KANON廃園

スタジオカノン21年間の記録

2006年の仕事③〜 恋心は雪のように儚く揺れる 

2021年01月31日 | カノンの記録

☆「僕等がいた」 2006年7月〜12月放送(全26話)

 原作 小畑友紀 「ベツコミ」(小学館刊)連載
 監督 大地丙太郎
 脚本 池田眞美子/小川みづき/山田由香
 キャラクターデザイン 白井伸明
 美術監督 柴田千佳子
 色彩設計 西尾梨香

 撮影監督 斎藤秋男

 制作 スタジオ アートランド

 

ベツコミ(別冊少女コミック)に連載された
北海道の釧路市を舞台に高校生の恋愛模様を描いたピュアなラブストーリー。

 ごく普通の女の子の代表格のようなヒロイン七美が第一印象イヤな奴だった矢野という人気男子 に次第に惹かれていき、すっかり恋に落ちてしまう。しかし矢野には 忘れられない元カノがいた。

という定番なストーリーでありながら、当時は絶大な人気を誇っていました。

それは乙女チックでどこか夢心地で、現実逃避的な少女漫画とは違って、決して美しいばかりではない人間のリアルな恋愛模様が描かれていたからなのかもしれません。

 

 編集部側は読者の共感を呼ぶことが第一で、人気アンケートのの結果をとても重視します。

読者の好みも時代によって変遷していきます。

その昔、少女漫画といえばプリンセスなどの乙女の憧れの世界が描かれましたがやがて等身大の乙女たちの恋愛ハッピーエンドものに変わっていきました。

そして恋愛なんて決して上手くはいかない上に、実はドロドロした人間関係がシニカルに垣間見えてくるものこそ、より多くの共感を呼ぶものとして支持されるように変わっていったのです。

 

「僕等がいた」のなかで傑出したキャラはすでに他界している矢野の元カノの奈々という女です。

 彼女は 極端に言えば妖婦的な魅力の女であり、アンモラルであるがゆえに男を魅了するタイプ。そんな女が死んでなお一層男の心を捉えて離さない。

おまけにそこに奈々の妹で陰気臭く過去に執着した女有里がまとい付く。

 揺れ動く七美の心、この恋はどこに向かうのか・・・。

 

 本屋で平積みされていたコミックでひときわ美しいカラーリングの扉絵に惹かれて手に取り、 購入したのがこの作品でした。

それから間も無く偶然にも、アニメ美術の依頼を受けました。

 

 釧路という北の街、ローカルな風景、冷たさ、寂しさ、純粋さを込めた美術が表現できれば・・・という思いで、これまた寒さより厳しいスケジュールに立ち向かったのでした。

   

雪曇りの空は実はとても明るく白夜のよう。

街の中心を流れる釧路川

 東京に旅立つ矢野くんを見送る七美。会うは別れの始まりなのか・・・。            

 

 

 

 

 


2006年の仕事②〜再び回り始めた恋の結末は・・・

2020年06月14日 | カノンの記録

ハチミツとクローバー 第2期2006年6月〜9月放送(全12話)

原作 羽海野チカ

監督 長井龍雪

監修 カサヰケンイチ

シリーズ構成・脚本 黒田洋介

キャラクターデザイン島村秀一

総作画監督 吉田隆彦

美術監督   柴田千佳子

色彩設定   石田美由紀

撮影監督 大河内喜夫

アニメーション制作 J・C・STAFF

 

 切ない片想いが絡まるそれぞれの恋の行方を追って、注目の第2期がスタートしました。

今回は12話で完結でしたが、その分1期よりシリアスな内容がグッと凝縮され、特にはぐみや森田の過去エピソードを踏まえたストーリーがそれぞれの恋と人生に説得力を持たせた内容になっていたように思います。

山田と野宮、真山と理花の関係が苦しみながらも進展し、大きな事件によってはぐみと花本修司の心の扉が開かれます。

時に涙なしには見られないほどに切なくピュアで美しい恋と友情の結末を迎えました。

#1冒頭 いつものメンバーが春ののどかな日に多摩川の河川敷で四つ葉のクローバーを探すシーンが描かれここではぐみが見つけたクローバーがラストシーンに生きてきます。

 クローバーあるかな?

 理花と半ば強引に北海道旅行を敢行した真山。2人の関係は進展するも、理花は仕事でスペインに旅立ちます。

一方、森田は兄の馨とともにある目的のためにシカゴに。

二人の父が経営していた森田技術研究所。(東京都庭園美術館(旧朝香宮邸)がベースの建物です。)

社員の裏切りによってシカゴに本社を持つ会社にのっとられ、馨は再び買い戻すことを誓っていました。

 

赤い鱗瓦の屋根が可愛いメルヘンチックな森田家。

 

森田が不在のうちに、はぐみは大怪我を負って利き腕が動かなくなってしまうという悲劇が起き、

帰京した森田は入院中のはぐみを拐うも、はぐみは森田を振り切り病院へ戻ると修司に全てを託すこととなります。

森田も竹本も結局先生には敵わなかったというわけで。

 

 やがて卒業の春。竹元は修復師を目指して盛岡に旅立ちます。

そこで上野の駅に見送りに来たはぐみは「はちみつとクローバー」のサンドイッチを竹本に渡します。

ちょっとこじつけ感ありましたが最後にタイトルに結びついて完結となりました。

 

 美術の現場としては、4月にスタジオの引越しという作業を終えると、急遽新規スタッフを募集しました。

何しろ「ひぐらしの鳴く頃に」1期の制作と丸かぶりだったこともあり、少ない人数でどのようにこなしたのか舞台裏を明かすのも記憶にないほどにとんでもない状態だったのかもしれません。

ハチクロスタッフと2作掛け持ちの中堅スタッフ、どちらも大変な状況で、おそらくカノン史上いろいろな意味で一番過酷な時期だったかもしれません。

五月始めに募集をかけデッサン試験と面接で数人を研修に採用したわけですが

基本研修もいつもよりペースをあげ、とにかく本番BGで慣らしていこうと簡単そうなシーンにトライしてもらったものの、どんなに絵が上手くとも、やはり未経験者がいきなり描けるわけもなく、一人また一人と脱落。

簡単なようで簡単には描けない。それがアニメの背景というもの。

ハチクロの背景は手順がわかれば「ひぐらし」よりは早く描けるだろうと思いたかったのですが、現実はそううまくいくものではありませんでした。

水彩調が思ったより難しかったという人もいたことでしょう。

絵の具を解く水具合、紙に塗る筆さばき、どれをとってもセンスと経験が物をいう仕事。

みんな必死に絵の具と筆で格闘しているような感じでした。

しかし絵を描きたい!アニメが好きでこの仕事がしたい!と応募してきたスタッフの意気込みもあって、

なんとか少しづつ形になっていったというところでしょうか。

ハチクロとシンクロしながら絵を描くことの苦悩や意味、それぞれの才能との戦いがここでも繰り広げられていたのです。

 

大変な毎日ではありましたが、関わった人それぞれの後の人生に、このころの経験が少しでも生きていれば幸いです。

 

 

 本日の発掘レイアウト

 クールに見えて熱いハートの野宮さん。

 


2度目のスタジオ移転

2020年05月10日 | カノンの記録

 2006年4月、スタジオは2度目の移転をすることになりました。

1997 年(平成9年)から9年間住み慣れた本天沼の一軒家を去るのは大変心残りではありましたが、当時は仕事の依頼が立て込み始め、成長期のスタジオとしては大変ありがたいことだったので、スタッフ共々拡充して心機一転を図ることにしたわけです。

隣のアパートの1室も借りて分散して作業していたのですが、コミュニケーション不足で意思疎通がうまくはかれなかったなどの問題もあり、より広い事務所で一つに統一する方が良いということもありました。

 

ここで初めて法人向けの事務所探しが始まったのですが、何が困ったかといえば、それは水場の問題です。

事務所についている水場はほとんど給湯室として、小さなシンクと電気コンロ一つぐらいのもので、当然絵の具皿や筆を洗うには適しません。

絵の具も泥になって溜まるので、配管を詰まらせてしまう危険があります。

また現在はどうかわかりませんが、当時荻窪周辺の中程度の事務所といえば比較的古い物件が多く、入り口も狭いのでまず引っ越し作業が大変な上、見た目の良さといいましょうか、

要するに人が集まる要素としてマイナスな感じがしました。

かといって駅に近く新しいおしゃれな事務所はどれも大きめで家賃もお高く手が出ないといったところで、結構事務所探しは難儀でした。

事務所というより、テラスハウスや一軒家で「工房」の雰囲気を目指したかった気持ちも有りましたが、探す時間や予算の関係もあり、何かイメージが固まらないまま漠然と、とりあえす広い事務所を探そうというスタンスだったのかもしれません。

 

結局、少し古めでしたが、水場の増設ができるという条件で、それまでのスタジオから歩いて10分ぐらいのところにある商業ビルの3階を借りることになりました。

広さはかなりあり、スタッフ20人ぐらいいでも大丈夫な感じでしたが

大きく3つの部屋があり、玄関わきの一部屋は丸々資料や背景置き場とスタッフの休憩室となり、小さめの部屋は事務室兼社長室、そしてメインの広い空間はデジタル班と手描き班に分けました。

それでも真ん中で体操ができるぐらいのゆったりスペースで、相互のコミュニケーションもスムーズにとれて作業効率は良かったと思います。

しかし、周囲の環境という点では、どうだったかというと・・・

周辺に食堂やお弁当屋など若者向けのお店が少なく、一番近いコンビニでも10分ぐらい歩かなければならなかったので、不便といえば不便でしたし、古い商店街なのですがなぜがクリーニング屋ばかり数件おきに有り、こんなに需要があるのだろうかと疑問に思えるほどでした。

近くに大きな会社でもあるならサラリーマン御用達?とも思えますがそんな感じでもなかったように記憶しています。

人通りも少なく静かではありましたが、もう少し活気あるオシャレな商店街だったら休憩時間の気持ちも違っていたかもしれません。

しかし皮肉にも背景を描く仕事をしているにかかわらずあまり周りの景色をみる余裕もなく、ひたすら仕事に追われてしまった毎日で、コンビニとスタジオの往復が唯一の運動?という相変わらずの生活だったわけです。

 

このスタジオは意外に短く2011年(平成23年)5月までの5年間の使用となりました。 

 

残念ながら当時の写真がまるでないので、

ハチクロに登場した藤原設計事務所で代用?

外観は当然こんなオシャレなビルではありませんでしたが、内観はまあ、全然違うといえば違うのですが、まあ気持ちだけ事務所としてはそう違わない雰囲気!としておきましょう。(こうしてみると3度目に越したスタジオの方が近いかも)

 

 


修ちゃん先生ありがとう!

2020年04月16日 | カノンの記録

4月12日に声優の藤原啓二さんがお亡くなりになりました。

まだ55歳とお若いのに本当に残念です。

 

「クレヨンしんちゃん」のお父さん野原ひろし役でおなじみでしたが、長い間たくさんの役をこなしてくださいました。

 

何と言っても「はちみつとクローバー」の花本修二役は素敵でした。

芸術家としての挫折心を隠しながら、どこか飄々としてタバコをくゆらしていましたが

ここ1番は頼りになる心優しい先生でした。

理花さんの心をささえ、そして何よりはぐみを大切な宝物のように慈しんでいた修ちゃん。

 

 

まだ整理がつかずダンボールに入ったままの背景から修ちゃん先生のレイアウト見つけました。

描き手によって違いはありますが、なんだかどれも藤原さんのお顔と重なって見えてしまいます。

   ご冥福をお祈りいたします。


ひぐらし その3 園崎家の謎と双子の宿命

2020年04月05日 | カノンの記録

園崎家とは

雛見沢を昔から支配している御三家(園崎、古手、公由)の筆頭であり、村の権力者として

絶対的な力を誇る存在。

そして現頭首のお魎の孫にして次期期頭主となるのが園崎魅音である。

魅音には双子の妹がおり、彼女の名は詩音。

本来双子は昔から忌み嫌われる存在であり、園崎家でも片方は間引かれる運命だったがで、お魎の情けにより詩音は生かされる。

魅音はその名に頭首としての証である鬼の漢字が使われ、詩音には出家を意味する寺の漢字が使われているように、詩音は聖ルーチア学園という全寮制のミッションスクールに入れられる。

しかし詩音は窮屈な学園を抜け出すと、興宮のマンションで一人暮らしを始め、エンジェルモートという叔父が経営するファミレスでアルバイトをしたり、野球チームのマネージャーをしたりとなかなかの行動派である。

この詩音が沙都子の兄・悟史と出会って恋するようになったことで、双子の運命の歯車がが大きく軋み始めるのだった_____。

  


 

双子は単に仲の良い姉妹である以上に、表と裏の一心同体的な関係にあり、入れ替わったり、反目したりしながらも、深い絆で結ばれています。

一見男勝りでサバサバした性格で、リーダー格の魅音は、案外ナイーブで心優しい女の子。

逆に魅音より女の子らしいと思われている詩音は、したたかで行動派。激しい感情の爆発を抑えきれないエキセントリックな面があります。

魅音は園崎家当主という重圧と責任をかかえ、臆病な本性を隠して強がっていることで、心に歪みが生じてしまい、

一方の詩音は詩音で園崎家には「いらない子」として隠された存在であることで、心の奥底に疎外感と憎しみが渦巻いていたのかもしれません。

やがて嫉妬、思いやり、憎悪、そして抗いがたい運命が交差する二人に惨劇の嵐が巻き起こったのが「目明し編」です。

 

 

庭から見た園崎家母屋 / 圭一を客間で迎えた魅音はじつは入れ替わった詩音だった。

 園崎家の広大な敷地の奥に秘密の地下施設位通じる扉があります。農機具置き場の奥にあるものは・・・・

圭一が括られた拷問器具

 

見物席がある拷問部屋。ここで沙都子が・・・

 

「目明し編」では園崎家の地下施設を舞台に残虐シーンが展開され、驚きを隠せませんでした。

一体このアニメはどこに向かうのか_と訝ったものです。

行方不明となった悟史を慕うあまり、沙都子に逆上する詩音の感情はどんどんエスカレートし、

、梨花、圭一、そして魅音に至るまでことごとく牙を向けていきます。

トラウマや僻み根性が嫉妬や憎しみでサデスティックに爆発する恐ろしさを見せつけたことで、

詩音はアニメ史上に異彩を放った存在ではないでしょうか。