Toshiが行く

日々の出来事や思いをそのままに

逆上がり

2024-04-04 06:00:00 | エッセイ

 

 

足を「えいっ」と蹴り上げても、体は反り返り鉄棒に巻き付かない。

何度やっても同じだ。出来ない。出来なくなった。

父から教わり、小学生になった時には楽々出来るようになり、

器械体操を始めた中学生の時なんて、お茶の子さいさいの技、

いや、技なんて呼べるほどのものでもなかった、

あの逆上がりをだ。

 

今日は少し頑張り過ぎた。

2月中旬に10日間入院したせいで、体力がひどく落ちているのに驚いた。

少し歩いただけで「はぁはぁ」息切れする。

早く体力を戻さなければ──通常、ウオーキングは40分、

5000歩を目標にしているのだが、今日はこれにジョギングに近い早足、

それに16段ある石段の上り下りを5回加えたのだ。

そんな焦りのせいで、道にそのまま座り込みたくなるほどだった。

 

 

右手の小さな児童公園。息を切らしながら通り過ぎようとして目をやると誰もいない。

足は自然とそちらへと向いた。

ブランコに座ると、早春の緩やかな暖かさが息を次第に落ち着かせ、整えてくれた。

ジャングルジムがある。鉄棒もあった。

「逆上がりでもやってみるか。前回り、後回りも出来るだろう」

なぜかそんな気が起きた。

久し振り、60年、いやもっと前の鉄棒の感触だった。

2度、3度きゅっと握りしめる。手の平は、この感触を忘れていなかった。

しっかり握りしめ、右足を少し後ろに下げた。

そして、その右足を「えいっ」と蹴り上げた。

体は鉄棒に巻き付き、後に半回転して頭と体は鉄棒の上にある、はずだった。

だが、蹴り上げた足はそのまますとんと元の地面に落ちていた。

何度やっても、蹴り上げた途端に体が反り返ってしまい、

体が鉄棒に巻き付かないのだ。

まだ出来なかった頃が、これとまったく同じような有様だった。

「あんなに簡単に出来ていた逆上がりが、出来なくなってしまった」

顔に苦笑い、心の奥にはちょっぴりの無念さがあった。

前回り、後回りは到底出来はしまい。しないまま諦めた。 

 

年を取ればこうなる。言われなくとも分かっている。

でも、こんなに無様に跳ね返されるとは……

81年の年月の衰えを食い止めるのは、どうあがいたって無理。

鉄棒を握りしめたまま、見上げた真っ青な空。

悔しさはその空はるかへ徐々に遠のき、

「仕方ないな」諦めの気持ちが勝っていった。

 

 

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