(このストーリーは№順に展開していません)
彼女はすでに二階の映画館入り口に立っていた。
「じゃ、どこで話をしようか。」
「話は簡単だから、歩きながらでいい?」
「いいよ」
どちらからともなく
渋谷駅に向かう通路の方へ歩き出す二人。
「あのね、お願いがあるの。今日だけでいいから、わたしの彼氏になって一緒に行ってほしいところがあるの。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!?」
なんてこった!
私の頭は爆発するのではないかと云うほどの妄想で、一気に膨れ上がった様に感じた。
しかも、私の胸は、ばふばふと音を立ててさらに多くの血液を私の脳に送り出す。
気が遠くなりながら、何とか意識を保った私は、
一瞬にして妄想の世界へ入り込んでいた。
私は、渋谷駅南口の雑踏のただなかにいた。
しかも、彼女は私の腕にすがりついている。
行きかう人々は煩わしそうに私たちをよけて、通り過ぎる。
次の瞬間私たちは、スーツ姿の数人の男たちに取り囲まれていた。
複雑に行きかう人々の流れから、私たちに好奇の視線が放たれている。
私の前に立ちはだかる長身の男に向かって、私は彼女と打ち合わせた通りに言った
「彼女と別れてくれ!」
精一杯すごんで見せたが、私の口の中は乾き切っていた。
「なに言ってんのお前」
と言いながら男たちの中の一人が目前に迫り
右手が私の胸ぐらにのびてきた。
「やめて!!」
人々の足を止めるほどの大きな声が、ぼくの斜め後ろに寄り添う彼女から聞こえた。
私は彼女のすごい力でうでを引っ張られながら
人々の間を縫うように渋谷駅構内の雑踏に溶け込んでいった。