最初は20歳の頃、2年勤めた仕事を失恋が理由で辞めて一人暮らしを始めた。場所は友達の彼氏が行きつけだった店舗テナント2階で、下はスナックだった。
家賃の代わりに週3日そこで4時間働かされた。当時の私は損得をあまり真剣に考えな
い、早く言えばアホだったので、体良く使われ、それも致し方ないと諦めていた。
店舗の2階にある居室は、2kの当時としてはごく普通の作りだった。独り身には充分な広さ、いや、それまで寮の6畳二人部屋だった私には広すぎた。
私は定職が見つかるまでのつなぎとして、昼間は喫茶店のアルバイトを始めた。
今は無きその喫茶店は、市内に数店舗構え常連客も多かった。
社長は白いスーツを着たホストのような出立ちの40くらいの男で、時々やって来ては店の経営状態を視察した。
私のいたところは本店。脱サラ雇われ店長がいて、形だけトップだったが、店内で五輪真弓のカセットをガンガンかけまくる厚化粧の女性マネージャーが幅を利かせていた。【たぶん、社長の女】裏方にはチーフコックが調理を請け負い、そのチーフは演劇青年で、フライパンを揺すりながら舞台稽古をする変わり者だった。
しかし、たかだか5〜6人の従業員の現場に役職3名ってウケる🤣
裏方をヘルプするパートのおばさんは日替わりで何人かいたが、一人、シュールな店には似合わない淑女のような可愛い主婦がいて、店長は彼女にメロメロだった。スイートピーのようにかわいい人だった。
その喫茶店での私の役割は、ウエイトレス。モーニングとランチタイムはまあまあ賑やかだったので、朝9時から4時まで働いた。暇な時間は皆でとりとめもなく話をしていたような覚えがある。
時に、客から「うるさいよ」と注意を受けるくらい、皆おしゃべりだった。
その喫茶の変わりメニューは、金粉入りコーヒー。昭和57年当時でも千円の値段がつく高級メニューなのに、時にオーダーが入り私を驚かせた。
2センチ角の金箔を剥がし、定番より高価っぽいカップに注がれたコーヒーに浮かべる。その作業は、厚化粧のマネージャーの仕事。
長いソバージュの髪に派手なカチューシャをつけた花柄ワンピースのそのマネージャーは、真っ赤なマニキュアの爪でそっと金粉の裏紙を剥がす。その顔は真剣そのもので、金箔だけに緊迫感を醸し出していた。
つづく