『トリセツ制作現場のアレやコレやをなンとかするDTP』をダイジェストでご紹介します。
本書は「DTP的なカンジ」の同人誌です。
タイトルにもあるとおり「トリセツ制作」の愚痴……もとい、注意点や苦労話をまとめたような内容になっています。
ご注意!
ただし、ダイジェストとはいえ具体的なことは、あえて避けてご紹介します。
本書の内容は「ちゃんと作りなさい」ですべて解決してしまうのですが。
アレやコレで、どうにもならないケースで、それでもなンとかしてきたケース。いわば、バッドノウハウのお話しばかりです。
このnoteには微塵も影響力が無いですが、とはいえ最悪のバッドノウハウがテキストとしてネットに残ってしまうのはよろしくないと考えています。
というわけで、あくまでもお話しのご紹介程度に留めます。もし、「どんなヒドいバッドノウハウが詰まっているんだろう?」と興味を抱かれたら、ぜひA-COLORが参加する同人誌イベントでお手に取ってください!
同人誌の仕様
- A5版
- 82ページ
- 2023年12月3日 東京ビッグサイト西1・2・3・4ホール COMITIA146頒布
- 本文モノクロ 1000円
概要
本書は「DTP的なカンジ」の同人誌です。
「的なカンジ」というカンジなので、TIPSとかハウツー的なことはほとんどありません。そういうのを期待しないでください、ごめんなさい(先に謝っておきます)。
取扱説明書(ユーザー、お客様向け)や整備要領書(社内向け)といった機械や製品に付属する図書(以降「トリセツ」とします)にまつわるDTPのお話しをメインとしています。
社内の業務フローをドキュメント化した、社内マニュアルとは趣が異なりますので、ご注意ください。
トリセツ制作における最大の特徴は「似た内容のドキュメントが長年に渡って修正や改訂を繰り返す」ということ。作業ルーチンに落とし込み、類似機種や海外展開のフローに合わせて制作されていると思います。
その逆に、トリセツ系の図書で頭を悩ませるのは、作業ルーチンの枠外にあるイレギュラーな図書の制作です。たとえば、以下のようなケース。
- OEM製品のトリセツを作ろうと思ったら、紙の本が送られてきた
- 15年ぶり改訂することになったけど、知らないアプリケーションで作られている
- 既存データはあるけど、当時の経緯を知る人が誰もいない
- 海外製のPDFしかないトリセツの翻訳
- 海の向こうでひっそり生きていた機械の中古販売用のトリセツ制作
などなど……本書では、こういったイレギュラーなトリセツ制作の際に発生する困りごとについて、まとめました。
以下のような読者を想定しています。
- メーカー、販売店などに所属してトリセツに関わる業務全般を担当(窓口、ディレクション)
- 規模が大きくない制作会社でトリセツ制作
- トリセツを担当する翻訳会社
- 納期と予算はタイト
- データの支給形態に口出しできない
なお、アレやコレで、どうにもならないケースで、それでもなンとかしてきたケース。いわば、バッドノウハウのお話しばかりなので用法・用量は必ずご確認ください。
本誌目次
第1章 PageMakerしかない
第2章 紙しかない
第3章 PDFしかない
第4章 英語のPDFを翻訳する
第5章 CSVからパーツリストを作る
第6章 上司を説得したい
第1章 PageMakerしかない
【想定されるケース】
15年ぶりに製品がバージョンアップされるので、PageMaker のデータを使ってマニュアルを作りたい。データはほぼ流用できるが法改正の反映、表現を最新のマニュアルに合わせるなどの修正はある。なお、15年前の制作環境もオペレーターも残っていない。
以前の製品のトリセツのデータを修正して、新製品のトリセツを作るのは、我々の界隈では基本的な業務といえます。
とはいえ、15年前のトリセツとなると、なかなかに厳しい条件かもしれません。
しかも、今回はPageMakerのデータで、当時の制作環境は無いし、担当したオペレーターもすでに退職してしまいました。
トリセツの掲載内容の修正はさておくとして。
15年前のデータをどのように使うかは、かなり判断に迷いますが……本書では以下のような流れで、InDesignにコンバートすることを提案します。
- InDesign CS6がインストールされたパソコンを用意する
- 責任者からコンバートの了解を得る
- 可能であればPageMakerで下準備
- InDesign CS6でPageMakerのデータを開く
- 現行の制作環境でDTP
- 全文チェック
InDesign CS6を用意する
PageMakerのデータが扱えるのは、InDesign CS6までです――ごめんなさい!
この解決案は、InDesign CS6をインストールした環境があることを前提としています。
(ほんの数年前までは、なンとかなったんだけど)
現在のAdobe CCの環境では、PageMakerのデータを扱えなくなりました。
というわけで「PageMakerを使える環境が無い」という話だったのに、それに加えて「InDesign CS6が使える環境を維持する」話になってしまいました……申し訳ございません!
本書では、InDesign CS6が使える環境を前提に話を進めていきます。
InDesignでレイアウト
PageMakerのデータをInDesignで開いたら、それ終わりというわけにもいきません。
コンバート直後は、文字がズレていたり、全体的に細かい数値でズレていたり、画像が変形しています。
もちろん、体裁が明らかに崩れているのは論外ですが、コンマ数ミリのズレなら、許容範囲とするかどうかは判断次第ですが……今後(15年後かもしれないけど)のことを考えて、きちんと直したいところです。当然、この修正も事前にスケジュールとコストに反映させましょう。
また、せっかくInDesignを使うのだから、データを作り直す過程でInDesignの機能を使って作り直すことも提案したいです。
PageMakerには無かった表組み、テキスト変数といった、トリセツで活用したい機能が揃っています。
さらにはInDesignにするとPDF/X が書き出せるようになります。
これで**「印刷会社にPageMakerのデータを入稿」**なんて悪夢のような手間から解放されます。PDF/X しておけば、おそらく15年後でもなんとかなると思います。
第2章 紙しかない
【想定されるケース】
目の前にある紙に印刷されたトリセツを増刷、または改訂したいけどデータは無いという場合。なお、データを請求しても取り合ってもらえない。
目の前にある紙に印刷されたトリセツを増刷、または改訂したいけどデータがまったくない……トリセツの界隈だと、良くあることです。
目の前にあるトリセツを棄損しても良いという条件付きであれば、なンとかなりそうです。
とはいえ、……たいていはOEM製品の品名やブランドの変更とか、改版も込みなので、これだけで目的が達成できるわけではないのですが。
そこで以下のように、4段階にケースを分けて説明していきます。
- 本(製本の有無を問わず印刷物)を増刷する
- 本(製本の有無を問わず印刷物)をデータにする
- 本をWeb公開用のPDFにする
- データにした本を修正・改訂する
本(製本の有無を問わず印刷物)をデータにする
増刷をするのなら、まずはその本を印刷した印刷会社に相談しましょう。
とはいえ、このような緊急対策をせざるを得ない場合、印刷会社に渡すだけで解決するはずがないわけで……。たいていは以下のような用途が考えられます。
- 紙のトリセツをWebで公開する
- 紙のトリセツを修正、あるいは改訂する
いずれの場合も、まずは紙をスキャンをしてデジタルデータ化しましょう。デジタル化してし まえば、そこから何とかなります。
データにした本を修正・改訂する
本書で紹介するのは、スキャンしたデータを使って新たにトリセツを制作する方法です。
私が担当する場合、このように修正したデータを**「弊社とお付き合いのある印刷会社にお渡しして印刷・製本できることを確認」**しています。
しかし、すべての印刷会社がOK を出すとは限りません。
必ずデータの素性をハッキリさせた上で、ご利用の印刷会社にお問い合わせください。
第3章 PDFしかない
【想定されるケース】
トリセツを増刷または改訂することになったけど、何らかのアプリケーションから出力されたPDFしかデータが無い場合。なお、その何らかのアプリケーションとやらは不明だし、データも支給されない。
増刷するだけならPDFだけで十分。だって、このPDFしかくれないんだから……。
支給されたPDFに塗り足しがないとか、カラーモードがRGBとか、いろいろ不具合が想定されますが。
まずは「このPDFで印刷して良いですね?」と確認しましょう。なんなら念書を一筆書いてもらうぐらいの勢いで。
不具合に対処しなければいけないのなら、そこから交渉を始めるべきです。
改訂する場合は、おおよそ2章の「紙しかない」場合と似たような状況が想定されます。
なので、PDFで支給されているだけ、スキャンの手間が省けて助かるかもしれません。修正が無いページは「同意を得たもの」として、修正ページだけチェックすれば気が楽です。
PDFの直し方も、先の紙しかない場合と同様の感じになります。
むしろ、PDFしかないデータを渡されて厄介になるのは、これを使って別の図書を作る、それどころか翻訳するというケースかもしれません(翻訳に関しては項を改めます)。
渡されたPDF を使って修正する場合、以下の方法が思い付きます。
- DTPソフトを使って最初から作り直す
- PDFを画像ファイルとして扱い、IllustratorやPhotoshopで修正
- Acrobatで編集する
DTPソフトを使って最初から作り直す
「これができるなら苦労しないよ!」と怒られそうですが。でも、一番確実だと思います。たいていは、アレやソレやな事情で作り直しが認められないから困ってしまうのでしょうけど……。
なお、PDFからWordにはできますが、InDesignにはできないので、組版するとしたらWordが良いような気がします……しかし、データの作りにもよるのでしょうが、正直言ってかなりしょっぱいデータになります。
「超短納期でかつWordにするのが必須」のような、よほどの事情がない限り、ある程度の納期とコストをかけてでもInDesignで組版することをオススメしたいです。
PDFを修正
なお、PDFを直す方法についてはバッドノウハウが過ぎるし、曲解されてしまうのも危険なのでこれ以上は書きません。
(本書内では、バッドノウハウとしてやり方を書いていますが)
トリセツにおいて、PDFは成果物であって作業データではありません。
成果物をいじってしまうと、データ上のトラブルと、運用上のトラブルが必ず発生して誰も幸せになりません。
作業を見積もる際、どれだけの影響を受けるのかも必ず確認してください。
第4章 英語のPDFを翻訳する
【想定されるケース】
輸入した製品の英語のトリセツを翻訳して日本語版を出すことになったけど、PDFしか支給されなかった場合。なお、組版データを請求しても取り合ってもらえない。
前章と同様にPDFしか支給されないケースですが、今回は英語のPDFです。これを翻訳します。もちろん、組版のデータは支給されません。
最近では、CMSからPDFを直接書き出すので、WordやInDesignといった組版データが存在しない、というケースもあったり無かったりするようですが……(個人の感想です)。
最終的な成果物は日本語でレイアウトされたトリセツとなりますが。このような案件では、以下の二段階の作業が必要になります。
- 英文を日本語に翻訳
- 元のトリセツに合わせて、翻訳した日本語でレイアウト
最終的な成果物はレイアウトされた日本語のトリセツとなるのですが、案外これが見落とされます。
(索引を英文の順番通りに翻訳しただけでは役に立たない、支給PDFがISO規格のB5版、などなど)
最終的な成果物を見据えたオーダーをしないと、トラブルに発展し、想定外のコストやスケジュールが発生することは肝に銘じておきましょう。
なお、本書での説明は英語→日本語の翻訳に限定します。
PDFから英文を過不足無く抽出
まずは、PDFから翻訳元となる英文を過不足無く完全に入手することが最重要です。
相変わらずPDFにフォントが埋め込まれていなかったり、テキストがアウトライン化されていたり、プリントアウトをスキャンしたPDFだったりするかもしれませんが……ダメ元でテキストが抽出できるPDFの再支給を要請しましょう。
ここが本案件の成否の最大の鍵となりますので、くれぐれもご注意を!
Tradosで翻訳
翻訳の方法はいろいろあると思うのですが。
トリセツのように、他図書とテキストが共用される比率が高いことを考えると、翻訳メモリーツールのひとつTradosを使って翻訳データを管理しながらの翻訳が良いのではないかと考えます。
今回のようにPDFしか支給されない場合、既存翻訳が無いこともあるでしょう。
それでもTradosを使えば、PDF内のテキストと翻訳データを一緒に管理して、PDFの体裁でWordに出力できます。
DTP はWordが良い?
翻訳が終わったら、Tradosの機能で訳文をWordに流し込みます。
しかし原文と訳文ではテキスト量が異なるので、たいていの場合、再レイアウトが必要になります。
(PDF のレイアウトを保持したまま翻訳を謳う某サービスも、テキスト量によってはレイアウトが崩れます)
Word で再レイアウトしましょう……と言いたいところなのですが、レイアウトの混み具合によっては極めて困難なこともあります。
個人的には、InDesignを使いたいところです。本書では、InDesignでのDTPについて触れています。
しかし翻訳案件の場合、Wordが必須ということもあるので非常に難しいところです。
国内版? 翻訳?
外国語を翻訳した案件の場合、OEMの記述を削除、国内仕様の文言を追加、日本国内用の法令に改めるなどの作業が発生することがあります。さらには原文と異なるレイアウト、表組みの追加が発生する場合も。
こういう作業は、本来は「国内版」の作成であって、「翻訳」とは別物と考えた方が良いです。
そしてPDFから変換したWordをデータを使って、Word上でこれらの作業に挑むのは、かなり困難を伴います。
InDesignで作り直した方が良いのですが、それだけの予算と期間が確保できるのかどうか非常に悩ましいです。
Illustrator の翻訳
Tradosでは画像データは取り込めません。しかし、Illustrator(AI 形式)で作成した画像内の吹き出しなどを翻訳することも多々あると思います。
TRANGENが販売しているIllustrator 用のスクリプト「AiExpExport」を使うことで、ひと手間 掛かりますが、Tradosの翻訳を流し込むことができます。
表示レイヤーのみ抽出できるなど、DTPで使うことを考えられているのが心憎いです。
Illustrator のデータを直接扱うのではなく、一旦、テキストだけをXML に書き出すところがミソです。
ちょっとわかりにくいかもしれませんが、大量の画像を扱う際には便利なので、ぜひ!
Adobe Illustrator/InDesignテキスト抽出・置換
第5章 CSVからパーツリストを作る
【想定されるケース】
パーツリストを作成するにあたって、BOM から出力したCSV を一式渡された。これをパーツリストのフォーマットに合わせて加工しなければならない。なお、DTP についてはまったく議論されていない。
パーツリストを制作する場合、製品を構成する部品を管理するためのシステムから出力されたCSVだけが支給されることがあると思います。
このCSVが、パーツリスト用のフォーマットになっていれば話が早いのですが……。
掲載順を入れ替えたり、パーツリストに不要な情報を削除したり、供給用に値を変更したり等々……CSVをパーツリスト用に整形しなければならないことも、しばしば。
本稿では、支給されたCSV からパーツリストを作成する手順を追って説明していきます。
なお、パーツのテクニカルイラストは、何らかの方法でうまく描いているということで、ここでは割愛します。
CSVをExcelで開く
支給されたCSVをExcelで開いたら、カンマの区切りが列の区切りとなり、改行が行の区切りとなって表示されます。見た目はパーツリストの表組みそのものなので、このまま編集できるなら何も問題ないのですが……。
桁揃えの0が消えてしまったり、バッテリー端子の(+)(-) 記号が勝手に計算符号として処理されたり、アッセンブリを表す「--」が消えたり等々……テキストが意図通りになってくれない厄介ごとが発生していることがあります。
こういう厄介ごとを回避するためには、まずCSVの拡張子を.txtにしてから、Excelで開くとうまくいきます。
Webか紙か
CSVが支給され、Excelでリスト加工するので、パーツリストはExcel で制作されることが多々あります。
しかし、Excel で処理するからExcel で制作と考えるのではなく、最終的な成果物の使われ方を考慮したいです。
成果物がWebで、ExcelをWeb用のパーツリストの素材とするなら、Excel のままで十分です。
ただし、これはExcelからWeb用にデータを変換できるワークフローがあることが大前提ですが。
成果物が紙なら、やっぱりDTPソフトを使って作りたいです。
恐怖!Excel DTP
CSVをExcelで加工後、そのままExcel でパーツリストを作成するとのオーダー。
しかし、Excelはあくまでも表計算ソフトであって、文書作成ソフトではありません。
Excelには用紙サイズという概念は無く、使用するプリンタドライバによって印刷範囲が可変するほど文書の扱いが苦手です。作業中の表示、プレビュー表示、実際の印刷がそれぞれ一致しないというのも有名なところです。
固定化されたフォームにマクロやVBAで版下作成を自動化というアイデアもありそうですが……。
これまでの経験上、固定されたフォームでの作成がなかなか受け入れてもらえないです。
たいていは「CSVに無いもの」を追加したり、「Excelの機能として簡単にはできないこと」を求められます。
逆に言えば、「諸々を飲み込んだ上で紙の出力に最適化」するためのマクロやVBAが用意できれば、Excel DTPもありなのかなあと思ったりもしますが、実情はどうなのでしょうか。
第6章 上司を説得したい
【想定されるケース】
本書では、おかしなDTPをなンとかする方法をいろいろ書いてきました。では、なぜ「紙やPDFのままトリセツを維持することや、ExcelでDTP」がおかしなことなのでしょうか? ざっくりとご説明しますので、上司を説得する材料としてください。
現状では、作業の効率が悪いし、事故の危険性が高くなるばかり。
本書を読んで、業務を改善したいと思っているのだけど、予算や納期の都合でなかなか上司の同意が得られない、そもそも事故の危険性が理解されない……。
そんなときは、本章を説得の材料に使ってみてください。各章ごとに、補足説明を加えています。
Tradosのバージョンに関係なくidmlを取り込むには
本章内でTradosが取り込める「idml」のバージョンについて書いています。
現状では、デフォルトの設定では最新バージョンのidmlが取り込めません。
しかし、[サポートされていないファイルバージョンを処理する]を行うことで、idmlのバージョンに関係なく取り込めます。
「サポートされていない」という但し書きが、なんだか恐ろしいのですが……。
この件についてnoteを書いていますので、ご参照ください。
Trados 2024で取り込めるidmlのバージョン|STUDIO A-COLOR
このダイジェストを読んで、もし本書にご興味を持たれたら、ぜひ本書をお手に取ってください!
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