その和太鼓は異様な迫力を放っていた。
それは石川県にある。
少年は少女に想いを寄せていた。
まだ豊かな自然に囲まれた昔、二人は幼いころから自由に山野を駆け回った。
少女は屈託のない笑顔で笑い、少年は得意の太鼓を時折披露したりして毎日のように時を共に過ごしていた。
あるとき、海で遊びたいという彼女をつれて二人は海へ来た。
少女は沖に出ているうちに、あっという間に波にさらわれはるか遠くに流されてしまった。
少年は何度も助けを試みようとしたが、やがて日は落ち、見えなくなった。
少女は視界から消えてしまった。
数日がたち、以来少年は憑かれたように太鼓を叩くようになった。
村の人は少年が狂ったのだと思い、気の毒にと噂した。
太鼓はやがて破れ、少年は自分で太鼓を作るようにさえなった。
作っては破れ、作っては破れ、それでも少年は太鼓を作り続けた、そしてその大きさは作りかえる度にどんどん大きくなった。
数年が経ち、あるときついに太鼓は少年の背丈をゆうに超え、とてつもなく大きくなった。
こんな大きな太鼓どうやって叩くのだと聞くと、少年は太鼓を見つめたまま一言だけ
「大きないと聞こえんのや。あいつには」
と言った。
少年はそれからも太鼓を叩いては破り作り続けたが、その数年後、流行り病にかかりあっけなく死んだ。
太鼓だけが少年の心を宿したようにそこに残った。
大きくなりすぎた太鼓は、村の誰もろくに叩くことができなかった。
さらに長い長い時が経ち、この大太鼓を見事に叩くことができれば、それを聞いた女神が村にとてつもない幸運をもたらすという信仰めいたものに変わっていった。しかし大きすぎる太鼓は、そんなことは起こり得ないとでも言わんばかりに村の保管庫に威厳をたずさえて佇んでいた。
2013年夏。
大阪から一人の男が来た。
男は吸い寄せられるようにこの地に来た。
名をブラッドピットットといった。
彼は太鼓を見たいと言い、保管庫で大太鼓と対峙した。
小さな村ではあっという間に噂が駆け回り、倉庫には村人が押し掛けピットットの周りを取り囲み固唾を飲んだ。
ピットットは太鼓を見上げ、一言ぽそりと言った。
「夢に急に出てきた少年とある約束をしたんで。叩かせてもらいますわ」
以下、その時村人が偶然撮影した1分27秒の衝撃映像である。
たぶんアイホンで。
※この物語はフィクションです。
それは石川県にある。
少年は少女に想いを寄せていた。
まだ豊かな自然に囲まれた昔、二人は幼いころから自由に山野を駆け回った。
少女は屈託のない笑顔で笑い、少年は得意の太鼓を時折披露したりして毎日のように時を共に過ごしていた。
あるとき、海で遊びたいという彼女をつれて二人は海へ来た。
少女は沖に出ているうちに、あっという間に波にさらわれはるか遠くに流されてしまった。
少年は何度も助けを試みようとしたが、やがて日は落ち、見えなくなった。
少女は視界から消えてしまった。
数日がたち、以来少年は憑かれたように太鼓を叩くようになった。
村の人は少年が狂ったのだと思い、気の毒にと噂した。
太鼓はやがて破れ、少年は自分で太鼓を作るようにさえなった。
作っては破れ、作っては破れ、それでも少年は太鼓を作り続けた、そしてその大きさは作りかえる度にどんどん大きくなった。
数年が経ち、あるときついに太鼓は少年の背丈をゆうに超え、とてつもなく大きくなった。
こんな大きな太鼓どうやって叩くのだと聞くと、少年は太鼓を見つめたまま一言だけ
「大きないと聞こえんのや。あいつには」
と言った。
少年はそれからも太鼓を叩いては破り作り続けたが、その数年後、流行り病にかかりあっけなく死んだ。
太鼓だけが少年の心を宿したようにそこに残った。
大きくなりすぎた太鼓は、村の誰もろくに叩くことができなかった。
さらに長い長い時が経ち、この大太鼓を見事に叩くことができれば、それを聞いた女神が村にとてつもない幸運をもたらすという信仰めいたものに変わっていった。しかし大きすぎる太鼓は、そんなことは起こり得ないとでも言わんばかりに村の保管庫に威厳をたずさえて佇んでいた。
2013年夏。
大阪から一人の男が来た。
男は吸い寄せられるようにこの地に来た。
名をブラッドピットットといった。
彼は太鼓を見たいと言い、保管庫で大太鼓と対峙した。
小さな村ではあっという間に噂が駆け回り、倉庫には村人が押し掛けピットットの周りを取り囲み固唾を飲んだ。
ピットットは太鼓を見上げ、一言ぽそりと言った。
「夢に急に出てきた少年とある約束をしたんで。叩かせてもらいますわ」
以下、その時村人が偶然撮影した1分27秒の衝撃映像である。
たぶんアイホンで。
※この物語はフィクションです。
涙が溢れましたー(*^^*)