A life with minerals な日々

鉱物標本の倉庫に寝暮らしする(笑)鉱物まみれの日々

「帰れない山」、読了(前)

2022-10-04 12:15:06 | 読書

評判の良い翻訳本「帰れない山」を読了しました

噂に違わない素晴らしい物語でした

わたしという人間は「本読みが好き」と「山歩きが好き」という面がありますので

ふたつの方向で思いを記しておこうと思います

まずは、本読みとしての感想

文章が良かったですね

イタリア北部モンテローザ山麓を舞台に山を通じての親友との人生の流転を

多角的に読み込ませる作者さんの手腕

元の文章も良いのでしょうが翻訳者、関口英子さんの文章も素晴らしく

翻訳本にありがちな違和感はまったく感じられず流れるように読み進められました

文章の中身も作者さん自身が(ほんとうに山が好きなんだな)と共鳴できる表現が

いたるところに見られ、自然描写も細やかに書かれており視覚的感覚も

イメージしながら読み進めるのはとても楽しかったです

「帰れない山」はずっと手元に置いて

たまに無作為にページをひらいてspend my lifeする愛読書になりました

映画化されて日本では来年公開されるそうですが

楽しみでもあり、怖くもあり…  ですが期待をもって劇場に足を運ぶでしょう

 

 


「帰れない山」、読了(後)

2022-10-04 12:00:13 | 読書

それでは「帰れない山」を(山歩きが好き)な視点で雑記していきます

「帰れない山」は片方の主人公であるブルーノの立場を言葉にしたものですが

わたしも一人で山歩きをしていてテント泊や小屋泊で夜過ごしの山となることも

多々あったのですがその夕方の時間を「帰らなくてよい山」として

山の斜面の草原を黄金に染める時間をとても愛していました

わたしの山歩きの大半は日帰り山行でしたがそれはそれで素晴らしいとしても

夜過ごしの山の充実感は人生時間を埋めるものとして貴いものでした

そもそも山歩きは一人で歩くのと複数人で歩くのとでは感覚的にまるで違うものになります

複数人で歩くときはならではの楽しさはありますが感覚の集中はほぼ出来ません

ですが一人で歩く人は分かると思うのですが山を歩いて楽しい時、キツイ時、怖い時

山歩きの経験を積むにつれて山と語り合うことが出来るようになります

そんな一人で夕方の「帰らなくてよい山」時間を過ごしていると

山が労わってくれているような、親友のような… そんな感覚になります

わたしも今は個人的事情で山歩きを止めていますが

時が来れば、また山歩きを始めて

わたしの究極の「帰らなくてよい山」を探す旅に向かうことになるはずです

なのでピエトロとブルーノの心境描写は深いところで理解できて読めたと思います

ちょっと話はずれますが

今年は山歩きでのアクシデントでの救助の報道が異常的な多さになっています

わたしも一人で歩いている以上そのような状況に陥る可能性はあったとしても

這ってでも下る覚悟をもって歩いていました

山歩きをする人には服部文祥さんの「情熱大陸」を観てもらいたいものだと思います


岩井圭也というspend my lifetime

2022-09-28 12:00:41 | 読書

岩井圭也さん作品との出合いは、鉱物標本愛好家として物語のテーマに興味を覚えた「竜血の山」を買ってみて読んでからです

エンタメ系?と多少感じながらも「竜血の山」が面白かったので岩井圭也作品を近所の図書館で借りては読み重ねました

順に、「分身」「プリズンドクター」「永遠についての証明」「夏の陰」「水よ踊れ」「生者のポエトリー」

今年1年でこれだけ読んで感じたことは、もう岩井圭也作品は敬意をもって新作を心待ちにして購入して楽しむべきということでした

前作の「最後の鑑定人」も素晴らしく面白い作品でしたし

岩井圭也さんのTwitterアカウントをフォローしてはTwitterのスペースも視聴参加するほどのファンになっていました

で、9/22に刊行された「付き添うひと」を読了しました

今年に入って4冊目の刊行でTwitterによると最近では複数の連載も進めながらという

多作な時期となっているようで、そうなると身勝手な本読みとすると(どうしても出来の良し悪しはあるよね…)と

些細に疑いながらの読み初めでした

今作は主人公は同一とした5編の短編集で様々な展開で読み込ませるなかで

3編めあたりから(これは相当な作品だな…)と思い始め

5編めの最後には(岩井圭也作品にハズレないよね)と感じ入りました

素晴しい作品でした

全ての岩井圭也作品から通じて感じることは、現代ならではの様々な問題点

良いことも悪いことも含めてのテーマを読中では登場人物の心情に自身を投影させて

希望の明日があることを信じさせてくれる

素晴しい読書時間を過ごさせていただき感謝感謝です

次作も楽しみです

 

 


「われら闇より天を見る」読了

2022-09-09 12:00:00 | 読書

500ページ越えの翻訳文で3時間越えの映画を観るような労力を感じながらの読了でしたが

各章のスパンが程よい長さで都合よく読み進めることが出来ました

13歳の主人公少女の波乱万丈の人生の分岐点を「We bigin at the end」とタイトルとしたのがなるほど!で

少女ともう一人の主人公?の警察署長の心情のうねりを繊細な描写で読み込ませながら

物語の主幹が読者に形づけられてゆきます

読みながら、語られる少女の風貌やいで立ち

登場人物たちとの関係性

語られるモンタナやワイオミングなどのいくつかの地名をグーグルマップで追いながら

語られる少女の心情は映画のシーンを観ているようで

過ぎた日々を断ち切りI bigin とした終章は「辛くも、悲しくも...  良かったね」と読者に思わせる

少女の成長の賜物

この日本の作家さんの作品ではなかなか味わうことの出来ない重厚感は

貴重な読後感ではあります

 


「コロナと潜水服」奥田英朗著

2022-08-11 12:21:58 | 読書

長いこと図書館で予約待ちしていた「コロナと潜水服」が借りれたので読み始めた

奥田英朗さんは初期のころからほとんどの作品を読んできていつも楽しみにしてきた作家です

奥田英朗作品にわたしが思うところは、総じて文章が巧く読み手にストレス(労力)を感じらせることがなく読み進められるためかなりの長編でも断読が少なくなるので読後感が良いのです

今回の「コロナと潜水服」は5つの短編集ですが、労力を感じることなくすらすらと半日で読み終えてしまいました

読者というのは勝手なもので、読みやすい作品=軽い評価となりがちですが「コロナと潜水服」でわたしが感心したのは物語の面白さはあたりまえとして5つの短編が(起承転結)として全くジャンルは違いながら、笑いがあって、モヤモヤがあって、ほろっとくる...  という読み手の感情を誘う作者の手腕でした