前回からの続きになりますが…
この童話「ねずみとおうさま」の主人公、ペレスねずみと共に
王宮を抜け出したブビ1世が、当時の実際のスペイン国王、
アルフォンソ13世(在位:1886-1931年)であったことは述べた。
父親、アルフォンソ12世は1874年軍事クーデターにより
第一共和制がたった2年で終わり、王政復古で亡命先から戻ってきて国王となった人。
新憲法の制定や労働条件、福祉制度の改善など具体的な政策に取組み、
国民にも人気の高い国王だったけど、27歳で早くも亡くなってしまった。
その後継者として唯一の男子の誕生。
時の首相がその報せにむせび泣いた、と言うほどに待たれたのがブビ君だったのだ。
わがまま一杯、好き放題に育てられた小さなおうさまに、
父君のように自らを律し、国民に慈悲深く思いやりのある君主に…という
願いは重すぎたのか。
その後のブビ君なる、アルフォンソ13世の伝記を読んでると…なんというか…その印象が
「享楽人生をし尽くした、めちゃめちゃ女好きのぼんぼん」↓
というフレーズ一択となる。もうキッパリ。
このちいさなおうさまが16歳にして親政を始めた頃の1902年より、1931年に亡命にいたるまで、
この国は大混乱の時代だった。遅れてやってきた社会近代化が進み、労働者階級の膨張、
既存の階級社会への不満が爆発…ゼネスト、無政府主義者のテロ行為、政府高官の暗殺が相次ぎ、
クーデター後に軍事政権樹立、その崩壊…いわゆる“おうさまの治める国”、王政自体が崩れていった時代だったのだ。
その享楽人生はしばしば国民の批判の対象となり、政治家としての腕力も評価されず、
「バカ殿」として最終的に国を追われ、10年もの亡命生活で晩年を過ごす事になった人。
宗派、身分とも違う嬢と無理を重ねて結婚したものの、
その遺伝で7人もうけた子息は皆病気に苦しむ。
ブルボン家の女好きは伝統芸と言われたが、宮廷におうさまのお手つき
でない女官はいないと言われたほど。
愛人の数は数知れず、認知子の数もしれず。
(かつて全国にその名が知れたここサラマンカのBarrio Chino(売春地区)にも
ご本人がお忍びで通ってたという話あり)
趣味はドライブ、狩猟、ポルノ映画鑑賞。
小食偏食、晩年はウィスキー、煙草、セックスに中毒を極め、随分体を痛めて
最期は狭心症で亡くなった。享年52歳。
ずっと後、このおうさまの孫フアン・カルロスが再びスペイン国王となる↓
ここまでアルフォンソ13世ダメダメ王みたいに書いちゃいましたがw
ある意味時代の寵児でもあり、憎めない存在だったのかとも思う。
オンナたらしのおうさまながら、子供らには愉快で優しいお父様だったと子らの談話あり、
国王としてスペイン観光業促進に注目、
あのパラドール(国営ホテル)チェーンの設立に尽力し、
ロンドンとかパリにひけをとらないホテルを我が国に!とホテル・リッツ、ザ・ウェスティンパレスを建立、
セビージャに博覧会開催とあれば、その建築デザインにまで口を出し、高級ホテル「アルフォンソ13世」オープン。
サッカー好きだったので、チームにはRealの冠名(英語で言えばローヤル)をつけたげた。
(レアル・マドリッド、レアル・ソシエダとか)
ついでにスペイン名物、「タパス」の命名もこのおうさまとの説あり。
なんでもスペイン南、カディスを王が訪問中、料理屋のテラスでシェリー酒を楽しまれることに。
この港町の強い海風で、グラスにホコリが入らぬようにと気を遣った店の者が、
生ハムを1枚グラスの上に乗せて供した。
「これは何かね?」
「え…タパ(蓋の意)でございます…」
それ以来、王はことあるたびに「タパ付きを所望す!ほほ…」ということになり、
現在のタパスになったという話。
あ、ついでに「アルフォンソ13世」と名のついたカクテルが2つある。
一つはデュポネというリキュールベースの食前酒。亡命先のホテルにて愛飲されたとか。
もう一つはクレーム・ド・カカオに生クリームのデザート酒。女の子をくどくのにぴったりな一品。
そういえばブランデーの有名ブランドもあったよ~どんだけ酒造界に愛されてるんだ!
なんかこのおうさま、「娯楽レジャー部門」ではやたら活躍してるんだけどww
さて…話は長くなっちゃいましたが。
改めてペレスねずみだ。
私が最初にねずみとおうさまに会ってから、随分長い時が経ってしまった。
あの話の最後によると、このおうさまは大変立派な王様となり、子供達におもちゃ工場を
建て、猫はねずみを捕ってはいけないという法律を作ったはずだが…
その後のちいさなおうさまの成り行きを、ペレスねずみはどう見ていたことだか。
そして、私のこともどう見てるんだろう?
「では、どうして僕だけ王様になってるの?
なぜ僕はほしいものは何でも買えるのに、あの子どもたちは何にも持っていないの?」
「それはね、あなたがあの子どもたちの一番上のお兄様だということです。
だから、あなたはみんなを、幸せにしてあげなければいけないのですよ。」
「ああ、そうか。
僕は今までそういうことを少しも知らなかった。
僕は夕べのうちにたくさんのことを覚えた。」
石井桃子氏の訳は原本を超えた名訳だったと、改めて思う。
自分と、ねずみとおうさまの再会は、ちょっとほろ苦かったけど
なかなかしみじみと楽しかったんだ。