私が、ある劇団で制作の仕事をしていた時のことだ。
モルタル2階建ての建物は、以前は病院だったそうだ。
それが、稽古場となっていた。
私のいつもいる事務所は、その向かい側の3階建ての2階にあった。
劇団と云っても、
夕方になると、仕事終わり学校帰りの若者たちが集まってくる。
そういう劇団だ。
日曜祭日ともなると、朝から大勢の若者であふれた。
況してや劇団の公演が決まるとその稽古で、一日中活気にあふれていた。
そんな稽古場も、夜9時には戸締りをしなければならない。
「時間だ」
私は同僚と、稽古場の点検戸締りに向かった。
活気に溢れた稽古場には、まだ若者たちの熱気が充満している。
「じゃ僕は上を見るから、下を見といて」
そう言って私は、2階の一番奥の稽古場から順に点検をしていた。
出口へ真っ直ぐに向かう階段、その2階の正面がトイレになっている。
私は最後にそこに入った。
すると窓が開いてるではないか、
窓は一番奥にある。
「しょうがないな」
ひとりごとを言いながら私は、窓を閉め始めた。
その時私の耳元で、男の声が聞こえた。
あざけるような低い声で笑ったのだ
階下に居るはずの同僚が、いたずらに来たと思って
逆にびっくりさせてやろうと思い、私は振り向きざまに
「わ~」っと大声を出した。
しかし、居るはずの同僚が居ない。
蒸し暑い夏の夜、
私は、一瞬にして体中が凍りつくのを感じた。
立ちすくんでいると、
下から同僚の声が聞こえてきた
「どおした~」
その声でやっと金縛り状態が解けて、
私はトイレから飛び出していた。