子供の頃、乳歯が抜けるとどうしてましたか?
「上の歯は屋根へ放り投げ、下の歯は軒下に埋める」というのが
日本の割とスタンダードな伝統らしい。
わたしの場合、
「ペレスねずみさんにお手紙を書き、一緒に抜けた歯を入れて枕の下に入れて寝る。」
でありました。翌朝、歯のお礼に小さな贈り物が置かれているとのこと。
当時夢中になっていた本の1つに、この「ねずみとおうさま」(岩波の子どもの本)があった。
1度気に入るとしつこい子供だった自分、母や姉にせがんで何度も、何度も読んでもらってた。
上記の話は、この本で知った話だったのだ。
またしつこい上に、実に純粋というか、何でも信じやすい子供だった自分。
(“サンタクロースさんは実は…”という現実さえ、もうがっかり傷ついて受止めたのを覚えてる)
というわけで、このねずみ本の言うことをすっかり信じきった自分、こっそり(のつもりだった、本人は)
つたないヒラガナで手紙を書き、ついでにペレスねずみの似顔絵までプレゼントのつもりで入れて、
抜けたばかりの乳歯と共に枕の下に入れる。
そして翌朝…なんとペレス氏からのお返事が!
お手紙を小さなプレゼントを枕の下に見つけた時の驚き!
薄い便箋に震えた文字で“歯をありがとう”云々の結構長い内容。
何のプレゼントだったのかは覚えてないけど、その手紙が嬉しくて、パジャマ姿で何度も
読み返し、はしゃいで家族中に自慢したものだ。
(“ほんとに来たんだねぇ…はは”と結構冷たい反応の家族。今考えたら彼らの仕業だったんですが、
子供の自分はもうムキになって“本当にいるんだよっ!ペレスさんはっ!”と怒鳴って主張してたなぁ…)
あらすじをものすごーく簡単にすると…
昔、すぺいんという国に、ぶびという名の幼い王様がいました。
ある時1本の乳歯が抜けた王様は、お母様にそれを枕の下に手紙と共に置いて
休むことを教わります。そうするとペレスねずみがやってきて、歯と交換で贈り物をくれるというのです。
その夜目を覚ましてペレスねずみに会った王様。ペレスが話す、知らない王宮の外の様子などに興味を引かれ、
彼に頼み込み、魔法の力でねずみに姿を変えてもらって共に王宮を抜け出します。
街中の冒険のはじまり!しかしそこでみたものは、自分と同じ年頃の子供らが貧しさ、飢えを耐え忍ぶ様子。
この国の王である自分…皆が神の元に兄弟であり、そのうちの兄であるとお母様に諭され、
自分の王位を自覚し、後に立派な王様になったということです。
初版1953年。あの著名な児童文学作家・翻訳家、石井桃子氏訳。乳歯の抜けた子供に聞かせる童話として
重宝するのもあってか、なんと今でも販売されているロングセラー童話本なのだ。
「枕の下に置いた抜けた乳歯と手紙をねずみが取りに来る」という話は、実はこの童話が起源ではない。
ヨーロッパを中心に欧米の広い地域で、また中南米ほぼ全域で、ねずみの名前は変わるものの、
この言い伝えは見受けられる。ねずみの歯は生涯伸び続けることから、歯の健康を祈って…との結びつきも考えられる。
ペレスねずみの起源を、17世紀末から見られたフランス、妖精物語ブーム中にみるという話もある。
オーノア夫人という人気作家の書いた、La Bonne Petite Sourisという、ねずみに化けた妖精が枕の下にひそんで、
悪行尽きぬ王の歯を魔法でぼろぼろ落としめた…という童話が起源では?という人もいる。
(この同時期、有名童話作家ペローがいる)
しかしながら、ペレスねずみの起源はスペインなんだ。
岩波本にある原作者「コロマ神父」というのはルイス・コロマ・ロルダン(1851-1915)
という、記者、作家としても活動した、アンダルシア出身のイエズス会の会士/神父。
1894年、時の…というか生まれた時からスペイン国王のアルフォンソ13世、当時8歳。
この“小さなおうさま”の乳歯がお抜けあそばりし時にあたり、何かお聞かせできる道徳童話を…
との発注を王宮から受け、この「ねずみとおうさま」なる「ラトン・ペレス(ペレスねずみ)」を
献上したといわれる。(諸説あるもののこれが一応公式定説…)
コロマ神父は、もちろん神父なので、単に“枕の下に入れとくと、プレゼントもらえるよ!おわり”
とはならなかった。この小さなおうさまが社会というものに目を向け、キリスト教徒らしい慈悲の
心を忘れぬ、りっぱな国政を将来なされますように…との童話を書き上げた。
結構現実味を入れるのに、ペレスねずみの棲家は「マドリッド、アレナール通りの8番のプラッツ食品店」。
アレナール通りといえば今でもマドリッドのど真ん中繁華街。もちろん王宮も近い。
当時プラッツは各地各国の食品そして菓子を網羅し、大変豪奢な内装を自負、当時の人気小説にも
その名が出る程だった。(残念ながらお店現存していない。建物内に唯一ペレスねずみ像があるのみ↓)
同じ建物内に「ペレスねずみ博物館」があるけど…まあ微妙だろう。
そして…この童話が書かれてから100年以上経ち、
子供たちは相変わらず、歯が抜ける度にペレスねずみに手紙をせっせと書き、
夏休みの時期はペレスねずみのお芝居、映画が繰り返し上演される。
あの遠い昔、このねずみの童話を書いた人、ルイス・コロマ、
そしてお話をプレゼントされた「ブビおうさま」=アルフォンソ13世
はどうしちゃったのかね~続く(…がんばる…)
(ブビ国王(かわいい)。1911年発行の本より。原本はセルバンテス協会バーチャル図書館で無料閲覧可能。)
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