The Alan Smithy Band

The band is on a mission.

有田さんと林田さん

2012年01月18日 | ASB活動日誌
朝、私ひで氏は毎朝ほぼ同じ電車に乗る。そして乗り換えの時も同じルートを辿る。
私の乗る大阪の地下鉄の、C線からM線に乗り換える時の距離が結構あるのだが、通勤を経験している人はほとんどそうだと思うが皆自分なりの最短ルートを持っている。余談だが主要駅に時折貼ってある「乗車位置案内」(乗り換えの位置や各駅までの所要時間はもちろん、扉の開閉サイド情報まで書いてあるヤツ)はすごすぎる。あれはザ日本という感じがする。

さて私の場合。C線からM線に乗り換えるこの駅は大きな駅なので、乗り換え先のM線の乗り場に行く為のルートがいくつもある。
ほとんどの人がエスカレータのあるルートに行くのだがこういうとき出来るだけ人が少ない方を好む私ひで氏は一番マイナーなルートを通る。
そのルートは階段のち短めのエスカレータを通るのだが、上がり切った所で最終ストレートが約50メートルほど伸びており、その50メートルを歩く眼下には乗り換え先のホームが並行に走っている。50m歩く間にいくつか降りるポイントがあるので、階下の状況を見ながら電車が来れば必要に応じて降りる事が出来るというなかなか華麗な道順である。

そのストレート50mの途中左手に、ベンチがある。

かれこれもう半年以上、ここに毎朝同じ中年女性二人が座っている。年の頃、50代後半といったところか。
遠くから近づいてくる、いや正確には自分が近づいて行ってるのだが、見るとずーっと何かを話している。
朝の何時からそこに座っているのかはわからないが、すっかり落ち着いて話し込んでいる様子だ。それが毎日。

自然と名前がついた。片方の細身で早口の女性はきっと有田さん、そしてもう一人のおっとりとした女性は林田さん、だと思う。いやそうあって欲しい。
それが私のイメージだからだ。

会話をリードしているらしいのは常に有田さんだ。
林田さんは聞き上手。

彼女達の横を私ひで氏が通るのはせいぜい1秒か。
朝の1秒、平日毎日聞き凝らしてもわずか5秒分の言葉。
いつしか私はこの1秒に全身全霊をかけて耳に入ってくる言葉を拾う習慣がついてしまった。

とりわけこの3日間、いつもに増して神経を研ぎすまし聞く事にした。
連続で聞こえた言葉をつなげてみれば、あるいは、彼女達がこれほど長期に渡って情熱的に話すそのヒントを感じることができるかもしれない。
毎日違う話をしていれば意味もないかもしれない、でもそれは同様に、すべて繋がっている可能性もあるということだ。

そこで拾った言葉がこれだった。

「恭平ちゃんはあそこまではしたらあかんかった。。。」

「バイクの音が余りにもうるさい言うてご主人が。。。」

「なんぼ綺麗や言うたかてわからへんやん整形してることかてあるわけやんか。。。」


推測するに

「いい年にもなって親戚の恭平ちゃんは身も固めず未だに愛車のハーレーダビッドソンを住宅地の中で空ぶかし。あまりの騒音に耐えかねたお隣の木島さんのご主人がたまらず抗議のため訪問。しかしそのとき恭平ちゃんはツーリングに出る直前。怒り心頭の木島さんに対してそれは申し訳ない事をしたと謝る恭平ちゃんの横でサイドカーに乗ってジッとたたずんでいた仲間と思われる人が不意に立ち上がりヘルメットを脱ぐと現れたのは長髪の美人。美人にジッと見つめられ拍子抜けしてしまった木島さんは「ま、まぁ、ハーレーやから」と否定とも肯定ともつかぬ意味不明の捨て台詞をして家に帰るなり奥さんに、隣りのハーレーのあいつがえらい美人を連れとったと妻に報告。妻は、美人を見た途端文句も言えず戻って来た骨抜きの夫のふがいなさを電話で友達の有田さんに報告。有田さんはいくら美人でも整形美人かもしれない、そのヘルメットから長髪がふぁさっと出たのが重要だったのだ、だから今度ご主人帰ってくるときあんたも食卓でヘルメットかぶって座っとき、とアドバイスした」

という話を林田さんに語っていたのだと思う。

だから。。。だ。そら毎日聞きたいわ。

こんな話をされたら確かに続きが気になって仕方がない。翌日仕事に疲れて帰って来た木島さんが「おい、メシ」とリビングのドアを開けたときフルフェイスのヘルメットを被った妻が間接照明の下たたずんでいたら戦慄するだろう。

いつしか自分も有田さんの話術にはまっていたのだ。。。。!

そして今日、同じようにこのストレート50mにさしかかったとき、

なんとそこには二人の姿はなく、代わりに20代の女性が二人座って話していた。熱っぽく語っていた。
ついにSFに突入したのかと思うぐらい、まるで40年前の二人を見るようだった。

何か繋がりがあるような気がしてやはり聞き耳を立てて横切った。

「会った事なくても、申請してる時点で友達は友達やんか。。。」

と聞こえた。

若くなった有田さんは、ソーシャルネットワークにはまっているようだ。

若かりし頃の林田さんも、いつもと同じ様にうんうんと頷いていた。


何か安心して、私はM線のホームに降りて行った。




















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