「私はあなたが趣味なの」
「・・・? ・・・・・・? ・・?」
妻は直球しか投げない
迷わなくてすむ
そうでない時もある
もう慣れてしまったが
これをはじめて言われた時
あまりにも 意表をつかれ
事態を掌握できず
返事に 10秒もかかってしまった
「今でもあなたが好き」
とか
「愛してるわよん」
とか
「言わなくてもわかる でしょう ふふ」
とか
それが ノーマルな言い方だろう
普通は
「あなたは趣味(のタイプの人)よ」
「あなたは好み(のタイプの人)なの」
だろ?
(のタイプの人)がないのだ
趣味だけなのだ
ほめられているのか けなされれているのか判断に迷うだろうが
しかし
よく考えてみれば
俺は 純然たる 彼女の趣味?
35年 趣味で夫婦をやっていたのだ
ある意味たいしたもんだと思うが
俺は 読書とか 映画鑑賞とか 音楽鑑賞とかのたぐいなのだ
嬉しいような
でも 何気に浮かべた笑みがそのまま寒天のように固まる
自分でもよくわかる
「いいじゃない 趣味でぇー 趣味じゃないほうがいいの?」
「いや・・・そうゆうわけじゃ・・・いいんだけど・・・ね」
ね と言う接尾語が わかって欲しいと言う ね が
おもねる気持ちが 我ながら 情けなくて
「あなた顔色悪いわよ 具合悪いの?」
「いや そんなわけないだろ 見りゃわかるだろうが?」
「笑えぇぇーーーーー」
「ばか 口に指突っ込むな 広げるなぁ 口裂けじじいになったらどうするんだ」
「だって 嬉しそうじゃないんだもの」
「嬉しいよ」
「そうでしょ そうよ あなたは私の趣味 決まり ねっ」
俺は ただ 頷くしかなかった
あの日を思い出している
あの頃
あの 恥らい深き乙女だった妻が
なんで こうなったんだろ
俺は妻育てを間違ったのだろうか