Recording Studio Akima~♪

大好きなギターと大好きなカメラを使って、オリジナルやカバー曲の音楽動画をおもむくままに投稿しています。

異空間との接触 3

2023-01-06 | ギター

劇団の専属脚本家の多嶋は、この秋の公演に向けて構想を練っていた。

劇団員たちはすでに皆引き上げて、多嶋ただ一人だ。

この深夜の静寂が多嶋の構想する時間の後押しをするはずだった。

だが何故か今夜は、アイディアが空回りする、

ストーリー展開の歯車が合わない。

耳鳴りが気になり始めていた。

「疲れてるのかな」

ゴルフクラブを手に、外へ出てスィングをしてみた。

少しは気分転換になったようだ。

心地よい汗をぬぐいながら多嶋は、階段を上がり始めた。

 

以前病院だったこの稽古場の階段は、木造だ。

一足ごとに軋む階段

使い込まれたそれは、角が取れて歴史を感じる。

スウィングのおかげで脚本のシナプスは、はかどった。

 

一区切りついた多嶋は、傍らのワインに手を伸ばした。

買いためたボジョレヌーボーは

階下の受付に使用している小部屋の隅の棚に、何本も隠してあった

「もう一本持ってくるかな」

多嶋は、打合わせ用の固いソファーから立ち上がった。

多嶋専用の部屋は、2階へ上りきった階段のすぐ左側にある。

要するに多嶋の部屋は斜め向かいの例のトイレに面しているのだ。

 

だが、今夜の異変はトイレではなかった

階下から、ゆっくりと誰かが登ってくる気配がする。

階段の軋む音がしだいに近づいてくる。

多嶋はゴルフクラブを手にしていた。

侵入者を威嚇しようとしていたのだ。

多嶋の左手はドアノブへ、

ドアは思いっきり開けはなたれ、階段上がり框にむけ上段に構え

多嶋はゴルフクラブを、振り下ろす・・・

までもなかった。

そこには、だれも居なかったからだ。

 

その後、多嶋が部屋に戻るたびに、登ってくる軋む音が、絶えたのは、

空が白みを帯び、夜が明けるころだった。

 

 

姿の見えぬものの為に多嶋は一睡もできず、

脚本の執筆も進まぬままだった。

 

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