スペインサラマンカ・あるばの日々

スペイン語留学の街、サラマンカより、地元情報とスペイン文化、歴史に関する笑えてためになるコラムをお届けしています。

ねずみとおうさま~ペレスねずみを探して(1)

2016-09-04 00:24:55 | スペインがお題のコラム

子供の頃、乳歯が抜けるとどうしてましたか?



「上の歯は屋根へ放り投げ、下の歯は軒下に埋める」というのが
日本の割とスタンダードな伝統らしい。

わたしの場合、
「ペレスねずみさんにお手紙を書き、一緒に抜けた歯を入れて枕の下に入れて寝る。」
でありました。翌朝、歯のお礼に小さな贈り物が置かれているとのこと。

当時夢中になっていた本の1つに、この「ねずみとおうさま」(岩波の子どもの本)があった。
1度気に入るとしつこい子供だった自分、母や姉にせがんで何度も、何度も読んでもらってた。
上記の話は、この本で知った話だったのだ。

またしつこい上に、実に純粋というか、何でも信じやすい子供だった自分。
(“サンタクロースさんは実は…”という現実さえ、もうがっかり傷ついて受止めたのを覚えてる)

というわけで、このねずみ本の言うことをすっかり信じきった自分、こっそり(のつもりだった、本人は)
つたないヒラガナで手紙を書き、ついでにペレスねずみの似顔絵までプレゼントのつもりで入れて、
抜けたばかりの乳歯と共に枕の下に入れる。

そして翌朝…なんとペレス氏からのお返事が!
お手紙を小さなプレゼントを枕の下に見つけた時の驚き!

薄い便箋に震えた文字で“歯をありがとう”云々の結構長い内容。
何のプレゼントだったのかは覚えてないけど、その手紙が嬉しくて、パジャマ姿で何度も
読み返し、はしゃいで家族中に自慢したものだ。

(“ほんとに来たんだねぇ…はは”と結構冷たい反応の家族。今考えたら彼らの仕業だったんですが、
子供の自分はもうムキになって“本当にいるんだよっ!ペレスさんはっ!”と怒鳴って主張してたなぁ…)

http://kohitujibunko.com/wp-content/uploads/2015/04/2015k10.jpg

あらすじをものすごーく簡単にすると…

昔、すぺいんという国に、ぶびという名の幼い王様がいました。
ある時1本の乳歯が抜けた王様は、お母様にそれを枕の下に手紙と共に置いて
休むことを教わります。そうするとペレスねずみがやってきて、歯と交換で贈り物をくれるというのです。

その夜目を覚ましてペレスねずみに会った王様。ペレスが話す、知らない王宮の外の様子などに興味を引かれ、
彼に頼み込み、魔法の力でねずみに姿を変えてもらって共に王宮を抜け出します。

街中の冒険のはじまり!しかしそこでみたものは、自分と同じ年頃の子供らが貧しさ、飢えを耐え忍ぶ様子。

この国の王である自分…皆が神の元に兄弟であり、そのうちの兄であるとお母様に諭され、
自分の王位を自覚し、後に立派な王様になったということです。

初版1953年。あの著名な児童文学作家・翻訳家、石井桃子氏訳。乳歯の抜けた子供に聞かせる童話として
重宝するのもあってか、なんと今でも販売されているロングセラー童話本なのだ。



「枕の下に置いた抜けた乳歯と手紙をねずみが取りに来る」という話は、実はこの童話が起源ではない。
ヨーロッパを中心に欧米の広い地域で、また中南米ほぼ全域で、ねずみの名前は変わるものの、
この言い伝えは見受けられる。ねずみの歯は生涯伸び続けることから、歯の健康を祈って…との結びつきも考えられる。

ペレスねずみの起源を、17世紀末から見られたフランス、妖精物語ブーム中にみるという話もある。
オーノア夫人という人気作家の書いた、La Bonne Petite Sourisという、ねずみに化けた妖精が枕の下にひそんで、
悪行尽きぬ王の歯を魔法でぼろぼろ落としめた…という童話が起源では?という人もいる。
(この同時期、有名童話作家ペローがいる)



しかしながら、ペレスねずみの起源はスペインなんだ。

岩波本にある原作者「コロマ神父」というのはルイス・コロマ・ロルダン(1851-1915)
という、記者、作家としても活動した、アンダルシア出身のイエズス会の会士/神父。
1894年、時の…というか生まれた時からスペイン国王のアルフォンソ13世、当時8歳。

この“小さなおうさま”の乳歯がお抜けあそばりし時にあたり、何かお聞かせできる道徳童話を…
との発注を王宮から受け、この「ねずみとおうさま」なる「ラトン・ペレス(ペレスねずみ)」を
献上したといわれる。(諸説あるもののこれが一応公式定説…)

コロマ神父は、もちろん神父なので、単に“枕の下に入れとくと、プレゼントもらえるよ!おわり”
とはならなかった。この小さなおうさまが社会というものに目を向け、キリスト教徒らしい慈悲の
心を忘れぬ、りっぱな国政を将来なされますように…との童話を書き上げた。

結構現実味を入れるのに、ペレスねずみの棲家は「マドリッド、アレナール通りの8番のプラッツ食品店」。

https://2.bp.blogspot.com/-3sbEffd5gZM/V0F9k59S3sI/AAAAAAAADFk/QsCzcowX-YIJTzPHcwdkeBi4G3vrXKdcgCLcB/s1600/4%2Bconfiteriaprast.es%2Bsobre%2B1905.JPG

アレナール通りといえば今でもマドリッドのど真ん中繁華街。もちろん王宮も近い。
当時プラッツは各地各国の食品そして菓子を網羅し、大変豪奢な内装を自負、当時の人気小説にも
その名が出る程だった。(残念ながらお店現存していない。建物内に唯一ペレスねずみ像があるのみ↓)

http://leyendasyfabulas.com/wp-content/uploads/2015/01/estatua-ratoncito-perez.jpeg

https://secretosdemadrid.files.wordpress.com/2012/09/ratonperez21.jpg

同じ建物内に「ペレスねずみ博物館」があるけど…まあ微妙だろう。

そして…この童話が書かれてから100年以上経ち、
子供たちは相変わらず、歯が抜ける度にペレスねずみに手紙をせっせと書き、
夏休みの時期はペレスねずみのお芝居、映画が繰り返し上演される。

あの遠い昔、このねずみの童話を書いた人、ルイス・コロマ、
Resultado de imagen de luis coloma

そしてお話をプレゼントされた「ブビおうさま」=アルフォンソ13世
はどうしちゃったのかね~続く(…がんばる…)

(ブビ国王(かわいい)。1911年発行の本より。原本はセルバンテス協会バーチャル図書館で無料閲覧可能。)



最新の画像もっと見る

コメントを投稿