{このシリーズは、ストーリーが番号順に展開していません}
私と同じ方向を向いて、ずっと黙っていた彼女が口を開いた。
「ねえ。 わたしと、ギターと どっちが大切なの?」
突然の質問で私はおどろいたが、私の口は即座に反応していた。
「お前に決まってるだろ!」
彼女の笑顔を期待して、すでに彼女へ向き直っていた私の見たものは、
彼女の落胆の表情とため息一つ。
その理由は後で知ることになる。
一週間後、私は彼女に呼び出された。
私はいつものデート気分で、
池袋東武・地下一階の沢山連なるテレビ・モニターの前で待つ彼女を想像しながら、地下街をあるく。
いつもは待ち合わせ場所に余裕をもって先に着いて待っている私だが、
その日は約束の時間が迫り、いつもより心がせいで
行きかう人々を縫うように、私は地下街に歩みを進めていた。
そして、いつもと何かが違う、胸騒ぎのようなものを感じていた。
テレビ・モニターの連立する向かい側に彼女はいた。
その隣には、私と同年代の細身の若い男が寄り添うようにして立っている。
なんだ、あいつ?
と思いながら、私は彼女へ一直線に向かって行った。
「早く着いたんだね」
と、声をかけると、彼女はうなずいて、
「・・・・・・・わたしの彼、紹介するわ。」と言いながら、隣の細身の若者の腕にすがった。
私はとっさに状況判断がつかず、口ごもった。
「・・・・・・OO大学3年のYuujiといいます」
何?
私の後輩?
「なに・・・ 解らないんだけど。」と、私はやっと口にした。
彼女は思念をはらいのけるようにして、言葉を口にした。
「あなたとは、もう終わりって云う事・・・・・・この人を好きになったの・・・・・それを伝えたくて、呼んだの。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「それだけ!」 「じゃあね!」
と言って、彼女は男の腕にしがみついたまま去ろうとする。
「まてよ!!」
新しい彼氏とやらに私が言った
「おまえは、こいつと付き合うんなら、幸せにする自身はあるんだろうな!」
なんで私はそんなことを言ったのだろうか・・
そして、私は男の胸ぐらをつかんだ。
「おまえな! 男らしく自分で言えよ! 『俺が彼氏だって』 」
と低い声ですごむ自分がいた。
その時、小柄な彼女からは想像もできないほどの勢いで、
「やめて!!」
と言って、私の前に割って入り、彼女は男の腕を取り、即座に地下街の雑踏に紛れて行った。
ボー然と立ち尽くす私。
どこかで、 こんなことが、 あったような・・・
遠い記憶がよみがえってきた。
連続する小ぶりで多数のブラウン管モニターは、今はもうない。
本当の理由を知ったのは数年後になるが、
あれは、彼女の芝居だったそうだ。
ドラムのSAKAEから聞かされた話は、こうだった。
バンドがメジャーデビューへのみちを一歩踏み出したころの私は、
彼女に夢中だった。
彼女は、自分が私の夢の妨げになると思い込み
思案の挙句にあの行動に出たそうだ。
SAKAEは、それを知りながら様子を見ていた。
彼女に相談されていたと云う。
なんてこった!!!
これで短編ドラマは終了です。
ありがとうございました。
過去に投稿したものに加筆変更しました。
書き加えている時に
「なんて日だ!!!」
を思い浮かべて気になりましたが、
お笑い芸人さんの「なんて日だ!!!」を真似したのではありません。