≪第96回全国高校野球選手権大会≫
【大会展望】
西日本に強豪集結。迎え撃つ東海大相模が、どこまで戦う?!
大阪桐蔭の破壊力に明徳義塾の野球力。
沖縄尚学のアスリート力は大会屈指で、春夏連覇狙う龍谷大平安は総合力で勝負。
96回目の夏。
今年も熱い戦いが繰り広げられた地方大会だが、
『キラ星』と言われたスーパースター候補は、ことごとく予選で敗れ去り甲子園までは到達できず。
ビッグ3と言われた安楽(済美)、高橋(前橋育英)、小島(浦和学院)は序盤で敗れ去り、
全国制覇を狙った浅間・高濱の横浜も敗れ去った。
そんな中で今年の大会の傾向としては、
『東日本は波乱続出で強豪校の多くが予選の段階で涙を飲んだ。しかし西日本は、チーム力の充実したチームが、激戦を勝ち抜いて甲子園までたどり着いた』ということだろうか。
この傾向を見ると、今年の大会は『西日本勢中心』の大会となることが予想される。
東日本勢で、強力な西日本勢に力で対峙できるのは、東海大相模と飯塚投手が好調の時の日本文理ぐらいか。
そんな中で今大会の注目のまず第1点は、春の選抜で歓喜の初優勝を遂げた龍谷大平安が、果たして春夏連覇に近づいていけるかということ。龍谷大平安は、センバツ後一時期調子を落とした。しかしながらこのチーム、『主軸がこけたら皆こけた』というチームではなく、全員の力を結集して相手を倒しに行くチーム。スター選手はいないがその総合力の高さは目を見張るものがあり、この夏の選手権でもいい形で大会に入っていければ相当やることができるのではと見ている。特に投手陣の充実度は高く、相手校にとっては実に崩しにくいチームだ。その平安の弱点は、力で相手を圧倒できるまでのパワーを持っていないというところか。相手次第で、その戦い方に変化が出てくることが予想されるため、力のあるチームとの戦いになった時は要注意だ。
今年の大会で特に力を持った代表校が多いのは、近畿と九州の2地区だろう。中でも2年ぶりの覇権奪回を狙う『高校野球界の盟主』大阪桐蔭が選抜準優勝のライバル・履正社に完勝して出場を決めた。その戦力は春夏連続出場だった昨年を超え、一昨年の春夏連覇時に近づいているとみられている。特にその打線は、今年も『大阪桐蔭のバッティング』を満天下に見せつけるために晴れ舞台に登場したと思わせる硬軟自在の攻撃が得意。攻撃力では大会NO1の座は譲っておらず、相手にとっては脅威の打線を形作る。そしてその打線に守られて春先から投手陣がグッと力を上げてきた。今ではどんなチームが相手でも2,3点以内に抑えられるだけの力を持ち、今年も優勝争いの中心となるチームであることは間違いない。
この大阪桐蔭に対抗できるチームは数少ないが、東海大相模は東の横綱として、大阪桐蔭に挑戦状をたたきつけるだけの力を持っている。特にその分厚い投手陣は注目の的。安定感抜群のエース・青島を軸に、2年生ながら神奈川県大会決勝で9回2死まで20三振の記録を作った吉田、そして横浜戦の最後に出てきてキッチリと試合を締めた左腕の小笠原、さらに145キロ以上の剛球が持ち味の佐藤までいて、盤石の態勢を作る。心配されていた打線は地方大会中に大きな飛躍を遂げた。優に4割を超すチーム打率を誇り、7試合で1試合平均10点以上、合計11本塁打をたたき込んだパワーの打線だ。しかしもともとチームの特徴はそのスキのない走塁。この硬軟自在な攻めも、大阪桐蔭とそん色ないレベルまで上がってきており、力の勝負で44年ぶりの夏の全国制覇に挑む。
その他では新チーム結成時から評価の高かった沖縄尚学も4季連続の甲子園を手中に収めた。安定感抜群のエース山城を、連打が出る打線が支える好チームで、狙いは沖縄勢二度目の選手権Vしかない。同じ九州では、圧倒的な攻撃力を誇る九州国際大付の評判も高い。全国屈指の好捕手と言われる清水を中心に、選抜準優勝時を上回るド迫力の打線で『若生監督の最後の夏』を飾るつもりだ。そして忘れてはならないのが、総合的な『野球力』では常に他校の一歩先を行く明徳義塾だ。今年の夏は、『明徳史上最も安定した好投手』と言われた岸を擁しての最後の夏。智将・馬渕監督が2度目の全国制覇へ、どんな秘策を練っているのか。接戦では絶対に試合を落とさないという野球は、相手にとっては脅威だ。
このあたりのチームが覇権争いの中心になることが予想されるものの、今年も昨年同様、どこから『惑星』が飛び出してくるかわからないという大会になる予測もある。昨年の優勝校・前橋育英は高橋光を支えたアグレッシブな守備が特徴的なチームだったが、今年はどんなチームがいるか。まず面白いのは、『機動破壊』を標榜する健大高崎。レベルの高い群馬大会で、前橋育英と今年のセンバツ8強の桐生第一を相次いで破った力は評価される。決勝では3投手の継投でノーヒットノーランもやってのけている。やや湿った打線の復調がなればかなり面白い存在になるだろう。名門の広陵も戦力は充実。高いレベルで投攻守がまとまり、しっかりと勝ち抜いていける力は十分に持っている。そして主砲・岡本という”飛び道具”を持つ智弁学園も有力校の一つ。やや甘さの残る投手陣に不安はあるものの、各打者のスイングは超一流。打撃で破壊して突き進んでいきたい。春は評価が高かったにもかかわらずセンバツで初戦敗退した日本文理は、3季連続の甲子園でまずは1勝を狙う。いい形でスタートが切れれば、剛腕・飯塚を中心に力は持っているので面白い存在になるはずだ。
東北の期待は松本の盛岡大付と八戸学院光星。
ここの所毎年上位に代表校を送り込む東北地区からは、ドラフト候補のエース松本が”二刀流”で大活躍の盛岡大付と、実績十分の八戸学院光星の実力が双璧。両チームともに主力がすでに甲子園の土を踏んでいて、そういった意味でも”地に足を付けた”しっかりとした戦いができるはずだ。関東では近年の甲子園の実績は群を抜く作新学院の強打に注目。例年県大会では苦しんでも、甲子園ではまさに水を得た魚のようにハツラツと躍動するチームから目が離せなくなるのは間違いない。エース金子の左腕としぶとい戦いぶりが身上の春日部共栄も、投打のバランスが取れ、ひょっとしたらの好チームだ。東邦は、『バンビ2世』と言われる1年生エース藤島に注目。この”2世”は、本家よりもずっと骨太感を感じさせる好投手。その時以来、37年ぶりの快進撃がなるのか。東海地区で負けなしの実力を誇るのは三重。3季連続の甲子園で、今度こそ上位を狙う。戦力的にはその可能性は十分だ。初出場ながら神戸国際大付の強力打線にも注目。春の選抜での実績は十分なだけに、初出場と思っていると相手は痛い目に合う。中国地区では、関西の強打にも注目。一気に試合を決められる猛打線と言ってもいい。日南学園も、今年のチームの戦力は抜けている。九州屈指の力を持っており、覇権争いに加わる力は十分だ。
切り札を持つチームも多く、激戦が予想される。
ダークホースに上がってくるチームも数多いのが今大会の特徴だ。8連覇を成し遂げた聖光学院は甲子園の戦い方を熟知。今年のチームはドラフト候補はいないがよくまとまっている印象で、上位進出を狙うにはこういったチームの方が怖い存在になれる。11度目の決勝の舞台で壁を突破して初出場の二松学舎大付は、強力打線が武器。1年生の主力を3人そろえるという『怖いものなし』のパワーが発揮されれば面白い。甲子園の実績十分の敦賀気比は選抜4強の昨年以上の打線の破壊力を持つ。決勝で最終回に8点差を大逆転して登場の星稜は、何かをやりそうな気配がプンプン。勢いに乗っているだけに、相手に取ってはやりにくそうなチームだ。県大会を記録づくめの猛打で制した近江も、準優勝した01年以来の上位を狙う。秋の中国大会を制して選抜にも出場した岩国は、エースの柳川の投球に賭ける。長身から切れ味鋭い速球とスライダーを投げ分け、攻略しづらい好投手だ。打線が援護できるか。150キロエースの佐野が今大会注目の投手に上がる大分は、初出場だが上位を狙ってやる気満々だ。
その他の学校も、波に乗れば上位に行ける力は十分。初の4校同時出場となった東海大付属(系列)勢では、東海大四のエース西嶋の安定感が抜群。反対に東海大甲府は今年も打撃のチーム。長打、連打で相手を粉砕する野球だ。初の夏に踊る東海大望洋は、打撃力がアップして激戦の千葉を制した力は侮れないところ。利府・角館・武修館の『北の初出場たち』の元気な姿に触れるのは、本当に楽しみ。どんなチームなのか興味津々。伝統の静岡はずっと県大会上位を占め続けていたが甲子園には届かずという壁を破っての出場。久々の聖地に躍動するか。大垣日大は、今年も戦力充実で怖い存在。できれば阪口監督の古巣・東邦との対決を見てみたい。佐久長聖はPL出身の藤原監督の”PLメソッド”がどこまで浸透しているか、確認したい夏だ。富山商の絶対的エース・森田のピッチングにも注目。開星・鳴門の甲子園常連組の戦いぶりにも注目。両校ともに、”強かった”過年のチームに劣らない戦力を持つ。春季中国大会準優勝の開星は、大物を食う雰囲気が漂うチームだ。7年前の”がばい旋風”での全国制覇があまりにも鮮烈な印象として残る佐賀北は、今年のチームもその当時と同じ2枚看板の投手力を抱え、大躍進の再現を狙える。大隅半島から夏初出場の鹿屋中央は、しっかりと守りを固めて接戦をものにするシンプルだがしぶとい野球で殴り込み。
聖地での1勝は特別なもの。校歌斉唱だけは譲れない!
その他の学校でも、まずは甲子園で勝利を飾り校歌を斉唱したいところ。山形中央は、昨年のセンバツで歓喜の1勝をあげた選手が残り、今度は夏1勝を狙っている。常総・霞ケ浦の『県内2強』を文字通り”ぶっ倒して”甲子園にたどり着いた藤代は波に乗っている。日大鶴ヶ丘はしぶとい野球が身上。あの『日大三キラー』として知られるしぶとい野球を聖地で披露したい。”絶対王者”を倒したというのなら市和歌山も同じ。今回の戦力は充実。一勝で波に乗ってはるかな高みを目指す。八頭、坂出商、小松の各校は、いずれも戦力的に突出はしない県立校だが、接戦に持ち込んだ時の粘り強さで県大会を制覇。城北は三人の投手の継投の妙がさえわたる。
さあ、いよいよ本番の始まりです。
もちろん対戦相手によって今年の大会も大きくその結果は異なっていくことが予想されますが、近年の傾向としては、ますます地域差はなくなり各校の戦力に差がなくなってきたということが言えます。どのチームにも、大会の風を掴み波に乗ることが出来れば、栄冠まで勝ち上がることが十分に可能な大会ということです。しっかりとした準備をして、悔いを残さない戦いを行ってほしいと思っています。
思いもかけない学校の快進撃・・・・・待っています。
それこそが高校野球の華、でもありますから。