きいろをめでる

黄瀬、静雄、正臣の黄色い子達を愛でる同人二次創作短編小説中心。本館はAmebaです。

微睡み(臨正)

2010-08-11 01:10:44 | 小説―デュラララ
「ねぇ・・・正臣くん、・・・・・・重い」
「えー・・・・・・」

なんだか間延びした会話。

そんな夏の、昼下がり。




「正臣くん、俺、本読んでるんだけどなー・・・」
「えー・・・・・・」

同じ返答。
だが、動く気はないらしい。



今の状況。
夏の暑い日差しの下に晒されるということはせず、全身真っ黒い男、折原臨也はクーラーが全開の自宅マンションに引きこもっていた。そして、ソファーに腹ばいになって、本を読んでいた。

そこへやってきた正臣が、少し涼んだあと、「疲れた」と言って、臨也の背中に抱き着くように、寝転がってきたのだ。

二人分の全体重を支えるソファーは、ふかふかの特上品で自慢のものだが、逆にそれがあだとなり、沈み込んで臨也は身動きが取れずにいた。




(普段これだけデレてくれるとありがたいんだけどなー・・・)

でもこれで、自分の背中で寝られてしまったら、起こすことも身動きを取ることもできない。
さすがにそれは、辛い。


「眠いんなら、ベッドいきな」
優しく声をかける。
「・・・ここがいいです」
「・・・・・・なんで?寝にくいでしょ」
「・・・・・・」

間が開いたが、何か言いそうなので、少し待ってみる。

「・・・いざやさんのにおいが、するから・・・・・・」
「っ!?」
「それに、こうしといたら、いざやさん、・・・どこにもいけない、かなー・・・」

寝ぼけているからか、いつもは聞けない甘えの言葉がぽろぽろでてくる。

(でも・・・本音ってことだよね?)

かなり嬉しい。かなり可愛い。
自分と離れて眠るのも、眠っている間に自分がいなくなるのも、嫌だなんて。



「・・・でも、やっぱりベッドで寝たほうがいいよ。体とか痛くなるし」

そして読みかけの本をぱたりと閉じ、優しい表情で、囁いた。



「一緒に寝よう?ずっと、ぎゅってしといてあげるから」



背中で、正臣君が笑ったような気がした。

コイビトだもの(静正)

2010-08-05 00:29:36 | 小説―デュラララ
「なんでですか!どうして呼んでくれないんですか静雄さん!!」
「い、いいだろ別に・・・」
「やですよ・・・ていうかついこないだまで普通に名前で呼んでくれてたじゃないですかっ」

むぅ、と目の前の少年が頬を膨らませる。

その動作が可愛いと思えてしまった。

(駄目だ駄目だ)
このままじゃ近いうちに理性がブチ切れる気がする。
(人の気も知らねぇで・・・)

勿論、恋人だ、正臣のことは名前で呼びたい気持ちもある。
しかし、可愛過ぎるのだ。
最初の頃はよかったが、近頃じゃ自分の理性の糸が悲鳴を上げている。
名前を呼んだら、切れると思う。
理性が切れたら---彼を、壊してしまうかもしれない。
冗談抜きで。


そんなことを考えていたら。


----ちゅっ
「ッッッ!!!!????」

唇の感触に驚いて目を見開くと、目を閉じた正臣のドアップ。
さらに、首の後ろにはがっちりと両手が回され、キスから逃れられないようになっていた。

ぷは、と離れると互いの舌に銀糸が伝った。
ぺろり、と唇を舐める正臣を見ていられない。
しかもいつの間にか、静雄の大腿に、向き合って座っている。

(絶対、誘ってるとしか思えない!!!!)

さらに今日においてはいつものようなパーカーではなくて、薄手で鎖骨の大きく出たTシャツを着ていた。


「呼んでくれるか、理由を言ってくれるまで、ず~~~~っっっとキスしますから!」
「な・・・何を・・・!」
何を言ってるんだこいつは。

(襲っちまうぞ・・・!!!!)


ああもう、どうしようかと悩んだが、このまま悶々としても何も変わらない。

仕返しとばかりに、こちらからキスした。
さっきよりも深く、巧く。

「ん・・・ふぅ、は」

気持ち良さそうな高い声が漏れる。

うん、やめよう。我慢やめよう。我慢よくないな。
可愛いし。



「・・・呼んだら、」
「・・・・・・?」
「その、」
「教えてくださいよ」

自分でも頬が赤くなるのを感じた。

「・・・・・・恥ずかしいのと・・・我慢できなくなるから、だよ」

恥ずかしさといたたまれなさで、小さい声でぶっきらぼうに呟いた。


ちらっと正臣を見ると、キョトンとした顔をして、それからくすくすと笑い始めた。

「なんで笑うんだよっ」
「あ痛ッ」
額を軽く小突いた。
「だって、可愛いなって思って・・・静雄さんって、純情だなって」
「!!」

可愛いって可愛いやつに言われたくねぇよって思ったが、そのときの正臣の笑顔が可愛かったからまぁいいや。
・・・あれ、意味わかんなくなってきたぞ。



「それに、」
「ん?」

正臣が耳元に口を寄せる。



------




・・・・・・・・・


こっちが真っ赤じゃねぇかよ、このマセガキ。

幾つも年下の少年に、敵わないなと思わされた。


でも今度からは、名前で呼んでやろう。
恋人らしく。
・・・まだ、恥ずかしいけどな。





☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆






(それに、オレも男ですし・・・・・・そんな簡単に、壊れないですよ)







(誘ってるんです、よ。)

好きなコには悪戯を(『純愛』臨也目線補完)

2010-07-28 11:25:00 | 小説―デュラララ
正臣くんがあんまりにも可愛い顔でこっちを見つめるから。

試したく、なっちゃったんだよ。



好きなコには悪戯したくなる、っていうじゃないか。





正直、不安だった。
俺が好きだからって、相手も自分のことを好きだとは限らない。

一種の独占欲だった。
意地悪しても、自分のことを好きでいてくれるのか。

気まぐれな甘えだった。
正臣くんが、俺のことをとても大好きなんだろうっていう。



できるだけ冷えた言葉を選び、深く、深く切り付けていく。


でもまさか、君がそんなに俺のこと、想ってくれているなんて、考えてもいなかった。

でもまさか、俺がこんなに君のこと、想っているなんて、考えてもいなかった。。




闇に正臣くんの身体が浮いて。

心が、冷えた。

気付いたときには、腕を掴んで引き揚げて、抱きしめてた。

自分でも信じられないくらい速く、反射的に。


そして、意識の飛んだ正臣くんが、このうえなく心配だった。


(あれ、心配って・・・・・・
・・・・・・はは、想像以上に俺のほうが虜になってんじゃん)




目が覚めたとき、ホッとした。

もう、俺は正臣くんから離れられそうにない。



「正臣くんは、こんなことした俺のこと・・・・・・好き?」

まだ、好きでいてくれる?

我ながらずるいと思った。
判りきってるくせに、そんなこと聞くなんて。

でも不安は心に引っ掛かったままで、自分の確証じゃなくて正臣くんの言葉がほしいって思ったんだよ。



「大好きに、決まってるっすよ」



ああ。
もうこれだけ聞けたならそれでいい。





俺の一方通行な独占欲に耐えてよね、正臣くん。



愛してるからさ。

純愛(臨正/正臣若干病んでます)

2010-07-26 21:15:36 | 小説―デュラララ
人間、あんまりにも悲しいと無意識に涙が出てくる。
それは自分の周りのほとんどの人に当て嵌まることだったし、勿論自分にも当て嵌まっていた。


そんな些細なことを、今日、強く否定したいと、オレの心は欲していた。




「君個人が好きなんじゃない。俺は人間が好きなんだ」

意地悪そうに微笑みながら、目の前の男はそう吐き捨てた。

アンタはオレが好きなんですか、とふと口走ってしまった質問への答えだった。

彼のそういった考えは知っていたし、十分に理解していた。
でも、心のどこかで、自分だけは特別なんじゃないかと、甘えていた。
折原臨也の答えは、確実に「拒否」だった。

・・・ただの甘えにすぎなかったのだ。


「そう、ですか」


別になんとも思わなかった。正直憎くて憎くてたまらない相手だったし、こうスッパリと切り捨ててくれたほうがありがたい。

「まぁ、オレもなんとも思ってないですし・・・」

そんな筈だった。


「なんとも思ってないのに、どうして泣いてるわけ?」
「・・・え」


自分の感情が零れ落ちていることに気づかされ、激しい嫌悪感が自分自身に対して生まれる。


(これじゃあ、悲しいみたいじゃないかよッ・・・!!!!)


悲しいと思う部分がどこにあるのか解らず、涙は止まることを知らず流れていった。



「陰気くさいから、泣くのやめてくれない?」
冷徹な声が届いた。

「す、みませ・・・」
「あとちゃんと仕事していってよね。そのために君はここにいるんだから」

どこまでも冷えた声。

正臣は涙を一生懸命堪えつつも、言われた仕事を消化し始める。

しかし手は思うように動かない。


ふと考え始める。

悲しいときに流れる涙。
臨也さんに拒絶されたことで流れた涙。
嬉しかったわけでも感極まったわけでもないから、さっきの自分は悲しくて泣いた。

拒否されて、悲しかった。

なら、自分の気持ちは。

(す、き、だ)

好きだよ臨也さん。

でも臨也は自分のことはただの手駒。

それなら、もう、・・・いいや。


なんだか何もかもどうでもよくなった。
今気づいたばかりだけど、こんなにも好きな相手にこんなにもはっきりと拒絶されたんだ。
ああ、もう、どうでもいい。



仕事の手を止めて、近くの窓までいき、カラカラと開けると、無防備にテーブルの上にあった30枚ほどの札束を、新宿の夜空に思いっ切りばらまいた。

はらはら、ひらひら、同じ印刷の施された紙切れ達は、夜空に映えて散っていく。


その様子を微笑みながら眺めていた正臣に、臨也が声をかける。

「ちょっと・・・俺の身分ばれるようなことはしないでよ?」

「・・・・・・その程度、ですか」
「・・・・・?うん」
「そう、ですか・・・・・・」


試してみようなんて考えた自分が馬鹿だった。
既にこんなに拒絶されてるのに。
心配されようなんて、馬鹿だった。



フッと、自分を嘲った。
もう、いいや。
自分の想いとか、もう。
オレがこの人を好きでいて、幸せになる人は、この世界に一人といない。
勿論、自分でさえも。


部屋の方向に向いて、窓枠に腰掛けた。

そして、綺麗に笑った。


「さよなら、いざやさん」



そのまま、窓枠から手を離して、背中のほうへ体重をかけた。


落ちる落ちる。


ああ、星が綺麗だ。

星に手を伸ばした。


いざやさん、さようなら。


目を閉じた。







●○●○●○●○●○●○●○●○●○







投身自殺って、本当に死ぬ前に、落ちてる間に意識がなくなるらしい。

だから、きっとこれは、死ぬ前の夢なんだと思った。


オレが、臨也さんに抱きしめられてるなんて。



「いざ、や・・・さん・・・・・・?」

掠れた声が出た。

その声に呼応して、抱きしめる力が強くなる。

あたたかい。

あれ。
抱きしめられて、あったかくて。
感覚がある。
死んで・・・ない。


「臨也、さん・・・?」

「ごめん、ごめんごめんごめん、ごめん正臣くん」

ぎゅう、とこもった力が強くなった。

「君を、死なせるようなつもりはなかったのに・・・・・・俺は・・・俺は・・・・・・」

そして小さく呟いた。

「正臣くんのことが好きなのに」

「・・・え、」

驚いて、臨也の顔を見た。

とても、泣きそうな顔。


やってしまった。
こんな悲しそうな顔、させるつもりなかったのに。


「ごめ、ん、なさ・・・」
「謝らないでよ・・・俺が追い込んじゃったんだから」


正臣の両肩に両手を置き、胸に頭をうずめ、甘えるように囁いた。

「死なないでよ正臣くん、俺を置いていかないで」


強く。


「好きだよ、愛してるよ、正臣くん

誰よりも、世界一、君を愛してる。

どんな他の人間より、君のことが、

好きだ。

試しちゃったりして、ごめんね」


「いざやさんっ・・・・・・!!!!」
また、子供のように泣いてしまった。
でも今度は、嬉しかったから。


「泣かないでよ、陰気くさくなるから」

目尻にキスして、涙を拭った。


「正臣くんは、こんなことした俺のこと・・・・・・好き?」

ずるい。
判りきってるくせに、そんなこと聞くなんて。

でもね、

「大好きに、決まってるっすよ」








その直後、正臣は後頭部を打った。

押し倒されて、キスされたから。


そんな間に、どちらからともなく、言う。



『大好き』

キスの過去(静正前提の臨正)

2010-07-02 13:12:13 | 小説―デュラララ
腕を掴まれ、振り向きざまにキスされた。

目を見開いた先にあった顔に、これほど欲情を感じないキスがあったものかと、抵抗を見せた。

だが後頭部を押さえられ舌を捩込まれ、腰もとを甘く撫でられたら、なす術もなかった。


「ん、あっ・・・・・・やっ・・・やめろっ!」
ドンッと強引に体を引き剥がした。
「おっと」
悪びれた様子もなく、目の前の男は体勢を整える。

「やぁ、正臣君」
「・・・何しにきたんですか、臨也さん」
「つれないなぁ、君に会いにきたんだよ?」
正臣の険しい表情とは逆に、楽しそうに笑う臨也。

「まぁでも・・・・・・こんなにキスが上手くなってるとは思わなかったよ、シズちゃんだろ?」
「ッ!!」
一方的に蹂躙しておいて、上手も下手もないだろうとは思ったが、発言の意味と真意に頬が熱くなる。

・・・・・・上手く、なっている。
過去を示唆する言葉。

「俺が今から君を奪ったら、シズちゃん嫌がるよね。あはははは、それもいいなぁ」

正臣の胸が痛み始める。
嫌だ、嫌な予感がする。
このままじゃ・・・過去と同じだ。

「ということで、俺は君を奪うことにしたよ」
ドラマや小説だったら、思わずうっとりしてしまうような言葉も、正臣の耳には苦痛でしかなかった。

「俺はシズちゃんが大嫌いだからね。もちろん、君のことは大好きだ。愛してるさ。だからこそ、俺は君を手に入れる。傷付けても他人が死んでも、君の心が死んでも、俺は徹底的に君を愛し、かつ愛さないで、自分のものにする。君が何と言って抵抗しようが、全て俺の思い通りにしてみせる」

嫌だ。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
そんな独占欲いらない。
そんな狂愛いらない。
オレはただ、本当の愛がほしいだけなのに。
今と未来を見て生きていくって決めたのに。

折れそうになる心を必死に立て直して、言葉を絞り出した。

「オレは臨也さんのこと、大嫌いです」
キッと目線を上げ、見据える。
「・・・・・・言いたいことは、これで終わりですか?」
「嫌がられると、余計煽られるって知ってる?・・・ま、言いたいことっていうか、言うべきことは言ったし」

急に引き寄せられて、首筋に痛みを感じる。

「それ・・・キスマークで宣戦布告ってことで」
「ッ・・・・・・!!」
ニヤニヤと笑う相手を、羞恥の念を込めた目で睨みつけた。

「じゃあね、また会おう。正臣君が池袋にいる限り---いや、生きている限り、いつでも会えるから」





正臣は何も言わなかった。
いや、言えなかっただけなのかもしれない。


俯いて、アスファルトを見つめていた。



今はただ、本当の愛とは何なのか、知りたかった。

くちづけ(静正)

2010-06-30 17:08:59 | 小説―デュラララ
「静雄さん!静雄さん!もー、起きてくださいよー」
「ん・・・・・・」

前から抱きつくような形で正臣の体にもたれ掛かり、眠る静雄。

「疲れてるんだから、ベッドで寝なくちゃ駄目ですよ!」

反応は、ない。


さすがに、自分よりもガタイのいい相手を、その細腕ではベッドまで運ぶことができなかったため、何とかして起こそうとしているのだが―――全く起きない。


「どんだけ疲れてんだよ・・・・・・」

はぁ、と困った表情をして、静雄の両肩を手でおさえながら、ゆっくりと寝顔を覗きこんだ。

普段は、サングラスや荒々しい表情で隠された、穏やかで端整な顔立ち。こうして眠っていると、一層それは引き立つ。


目が、離せなくなった。

まじまじと見つめていると、自分の鼓動が速くなる。

ふと、規則正しい寝息をたてる口許に目がいく。

―――やばい・・・・・・

いつもは自分に降ってくる甘い唇。それは無抵抗に、無防備に、ただそこに“存在”している。

ただでさえ高かった心拍数は、さらに速まり、正臣の頬に紅潮を浮かばせていた。


自制が、利かない。
少し、下から見上げるような体勢になって、先程とは逆に、起こさぬようそっと、

唇を、重ねた。

微かに苦味。恐らくは煙草であろう。
それから、えもいわれぬ愛おしさと、興奮と、泥のように意識を包み込んでゆく快感。
己から、という行為への意識は、それらをなお一層大きくした。


今起きたらすごい恥ずかしいなぁ、なんてことを思いながらも、交わした唇を離そうとはしなかった。

すると。
「ん・・・・・・?」
案の定、起きてしまった。

慌てて唇を離し、気づいていた場合の言い訳を考えようとした。
しかし何も思い付かない。

(あれだけ起こそうとしてたときは起きなかったのに・・・・・・どうしてキスで起きるんだよ・・・!!)
自分の運の悪さと、静雄の寝付きを少し恨んだ。

「・・・どうした?」
「え、いや、えと・・・」
寝起きの眼差しで自分の赤面を見られる状態から逃げたくて、目線を逸らした。

「さっきは、自分からしてくれて、俺嬉しかったんだけど」
「!?」
勢いよく振り返った。
先程よりも顔を真っ赤にして。
やっぱり、気づいてた。
「いつ・・・」
「ん?ああ、なんか口に当たってるなぁと思って、それで意識はっきりしてきたら、気づいた」
「~~~ッ」


恥ずかしい。とてつもなく恥ずかしい。

「なぁ、もう一回して」
「イ、イヤですよ」
「・・・なんで」
「静雄さんにしてほしいからです」
静雄が若干吹く。
「・・・誘ってんのか?」
「はい、誘ってます」
「・・・・・・後悔しても知らねぇぞ」
「後悔しないっすよ」
「・・・ハッ」



自分からのとは比べものにならないくらい、熱く激しく乱れるくちづけ。
きっとこのままじゃ終わらない。


でもそれくらいが、二人が求め合うのに調度いい。


そう、思った。




.

生誕日,後記録――――  (静正)

2010-06-21 22:15:00 | 小説―デュラララ
聞き慣れた着メロに、携帯へと目を移す。
表示は非通知、でもワンコールで通話ボタンに力を込める。何たって相手はわかってるんだ。恋で守勢に回ってどうするよ、オレ!!

「静雄さん!!!!」
「え!?なんで一言も話してない非通知を俺だってわかるんだよ!!??」
「何でってそりゃ・・・愛の力っすよ」
「愛って・・・・・・非通知で急に電話したら、驚くと思ったのに・・・」
がっくりといった声が聞こえた。

そう、愛の力。
全く予測してなかったけど、電話が静雄からだと、確信があった。
さすがオレ。いや、違うか。



「何ですか?オレに何か用事っすか?それとも、驚かすため?」
「いや、違ぇよ。その・・・あれだ、お前、今日、その・・・・・・たんっ・・・・・・とう」
「え?聞こえないです」
「だから、その・・・」

何を言いたいんだろう、と疑問に思っていたら。



「誕生日おめでとう」



とてもシンプルな言葉に、また予想もしていなかった言葉に、一瞬動けなくなった。
シンプルだったからこそ、であろう。
それから、急に胸が熱くなり、目頭が熱くなり―――言葉は、実体のない熱となって、心を溶かしていく。


気付いたときにはもう、頬に熱く濡れた筋が流れていた。


「静雄っ・・・さん・・・・・・・」
「なっ・・・どうした!!!???もっと情感こめて言うべきだったか!!??・・・・・・嬉しく、ないのか?」
突然の泣き声に驚く静雄。
「嬉すぎますっ・・・オレ、今日言われた中で一番嬉しいですっ・・・えぐ、ひっく・・・静雄さんのが、一番、嬉しい、ですズビッ」
「そ、そうか」
泣いてぐちゃぐちゃになりながら、感激をしどろもどろに口にする。
シンプルだからこそ、誰よりもリアルな量感のある言葉で、まっすぐで、決して口が上手い訳でもないのに直接伝えてくれて、・・・・・・とにかく、嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい。嬉しいって言葉では言い表せないくらい嬉しい。
好きな人に、まっすぐに想われて、誕生を祝ってもらえてるのだから。

「プレゼントとか何がいいのかわかんなくて何も買ってねぇんだけど・・・何がほしい?」
「いい・・・です、今の電話だけで幸せですっ」
「それじゃ俺の気がすまねぇんだよ。何でもいいから言ってみろ」
「なら、一個甘えてもいいですか・・・」
「おぅ。何でもいいぜ」




「今度、会ったとき、抱きしめてください」

「・・・・・・ッ」




しばしの沈黙。
静雄が黙っていたので、正臣も黙って涙を拭いていた。
・・・どうしたんだろう。怒らしちゃったのかな。つかオレ、泣き過ぎ・・・・・・

そんなことを考えていると。


「えッ・・・・・・」


背中にあたたかな感触があったかと思うと、後ろからしっかりと腕がまわって抱きしめられる。
ほのかに煙草の香り。
それから、少しの汗の匂い。
6月ですでに蒸し暑い夕暮れを、全力で走ってきたらしい。
息が詰まる。
苦しいわけではない。
純粋な喜び。
愛しいひとへの胸の高鳴り、ドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキ。


「あんなかわいいこと言うから、来ちまったじゃねぇかよ・・・」
小声だが、密着していて声がよく通る。
そんな耳元の囁きに、またもや鼓動が高く大きくなる。

「静雄さん」
「誕生日プレゼントなんだから、誕生日に渡さなきゃダメだろーがよ」
「静雄さんっ・・・!!!!!!」
くるりと方向転換し、自分からも静雄を抱きしめる。
また、涙にとどまりがなくなる。
「もう泣くなって・・・・・・」
大きくてあたたかな手が、背中をさする。

「さっきは電話だったからな・・・」
「?」





「誕生日、おめでとう、正臣」

額に軽くキスを落とす。

緊張と祝福と・・・いろいろな気持ちの入り混じった言葉に、正臣は涙に濡れた笑顔を返した。








オレって、幸せだなぁ―――――――――



逃げないで(静正)

2010-06-18 20:25:45 | 小説―デュラララ
「待ちやがれぇぇぇこの野郎ォォオォオ!!!!!!」
「怖いなぁ静ちゃん、やめてよも~」

喧騒の響く、日の落ちた池袋の街で、そんな声が聞こえてきた。

通行人は、またか、とでも言いたげにその二人を見た。

平和島静雄と、折原臨也。

見る度見る度、平和島静雄は折原臨也を追い掛けている。

その理由は―――まあ、彼ら通行人という一般人には、わからないところではあるのだが。


そうこうしているうちに、臨也が路地へ逃げ込み、静雄もそれを追ったので、二人の姿は見えなくなってしまった。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆




「待てッ・・・このっ」

入り込んだ路地は案外狭くて物が多く、場慣れしているらしい臨也への距離はなかなか縮まらなかった。

だがそれもつかの間、少し開けたところで、じりじりと近づいていく。


「そろそろ疲れてきたし、ここいらで・・・」
臨也が何か呟くと、急に角を曲がった。

それを追い掛けようとすると。


「あれ、静雄さん」
臨也とは違う意味で聞き慣れた声が聞こえた。

――紀田正臣。

見かけたその姿に、つい立ち止まってしまう。

「最近会ってなかったけど、元気ですか?俺、会いたかったんです」
「ああ、そ、そうか・・・」

毒のない笑顔と『会いたかった』の言葉に、頬が緩みそうになった。

しかし。
「あーでも、俺忙しいから、これで・・・」
と言って、背を向けた。

いざ走り出さんとしたとき。
「・・・行っちゃうんですか?」
正臣が、服の裾を控えめに掴んでいた。
寂しげに上目遣いで聞いてくる。

(うっ・・・)
正直、この手のことをされると全く太刀打ちできなくなる。
よりによって、正臣。

どうしようもできなくて迷っていると、今度は静雄の手を軽く握りながら、言葉を続けた。
上目遣いで。
静雄は赤面する。というか、赤面せざるを得ない。とにかく心臓が高鳴っていた。

「今度会えたらたくさん話をしたいなとか思ってたんすけど・・・あ、でも静雄さん、仕事忙しいんですよね、すいません引き留めちゃって」

そういって俯き、手を離した。


でも。

「いや、もういいんだ」
「え?」
「どうせ仕事じゃねぇし・・・本当の仕事は終わってるし・・・その、俺もお前と一緒にいたほうが楽しいし・・・」

最後のほうが聞き取れなかったが、正臣が笑顔を明るくする。
その笑顔にまたやられそうになった。


「でも、ここじゃちょっとな・・・どこか移動するか?」
「オレ、静雄さん家に行ってみたいです」
「は!?」
取り出しかけた煙草を、一瞬落としそうになる。
「行ったことないし・・・それに、静雄さんと二人で話したいし」
「おい・・・・・・」

不覚。
きてしまった。

「何しちまうか、わかんねぇぞ・・・」
「いいですよ、むしろ大歓迎です」
言葉の意味をわかっているのかいないのか、いや、高校生だ、前者であろう。
噴いてしまいそうになるのをなんとか堪えた。

「・・・しゃあねぇな、連れてってやるよ」
「やったー!静雄さん大好き!!」
「おいっちょっ何言ってんだよ!!」

完全に正臣のペースに取り込まれる。

そんなことも楽しく思え、今日ばかりは正臣に免じて臨也は放っておこうと、会話を楽しみながら自宅の方向に足を向けた。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆




「上手くいったなぁ・・・」
一人パソコン前で呟く男。

「絶妙かつ絶好かつ最高のタイミング・・・そして予想と寸分違わぬ反応・・・まさに計画通り!! 静ちゃんのリアクション、間近で見たかったなぁ~」

悲しいかな彼には話し相手はいなかったが、本人は気にしていなかった。

「二人は、セッティングした人に感謝すべきだよ・・・全く、二人とも楽しんじゃって薄情だなぁ・・・まぁ、逃げ切れたからいいんだけど」


静雄と正臣が出会うように仕向けた張本人―――折原臨也は、上手くいった計画に、ほくそ笑んだ。

次は何をしてみようかと、考えを張り巡らせながら。




そんなこととは知らないから、静雄と正臣は幸せな時間を過ごしたのだけれど。

疲れを癒してくれるモノ、(静正)

2010-06-09 19:14:53 | 小説―デュラララ
「お前、いつも通り本当に調子いいなぁ」

今日は、そんなことを一体何人に言われただろうか。

・・・むしろ、いつにないほど疲れているのだが。


誰もいない公園のベンチに何となく腰掛け、新しい煙草に火をつけてゆったりと味わう。

最近、仕事が多いのとうぜぇのがよく出没しているせいで、疲れ気味だ。

だが、人にはいつも通りに見えているらしい。

「帰るか・・・」
今日はもう仕事はない。

サイモンのところへは昨日行ったから、今晩は家で食べるか、と足を向ける。
いざ家で食べるとなると、いつの間にか「自分で作る」という考えは消滅していた。
自分で作っても、美味くない。




吸い殻を捩込み、公園を出ると、急に声をかけられた。

「あ、静雄さん!」
「・・・あ?」
見ると、青のブレザー制服を身に纏った、金髪とも言えるほどの明るい茶髪の少年が、こちらへ駆け寄ってきた。

紀田正臣。

「よかったー!探してたんですよ」
肩で息を切りながら言う。
何もそんなに急ぐことないのに、とは思いつつも、その姿を見てふと思い付いた。

「お前って・・・」
「なんですか?」
「犬みたいだな」
「え」
ぽんぽんと、頭を撫でる。
日を浴びて光を返す髪の、さらさらとした手触りに、どうしようもなく癒された。

「ちょっ・・・静雄さんっ」
赤面しながら抵抗しつつも、その払いのける手には拒否の意思が感じられなかった。

おそらく、触れられていること自体は嬉しいのだが、「犬」発言と、和やかな静雄の表情に、恥ずかしく思っているのだろう。

「犬っぽいじゃねぇか。嬉しそうに走り寄ってきて、こっち見上げてくんだか・・・ら・・・・・・」
語尾がどんどん小さくなっていく。
言っていて自分も恥ずかしくなってきた。

二人して黙ってしまう。
お互い、顔には朱を残して。

急に、頭を撫でていた手は後頭部へ回り、正臣は力強く静雄の身体のほうへ引き寄せられた。
ばふっ、と空気の潰れる音が聞こえる。
密着して、さらに心拍数が上がっていく。

さらに、静雄は密着してもなお、頭を撫でていた。

手触りを楽しむように。
自分よりも小さなその少年を愛おしむように。

突然のことに驚いた。
でも、正臣は少しの間だけ、抵抗するのをやめておこう、と、素直に体を預けた。




しばらくの間そうした後、やんわりとした力で静雄から離れる。
静雄のほうも気が済んだのか、意思を見せるとすぐに離してくれた。

そして、自分が何のために静雄を探していたのか、急速に思い出した。

「そ、そうだ静雄さんっ。オレ、これを渡そうと思って」
差し出されたのは、袋に入ったカップケーキ。
「家庭科の調理実習で作ったんですよ。ほとんどオレ一人で作ったんで、班の奴らが余り持っていってって」

受けとったケーキを眺めた。
美味しそうな色と香りが、食欲をそそる。

「ありがとな」
「静雄さん疲れてるみたいなんで、ちっちゃいけどそれ食べて、ゆっくり休んでくださいね」
「・・・っ」

疲れていると見抜かれていたなんて。
驚いたが、流石だなと感心もする。

「ご飯もちゃんと食べてくださいね。あ、なんならいつでも作りに行きますよ」
男子高校生らしからぬ発言に少し頬が緩んでしまったが、すぐに頬を持ち上げて微笑みに変える。

「ああ、ありがとう、な」

ぽん、とまた頭に手をのせたら、嬉しそうに笑う。
自分だけに向けられたその笑顔が、つい可愛く思えた。
可愛いと思ったから、上半身を屈めて額に唇で優しく触れたら、笑顔が紅潮に変わる。

そんな様子もまた、可愛く思えた。


最後に、指通りのいい髪をぐしゃっと掻き回して、
「じゃあな。おやすみ」
と、夕陽には少し早い挨拶をする。
性急な感じもしたが、
「おやすみなさい、静雄さん」
と正臣は笑顔で返した。





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今度、夕飯を作りに来てもらおうと、ケーキをかじりながら静雄は思った。

呼ぶほどの家でもないし、来てもらうほどの時間があるかどうかはわからない。
それに、自分が何かしてしまうかもしれないという考えだって、浮かんで来る。

でも。
この優しい味を、また食べたい。

そう、思った。





いつの間にか、疲れなど忘れてしまっていた。

優しげな夕刻の出来事と、気持ちの詰まったカップケーキは、ここ数日の疲れを癒すのには十分すぎたのである。