子供の頃、この世界は、ひとつだと思っていた。
しかし、違った。
この世界には、「強い人たちの世界」と、「弱い人たちの世界」のふたつがある。
強い人たちの多くは、生まれながらに、富と幸運を持つ。
弱い人たちのほとんどは、生まれながらに、貧しさと不運を持つ。
そんな人たちを、いまだに同じ土俵で戦わせている。
それが資本主義。市場経済が席巻したこの世界を支える競争のルール。
強い人たちと弱い人たちの競争だから、勝敗など、初めから決まっている。
ただ、強い人たちも、いつまでも強いわけではない。
一歩間違えば「突然」、あるいは、歳を取れば「必ず」弱い人になる。
「弱い人たちの世界」への仲間入りだ。
弱い人たちも、いつまでも弱いわけではない。
努力と忍耐や才能で、あるいは、ある日「突然」強い人になる。
「強い人たちの世界」への仲間入りだ。
しかし、こんなふたつの世界を行き来する人生なんて、不安定で、ストレスが大き過ぎる。
ところが、世の中には、「それこそが人生の醍醐味」、「人生波瀾万丈」などと、意に介さない人もいる。
そうは言っても、生まれてから死ぬまで、強い人であり続けることなどできないのだ。
すくなくとも、死ぬときには。
結局、私たちは、強いときには「弱い人たちの世界」のことを考えないようにして生きているだけ。
しかし、強くても「突然」、あるいは、いつか必ず「弱い人たちの世界」の住人になる。
それが、生きとし生けるものの運命。
いつまでも、見て見ぬ振りをして生きていくことなどできないのだ。
不条理な現実を、ありのままに認めて、全ての人が、豊かに生きることができる世界を創れないものか。
それには、現在の「強い人たち」の力が必要なのだが。