分35秒 | エッセイ
 めったに食パンを食べることはない。
 しかし、たまたま寄った自然食品の店で、理想的な食パンに出会ってしまった。
「わっ、何てシンプルな原材料」



 原材料がたったの4種類、というパンにお目にかかったのは初めてだ。2行も3行もあるパンは、食品というより、もはや工業製品であると書かれた本を読んだことがある。久しぶりに「買いたい」という気持ちになった。
 4枚入りのうち、1枚はトーストし、バターを塗って食べた。ちょっと焦がしてしまったが、サクサクしていて食感がよい。残りの3枚は、翌日、フレンチトーストにする。
「1枚はすぐ食べて、もう2枚は冷凍保存しておこうっと」
 忙しい朝は、パンにバターを塗る時間さえ惜しい。レンジでチーンさえすれば、美味しくいただけるものがありがたいのだ。
「でーきた、できた」



 フレンチトーストは、しっとり、ふんわりのデザート感覚で食べられるところがいい。でも、焼き立てのホカホカを頬張ったのに、甘くないのはなぜだろう。
「しまった、砂糖を入れ忘れた……」
 3枚も……3枚も焼いてしまったのに、砂糖を入れ忘れるとは何たることか。
 和太鼓代わりに、バチで頭を叩かれたかのような衝撃を受け、10秒くらい立ち直れなかった。甘味を期待していた脳が、受け入れを拒否している。
 だが、10秒たつと平常心に戻り、「砂糖を入れないフレンチトーストなんて……」という言葉が浮かんでくる。一定年齢以上の方なら、テレビコマーシャルでおなじみの「クリープを入れないコーヒーなんて……」をご存じだろう。昭和の名キャッチコピーは、何十年たっても私の中で生きていた。
 たったそれだけのことなのに、思い付きに気をよくして元気が出てきた。
「甘くしたかったら、オリゴ糖かハチミツをかければいいじゃん。メープルシロップもあるし」
 気を取り直して、甘くないトーストに再度フォークを伸ばす。ノンシュガーと理解したせいか、脳も「別の食べ物」と認識したようだ。何度も噛むと、パン本来の甘味が舌の上に広がり、これはこれで美味しかった。
「ふーん、意外にイケるじゃない」
 3日かけて、3枚とも何もかけずに完食する。これからは、砂糖抜きのフレンチトーストでいいかも……。
 さて、フレンチトーストは、フライパンを洗わねばならぬところが欠点である。
 パソコンでクックパッドを見ていたら、「目玉焼きトースト」などというパンが視界に飛び込んできた。
「なにこれ、簡単で美味しそう」
 すぐに影響されて、また4枚入りの同じパンを買ってくる。
「なになに、堤防を作れってか?」
 白身が流れないように、切ったウインナーを丸く並べてせき止める。その真ん中に、生卵をパカッ。そーっとオーブントースターに移して5~6分加熱すれば、玉子はトロッと、トーストはカリッといい感じに仕上がる。味付けに、ちょっぴり塩をふれば完璧だ。



「うまうま~」
 これはヒットである。吉野家のお株を奪う「安い、早い、美味い」出来映えに加えて、後片づけが超楽チンなのだから。
 玉子をこぼさないように注意しながら、パンにバクバクかぶりついていたら、またくだらないコピーがひらめいた。
「フライパンを使わない目玉焼きなんて……」
 ああ、私の脳は、昭和の呪縛から逃れられないみたい。


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コメント (12)
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