1969年の夏、ハーレムで行われたもうひとつのウッドストックがあった。今回の映画は日の目を観なかったブラックミュージックに燦然と輝くフェスティバルの全貌を蘇らせた「サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)」を観てきましたのでご紹介します。
1969年のアメリカは公民権運動の渦の中でカウンターカルチャー史に輝くウッドストックフェスティバルが開催された年です。フェスティバル未経験の若者たちのよりニューヨーク郊外で開催されたフェスティバルがジャニス・ジョプリンやジミ・ヘンドリックスなど当時の人気ミュージシャンの参加と無料コンサートに変更したことで全米各地から60万人の若者が集まり、今も伝説のフェスティバルとして語り継がれています。
当時はキング牧師やマルコムXなどによる公民権運動に加え、彼らを支持したケネディー大統領の暗殺、弟のロバートの暗殺事件に加えベトナム戦争が勃発するなど権力との対峙が激しい時代でした。そうした時代背景があってウッドストックは、当初の予想を超えるものへと発展したことは明らかです。
ウッドストックが行われた1969年の夏にウッドストックより先に、そして人種差別撤廃の理念のもとに行われたブラックミュージックの祭典がハーレムの野外公園で行わました。ハーレム・カルチュアル・フェスティバルと題した祭典は6月29日から8月24日まの6回の日曜日に無料開催され延べ30万人を数えるフェスティバルでしたが、黒人差別が色濃く残る時代にあってウッドストックの陰に隠れ、主催者であるハル・トゥルティンの自宅に記録フィルムは眠ってしまいます。
今回の映画は、その記録フィルムを基に当時の出演者や観客の証言を加えて構成され、ヒップホップ界の重鎮、クエストラブが監督しアメリカで重要なフィルムフェスティバル「サンダンス映画祭」で上映されるや観客賞、審査員賞大賞を受賞しています。
出演者は若き日のスティーヴィー・ワンダー、ブルースの王様、B.B.キング、日本でもおなじみの黒人ポップグループのザ・フィフス・ディメンション、ゴスペルの女王スマヘリア・ジャクソンにステイプル・シンガーズ、、モータウンのグラディス・ナイト・アンド・ザ・ピップスにウッドストックに出演した黒人&白人混合バンド、スライ・アンド・ザ・ファミリー・ストーン、マルコムXとも親交があった黒人女性運動家でもありブラックミュージックのアイコンでもあったニーナ・シモンなど、ゴスペル、ブルース、ソウル、アフリカンミュージックなどブラックミュージックの歴史と今が集結した夢のような祭典です。今回ドルビーシアターで鑑賞しましたが、映像フィルムの美しさと音質は、ウッドストックの比ではありません。貴重なフィルムを保管しいつか世に出ることを願ったトゥルティンに敬意を抱きます。
そして、膨大な記録フィルムは当時のブラックカルチャーを反映し歴史の証言となっています。そこにはサブタイトルにあるように革命がテレビ放映されなかった時代を反映してます。監督であるクエストラブは現在のアメリカの黒人に対する差別と同じ空気を感じたそうで、このドキュメンタリーが高く評価される一因でもあります。
この映画は黒人の暗黒史に一筋の光明となる重要なドキュメンタリー映画となるでしょう。その音楽と共にソウル・魂をぜひ感じてください。