都内には、4.3人に1人高齢者の方が日々生活している。老化に伴い、全ての人が無自覚のうちに、触覚、知覚、視覚が衰えている。そこで、高齢者目線での体験を複合的に行うことにした。是非将来の自分を想像しながら聞いてください。
調査対象地は、渋谷・新宿・池袋などに次いで、1日の乗降者数が、各路線合わせて、約150万人の北千住駅と、
昨年3月に開業した、高輪ゲートウェイ駅です。高輪は、駅前の大きな広場をオリンピックのパブリックビューイングに活用しようと計画されており、また、駅周辺は開発途中であるため、今後利用者の増加が見込まれる駅です。
視覚:高齢性黄斑や、見えにくさを再現する為に、黄色のフイルムをはっためがねを装着する。
触覚:軍手で、感覚を鈍らせる
聴覚:イヤフォンで聞こえずらい状況にする
高齢者の状況再現として、おもりを付け動きにくくする。
また、肘と足の関節にラップをまき、可動範囲器を減らした。
このような重装備で体験しました
朝と夜の時間帯に行う。駅にアクセスし、切符を買い、ホームに行き、電車に乗車するまでを体験する。移動手段として、階段、エレベーター、エスカレーター、手すりやトイレ、売店を利用したりと、計15項目の活動を体験しました。夕方、帰りはあまりの疲れでどこもよらず帰りたいほどでした。行きに、お茶を買ったりすると、時間がかかりました。
まず、駅へアクセスしました。アクセス途中にロッカーがありました。利用する際に可動範囲で不便に感じることがありました。高低差があり,高い位置または,低い位置のロッカーは膝,肘の可動範囲に大きな負担がかかります。体験した体感は低い位置のほうが,膝や腰に負担がかかりました。
負担が少なく利用しやすい高さ位置
高輪では、駅名がJRの駅で唯一、明朝体で書かれており、スタイリッシュである一方、字が細く、見えづらいデザインです。
次に「階段」を利用しました。北千住駅構内には様々な階段が存在しました。
視認性を高める工夫がみられましたが,主に段鼻に溝があるパターンと,段鼻に黒いマーキングがあるパターンの2種類ありました。
弱視の方からみると,黒いマーキングがある方が区別がつきやすいです。
手すり付近には赤と黄色の印がありました。
赤色は黄色眼鏡をかけても判別でき,弱視アプリでは黄色の印の方が判別しやすいです。
高輪の階段は、踏面と段鼻のコントラストが強く、弱視の方も見えやすいデザインでした。
(どこでもそうですが,時間帯:明度比&輝度比と見る角度による影響もあります)
次に「エレベーター」を利用しました。エレベーター入口の周りに情報が多く,わかりにくいです。
エレベーター内部のボタンに多くの情報が文字で説明されていました。全て黄色ベースに黒文字の同じデザインのため,見えづらいです。
また,エレベーターを降りてから,ホームの椅子までの位置がかなり遠いです。
高輪のエレベーターは、2方向開閉式で、車いす利用者が方向転換しなくても、乗り降りできるつくりとなっていました。中に車いす用の鏡がついており、またホームにてエレベーターを降りた735cm先の動線上にベンチがありました。
「エスカレーター」を利用しました。エスカレーターの黄色の枠線は高齢者からみると白く見えますが,黒と差別化できているため,利用には困ることはありませんでした。
疲れているときにエスカレーターを利用することは降りるときが大変であり,事故につながるリスクがあります。
■高輪のエスカレーターの速度は、高齢者が使うには、このように早く感じました。私はこの日の朝、寝不足でとても疲れていたためか、朝の方が早く感じました。
(周囲の人流:群衆流動の状況によっても,体感速度や歩行ペースの自由度は大きく異なります)
次に「切符」を買いました。-1-2-傘の柄をストップさせるものがないため,傘を落としやすいです。
高輪も同様に、杖置きがなく、杖が倒れます。
触感の低い高齢者は、小銭やお札が非常に数えづらいです。また腕があげにくく、モニターのタッチパネル上部まで腕を上げることができません。
タッチパネルは、ボタンとは違い、直感的な操作ができず、画面に表示される情報を視覚で得ながら、操作します。同時に、音声ガイドや警告音等が鳴り響くため、情報量が多く、混乱しました。
次に、「改札」を通りました。suicaでの改札利用は周りの音が大きいことに加えて聞き取りにくいため,suicaが反応しているか確認しにくいです。ディスプレイを大きくするなど,視覚的に確認できるとよいと思います。
改札は北千住と同様、■このように、改札ゲートの音が聞き取りにくいです。
電大の大階段に比べて,駅の連絡通路の手すりの直径は大きく,つかみやすいです。
高輪の駅構内には手すりが張り巡らされています。手すり裏が照明となっており、夜は、構内全体をふんわりと照らしています。
次に「トイレ」の利用です。加齢黄斑変性により,視界が黄色く濁ります。そのため,多目的トイレが緑色は,青色に見えることを体験しました。また,カラーは彩度が高い色に対して白抜きであるため,文字も見えづらいです。女子トイレの赤の近辺にあるに加えて,実際の男性トイレは離れたところにあります。そのため,多目的トイレを男性トイレと見間違えてしまう恐れがあります。
トイレは全てがフラットで、アプローチ部分は280cm×165cmの広さがあります。横幅が広いため、トイレ利用後にホームへ向かう際、外の休憩イス利用者とパッと目線が合うのが少し気になります。
多目的トイレも駅構内と同様の床仕上げで、地続きになっていました。
ベビーベッド脇に開閉ボタンがあるため、ベッドの上で荷物をごそごそしていると、多目的トイレの扉が開いてしまいました。
トイレのマークは白く、また細いため、弱視アプリでみると、マークが消えてしまいます。
次に「売店」で買い物をしました。高い位置にあるものを取ろうをすると,腕を持ち上げることが大変です。また,照明が眩しく感じました。
高輪の売店は特徴的で、完全無人の売店となっています。■このように、お店に入ります
中に入ると左手に進み、そのまま、時計回りでぐるっとまわり、セルフレジへ到達する動線になっています。
動線案内は「STOP」「GO」「CHECK」と、スタイリッシュな英文字で書かれていました。初めて利用する売店だったので、そこそこ英語に日常的に親しんでいる私でも、動線を認識するのに、数秒かかりました。よって、高齢者にとってはさらに、認識しづらいと考えます。
売店の棚は一番上の段が170cmの高さにあり、重りと関節ラップで可動範囲が狭まっていると、手が届きません。
一方で、お酒コーナーの最上段が高さ140cmで、この高さなら、無理なく商品に手が届きました。
完全無人のセルフレジは、自分のペースで金銭授受が出来る一方で、モニター画面から視覚的に多くの情報を得ることで、やっと操作ができるので、利用には、慣れが必要だと感じました。
次に「窓口」の利用です。
高輪では、窓口へ■このようにアクセスします。窓口のデスクに駅員さんは常駐しておらず、自動ドアの開閉音を合図に、駅員さんがデスクへやってきます。
デスクの高さは110cmあり、腰が曲がった高齢者にとっては、駅員さんと目線が合わせづらく、会話しづらい高さとなっていました。
次に「ホーム」を歩きました。健常者は,ホームが見やすいことに対して,黄色眼鏡をかけて利用すると,照明位置や,照明の数により眩しく感じました。
高輪の照明は、全体的にふらっと柔らかく、暗めです。黄変した視界には、見えやすく感じました。
次に,「椅子」に座りました。高齢者体験をして可動範囲からみると49cmが負担がかかりにくい感じました。実際に高齢者の方も49cmで座っている様子が伺えました。
高輪には2種類の椅子があり、改札階トイレ前の椅子は、座面高さが約80cmで、座る・立つがしやすかったです。
一方ホームの椅子は、座面高さが40cm程度で、椅子の両端に手すりがなく、座ったり、立ったりが、大変でした。
次に「電車」に乗りました。
乗る際にオレンジのラインが引かれていたため,ホームの端の位置が確認でき,安全を確保できました。降りる際も印があったため,降りやすいです。
高輪は、転落防止ガードがあります。電車とホームはほとんど段差がなく、隙間はわずか7cmで、私が普段利用している地元駅などに比べて、格段に乗り降りしやすかったです。
次に「乗り換え」をしました。駅を利用する上で特に視覚で困ることが多くありました。情報が多く飛び交う北千住駅で乗り換えの際,どこに行っていいのかを探したときに,案内を見ると,文字が小さくみえづらいです。また,広告が多いため,情報が多くなっています。
階段を利用しながら案内板を見ることは困難で危険です。そのため,階段を上り終えたあとに確認しようとしても見えなくなってしまいます。
高輪は、何番線かをしめす文字が、白く、弱視アプリでみると、マークが消えます。
また構内の床は、黄色味を帯びており、同様に、白味が強めの黄色い点字ブロックは、弱視アプリで消えます。
(方向指示ブロックのサイドが経年変化で明度が落ちてくると,さらに消えて見えるようになります)
北千住での困り事をまとめると、視覚的な問題が多いことがわかりました。北千住駅は1つの構内に多くの線路が存在するため,案内に困ることが多いです。いかに,取捨選択して,重要な情報を利用者,高齢者に伝えることが必要です。
高輪は、文字や色彩デザインによる困り事や、タッチパネル式モニター画面による、情報量の多さや、高さ設定など、構内環境による困り事と、
杖置がない、手すりがない、といった、そもそも必要なサポート設備がないことによる困り事のふたつに分類できました。
次に、私たちは、これら駅での15個の体験をもとに、
それぞれの体験について、視覚・聴覚・触覚・可動範囲と、4つの感覚別に、
このように、0:特に困ることなし、1:状況による、2:不便だ、3:苦痛だ、と、困り度のランクを設定して、グループで話し合いながら、各体験の、困り事を、数値化しました。
北千住では、このように、数値化しました。全体的に視覚による困り度が高い傾向が伺えます
これらを,全体の分布で示したときに,
視覚での苦痛や不便の多さが,より分かります。
可動範囲に関しては朝と夜で疲労感もあり,1:状況によっては不便が生じる、活動項目が多くなりました。
高輪ではこのように評価しました。全体的に、聴覚での困り度数が高い傾向にあります。
分布をみると、
聴覚による【3:苦痛を感じる】項目が、全活動項目の約半数を占めました。
また、2駅を比べてみると、
北千住で、視覚への苦痛が最多である一方で、
高輪は、視覚への不便さはあるものの、苦痛が生じるレベルの活動項目はありませんでした。
しかし、北千住とは対照的に、聴覚の苦痛が多くなっています。
多くの線路が存在する北千住駅。多くの人が利用し,多くの情報が飛び交います。そんな中,そもそも高齢者はただその場所にいるだけ,または,行きたい線路のホームに行くだけで大変つらい思いをします。
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利用箇所ごとにバリアフリーがある一方で,多くの情報が混在し,文字の羅列等で重要な情報が入手しにくい状況です。
また高輪は、そもそも、何もしなくても、ただいるだけで、耐え難い、耳への苦痛を感じる環境にあります。それは、駅構内が一体空間となっており、非常に視認性が高く、わかりやすい一方で、
発着アナウンスや、音声ガイド、電車の走る音、なとが常にわんわんと、混じり合い、響いており、それに強い苦痛を感じます。
50年後の私たちは,このような環境で,まだ,過ごしているでしょうか。
まとめると、北千住では、乗り入れ路線の多さによる、視覚的な情報入手のわかりにくさ、高輪では、駅の空間的特徴による、聴覚への苦痛があることがわかりました。