木の下で話しましょう

ソトコトとは、木の下で話しましょう、というアフリカ語源の福祉用語です。

クビになるヘルパー

2020-03-06 | Weblog

◎ してはならない事、利用者様以外の部屋掃除、洗濯

彼女の名前は、みちこさん

みちこさんは類まれな綺麗好きで汚れていれば綺麗にしなければ気が治まらない

生活支援の汚部屋でも、みちこさんが通えばぴかぴかに見違えるほどの部屋に一変する

大体は独居の高齢者が多いのだけれどもたまに家族が多忙で面倒を見られずに生活支援を依頼される事がある

家族には当人の部屋だけの掃除で他の家族の部屋には立ち入り禁止だと説明されみちこさんが訪問することになった

家族の中の高齢利用者の部屋は概して狭く共用部分も多く与えられた仕事だけでは時間が余ることが多い

当然、みちこさんの綺麗好きな好奇心が芽生える

大して広い居宅ではなく仕事で出掛けるせいか利用者の部屋、共有部分も汚い

利用者の部屋は、せいぜい6畳で掃除はすぐに終える

高齢利用者に「時間が余りましたので他の部屋の掃除もしましょうか?」

と尋ねると「そうですか、お願いします」と承諾を得た

 

ドアを開けたとたんにこもった空気が臭くすぐに窓を全開にして掃除を始めた

雑誌が乱雑に置かれているのを整理して埃だらけの机を拭き掃除機をかけた

利用者の「そろそろ時間ですよ」の声に「続きは後日に」と、やり残し感を抱えながらもその日は終了した

翌日、事業所に家族からの電話があった

責任者は、席を立ち平身低頭でおたおたと謝る

「申し訳ありません、代わりの人を行かせますのでどうかお許し願えませんか」

すったもんだの問答がありなんとか利用者を失わずに済んだ

 

そして、みちこさんが別部屋に呼ばれた

「あなた、またも余計なことをしてくれましたね」

みちこさんに思い当たるような不備はなかった

「一体、なんですか?」

「昨日の利用者さん宅でご家族の部屋を掃除したでしょう」

「はい」

「ひどく怒っておられますけどどうしてかわかりますか?」

みちこさんは、あら?と考える

「利用者様に許可を得ましたけどそれがなにか」

責任者の顔色が変わる

「訪問ヘルパーのやってはならないことは家族の部屋掃除、洗濯です」

「でも時間が余り遊ぶのもなんだか悪くて・・・」

みちこさんには叱られる理由がわからない

どうして他の部屋を掃除するのがいけないのか・・・

なぜ家族が怒るのか、礼を言われるはずなのに・・・

わからんわ・・・

利用者からお願いしますと言われてもか・・・・

不穏な沈黙のあとで責任者はみちこさんに最後通告をした

「あなたは今日でクビです」

「えっ、どうして・・・?」

「ヘルパー規則違反です」

 

みちこさんは、関連書類の始末をして力なく帰路に着く

いくら考えても綺麗好きなみちこさんにはクビの理由がわからない

汚れた部屋を親切に掃除をして綺麗にしたのに・・・・

これで幾度目のクビかしら・・・

どうしてもわからない???

自問自答しながらみちこさんは訪問ヘルパー募集の広告を手繰り寄せる。

 

 


おれおれ、返金、詐欺

2020-01-30 | Weblog

年初にいつものように88歳女性の利用者様宅(Aさん)を訪問しました

決められた家政婦の仕事を終え年末から正月にかけての休暇中の安否をお伺いします

Aさんが笑いながら大きなジェスチャーを交えながら話し始めます

「正月におれおれ詐欺の電話がありました」

「えっ、本当ですか?」

私は身を乗り出して話の展開を促します

「おれおれ、と、言うので、どなたですか?と訊いてもおれおれとしか言わないのです」

「・・・・」

「家には、自分の事をおれという者がいないのですけど、どなたですか? 

おれおれ、おれはおれ、名乗らずに繰り返すばかりです、どう考えても誰もおれとは言わないので

おれおれと言う度にどなた?何の御用件ですか?と訊き直したら、ドンくさい婆さんやなと思ったのでしょうか

諦めて切りました」

詐欺師が手を焼くなんて面白すぎる、ふたりで手を叩いて大声で笑い転げました

Aさんの誠意をつくした真面目な応対に狼狽えている詐欺師の困惑顔が見えるようです

電話を切ってから正月早々縁起が悪いわい、と、椅子でも蹴飛ばしたかも知れません

 

次にラインの同級生です

同級生では稀な立身出世をして会社経営をしています

マスコミでも取り上げられて悠々自適生活です

”毛が生えなければ代金を返金します、との広告をみて、嫁に嗤われながら申し込んだ、

ふさふさになって青春を謳歌するのだ”

と、息巻いてます

へっ!!

商売上手でもこんなに簡単に詐欺に引っかかるとは・・・

”毛生え薬を発明したらノーベル賞を貰える、たぶん、生えないわ”

”ふさふさになったら教えて僕も買うから”

私の時代の学生は長髪禁止でした

ご活躍の頃の同級生を知らないのでふさふさ髪のふたりを知りません

・・・目の黒い内に、ふたりのふさふさ頭髪をみることはなかろうと思われます。

 


忘れ花

2019-01-20 | Weblog

忘 れ 花   

  

 なぜか気になるあなたの背中

 耐えてる肩に積もる雪

 忘れてくれと走り書き

 残して消えた人でした

 

声を嗄らして鳴いたとて

移り気なだけ不如帰

 あれからどこでなにしてる

 夏の禊(みそぎ)の風の夕暮れ 

 

拾った噂で知りました

 遠い砂漠で見たという

 朱く咲いてる忘れ花

愛をさがしているのです 

 


 

 


間違えられて

2019-01-11 | Weblog


多忙だった年末年始もやっと終了したのでご無沙汰気味の78歳の友人に電話をしてみた。

去年の秋頃、近所にある徳★会病院で無料健診を受診したとか、そこで医師と共にレントゲン画像を眺めながら衝撃の結果を下された。

「あなたは食道がんで年末まで持たないでしょう」

「・・・・・」(絶句)

当然、彼女は自分の耳を疑った”はっ!?自覚症状もなく至って健康なはずなのに”

再度の説明も同じで処方箋もなく治療法も指示されずさよならと放り出された。ここまでの話で私のハートは怒りに震えたが次へと話を進めた。

独居の彼女は、死ぬのなら・・・終活をしなくっちゃ、まずは大量の洋服を少しずつゴミの日に廃棄処分した。しかし、死病なのにこんなに元気でいられるはずがない、おかしいわ。。。


腑に落ちない彼女は自費で近くの市民病院で健診を受けた。

結果は、無傷の健康体だった。

「これってどう思う?」

「近頃、流行りの無能力医者ってことだわ」

検査結果をどう読み解くのか、余命を当確出来るかが、医者の最低条件なのに、なかなか居なくてこの条件を満たせばネットに登場して個人情報を曝しまくられ最高医であるとのお墨付きを貰う。

「この話をするとみんなが訴訟したら?と言ってくれるけど、どうせ勝訴の見込みはないし無駄なだけでしょう?」

「そうね、この国の習慣やら法律が改善されない限り医療訴訟は原告が勝訴することはないしあなたに不要で莫大な金銭があるわけじゃなく無視してそこいらじゅうに語り尽くし拡散するぐらいが憂さばらしになるわ、それに万が一勝訴して金銭を受理しても食うだけあれば良い年齢で面倒くさくて余計な気を遣うだけ時間の無駄やし

「ほんまに、信じられない時代になったもんやね」

「そだね~、頭の悪いのが金の力で医者になるから、患者は、たまらんわ」



次に、自力歩行の検査入院二週間で「殺されるから退院する」との本人の希望により在宅になったのだがほぼ寝たきり状態になった男性利用者(71歳)の例を書くことにする。

悪いことに退院してから話すことさえままならず、白目を剥いたまま視覚障害になり閉じようとすれば筋力低下で自力では不可能だ。暖房のせいかもと様子をみていた高熱もなかなか下がらない。

すわっ!!救急車を!!

検査入院していた北★病院へ連絡したが素早く拒否された・・・むっ?!・・なぜ?・・

やはり・・・の感想とため息が漏れる、急遽、近所の病院に運ばれると、すぐに「肺炎」と診断されそのまま入院した。

この分だと彼の命さえ危ぶまれる。退院出来ても在宅介護は、到底、無理だろう。


最後に、町医者の場合。

定期通院で婆様(79歳)がレントゲン撮影をした。

画像を診ながら医者が「肺に白い影があるから大きい病院へ予約をしましょう」

認知症の婆様は、呑気に「嗚呼、そ~ですか~」と呆けた顔で聞き流す。

予約した病院でのCTスキャンの結果は、前述と同様で何も異常はありません、との返答だった。

町医者に診断結果の封書を持ち帰ると「ほう・・・なにもなくて良かったね」

意外そうな顔をして問題の画像を再確認し始めた。

よくよく以前の画像を眺めたら左の乳首だったわ」と素直に非を詫びたので全員で笑い飛ばしてチャラにした。

血液検査の結果、どこにも異常がなかったので「先生、それならばもう調剤は不要ですね」と言ったら顔色を変えて「いやいや、服薬したから良くなったわけで止めれば悪化するよ」と慌てふためき、いつものようにスーパー袋に満杯の薬を処方された。それを婆車の荷物袋に入れよいしょこらしょと婆様が歯のない口から洩れる吐息を立てながらふんふんと押して歩く。

 


藪の密林をさ迷ったような感覚の悩ましい一日を終えた帰路で剣先のように鋭い三日月が凍てついた川面に頼りなく浮かび、その上を水鳥が静かに直線を描きながら波紋を広げつつ瞬く間に月光を消し去ってしまった。 

 


ファースト

2018-12-11 | Weblog

上下順位で仕事をしなければならない場面がある。

例えば認知症利用者の場合、ゴミをゴミと認識出来ない婆様が大半である。ヘルパーである私は、まず利用者にこれはゴミかどうか、捨てても良いか?を訊ねる。ほぼ全員がそれはゴミではありません、再利用出来る資源だから捨てないでください、と応える。

はい、わかりました、と、利用者の言い分を優先してそのままにする。すると経営者やら他ヘルパーがそれをみて私が仕事をしていないと叱る。

経営者は「ご家族様がみたらヘルパーが何もしていない」と苦情を言われると怒りを露わにする。わかりました、と、ゴミを出そうとすれば認知症婆様が「まだ袋に余裕があるのでいっぱいになってから捨てて!」と声を荒げる。プラゴミやら牛乳パックを捨てようとすると本気で泣きわめく婆様もいる。これ、近隣者にもれ聞えればヘルパーの高齢者虐待だと誤解されるかも知れない。そうかそうかとなだめて捨てるのを辞めれば経営者が怒る。しょうもない、やってられないわ~、利用者ファーストにしなければへそを曲げてしまい家に閉じこもる。経営者は明日になれば忘れてしまうので捨てればよい、自信たっぷりにのたまうが短絡的に事は進まない、認知症とはいえ通常の会話が出来ているし厭なことは執念深く覚えていていつまでも名前は忘れたけど大事なものを勝手に捨てた、果ては置き場所を忘れてしまった金を誰かが盗んだと誰彼なく言いふらす、不思議と顔を覚えていて話の内容で誰かを推測できる。

そしてアル中の婆様がふたりいるのだが過飲で足が立たなくなり倒れて額を4針縫いドクターストップがかかり与えるなとのお達しが出たものの家族がなぜかしら大瓶を持参する。婆様は喜んでいるが自分の財産を狙い一刻も早く殺そうとしているとウイスキーを煽りながら私に愚痴る、なくなると自分でよたよたと歩行器を押して一駅向こうの酒問屋まで買いに行く。訪問時に居なくて探すのは日常茶飯事である。責任者に連絡をすると買って来た酒を取り上げるように指示される、家族に知れるとまずいから・・・???取り上げて隠すと遠路はるばる不自由な体調でせっかく手に入れたブツを探しながら「泥棒!!!返せ!!誰かつかまえて!!」と汗をかきながら路地の真ん中で絶叫する。熟知の近隣者はまた婆様が叫んでいる、やかましいな、と誰も出てこない。

全く。。。。

訪問時には、出来上がっていて起きられずにろれつさえ回っていない。よくぞ鍵を開けてくれたと感心することがある。

それもこれも嫌われたら一巻の終わりで開けてもらえず会話もせずに帰れ!のひとことなのである。経営者は金銭を支払う家族ファーストで家族はそのように手を焼かせる婆様をヘルパーに任せる、任せられたヘルパーはどちらかにつき日々彷徨う。

婆様は今さら他人が家に来て指図して、なんでや?何様じゃ、金まで払いどうして好きなことをさせないのか?と自問自答する。ヘルパーを気に入れば家族が悪いと慰めてくれるが経営者の言うとおりに仕事をすれば、もう来ないで!と門前払いになる。経営者はヘルパーを交代させればよいだけだが婆様の怒りは収まらなく意固地になり人間不信になり認知が進む。

 

しかし、まだこの程度の事なら誰かの忍耐でどうにかなるが、最近のこの国は、国民ファーストなどとは程遠くアベファーストを突き進んでいる。高齢の利用者は彼がTV画面に映ると「気分が悪い」と舌打ちをしながらすぐにチャンネルを替え、露出度の激減した夫人が出ると「このどぶすが、出て来るな」と電源を切ってしまう。



氷雨