KANON廃園

スタジオカノン21年間の記録

迷作の行方

2019年08月30日 | カノンの記録
企画が通って、プレゼンテーション用の短編アニメが作られ、
TVシリーズ化がほぼ決定!
そこで具体的に制作が始まったものの、土壇場で中止!
ということは、まあよくあるといえばよくある話。

考えられる主な理由は
 ・ 原作者が出来に納得いかずOK が出なかった。
 ・ 監督が上の要求に妥協できなかった。
 ・ 制作元の力不足で、TV 枠が取れなかった。(TV関係者と大手制作側との癒着関係に割って入れないなど)
 ・ 予算不足で揉めた。
 ・ 制作会社が倒産した。
 ・ 関係者に不祥事が起きた。
 ・ 内容を模倣したような犯罪が起きた。
 ・ 倫理コードに反する内容だった。
 ・ そもそもアニメの出来が良くなかった。

まあこんなところでしょうか・・・?

現場の末端である我々にはきちんとした説明もなく、いつの間にか立ち消えていた、なんてこともよくあります。
「え?あの話どうなったんですか?」
「いや、まあ、むにゃむにゃ・・・」
まさにうやむや。
仕事を依頼したならちゃんと事の顛末も説明してもらいたいものです。

没になったものの、いつの間にか他社で制作されていたという作品もあります。
基本、制作会社が変わればスタッフも変わるわけで、続編ですらスタッフが全て違うことがよくあります。
設定やボードも著作権を握っている制作委員会がOKさえすれば、前作を参考にしたり、流用することも可能になり、その場合、前作の美術監督にいちいち断りなど入れない会社もあります。
 
★東京大学物語
 江川達也原作の人気コミック。 この作品は実写でドラマ化、映画化、そして2004年にアニメのOVA が出ています。
 実は2000年にTVシリーズの企画で、#1まで作られたものの没となりました。
 

コンテやボードなどが残っています。(2004年版OVAとは一切関係ありません。)









全体に淡い色調で、白飛ばし系の背景を目指しました。

ギャグ要素を抑えめにして、ソフトエロ系ラブロマンス?という感じで  
男の妄想とモノローグの世界を淡く包み込むような雰囲気です。




2000年の仕事②〜校長先生は金色のさかな・・・

2019年08月29日 | カノンの記録
★めだかの学校 2001年 OVA
原作 森ゆきえ りぼん連載の4コマ学園漫画
監督 高本宣弘
脚本 丸尾みほ
キャラクターデザイン 鈴木信一
総作画監督 丸英男
美術監督 柴田千佳子
製作  オフィス蒼

TVシリーズとして企画され、#1が制作されるも結局放送枠が取れず中止となりました。「ギャラはどうなるんだ〜!」と、いろいろ困った展開に。
翌年、制作元のオフィス蒼が0VAとして直販。(初の自社制作作品でした)


シュールとか不条理4コマとか言われますが、アニメはほのぼの系の可愛いタッチで、「めだか(ヒロインの名前)と愉快な仲間たち」といった感じです。


美術ボードいろいろ

懐かしい木造校舎





学校内の教室や廊下などはのちに某作品に生かされています。(というか偶然同じ色味だったかも?)
アウトラインに茶色の色鉛筆を使っています。


校長室
なぜか頭だけ魚の田中先生が校長です。イギリス人とのハーフらしい。 


特定の場所ではないけれど今でもありそうな田舎の景色。

2000年の仕事① 〜KAIKANの意味は!?

2019年08月27日 | カノンの記録
★「KAIKANフレーズ」1999年4月〜2000年3月まで放送 全44話
原作 新條まゆ「快感フレーズ」より
監督 ときたひろこ
キャラクターデザイン 中山由美
美術監督 河野次郎
色彩設定 秋山多恵子
アニメーション制作 スタジオ雲雀

ビジュアル系バンド全盛期に人気を博した漫画で、作中に登場するバンド・Λucifer(リュシフェル)が現実にデビューして活躍するという音楽と現実のコラボレーションの先駆けとも言える作品。
アニメの前半はオリジナルでバンドのインディーズ時代が描かれ、ヒロインは#19から登場。
女子高生の愛音とボーカリスト・咲也との恋愛を軸に彼らを取り巻く人間関係が描かれるわけですが、愛音に嫉妬して陰湿な嫌がらせをする女優など、
昼メロのようなドロドロとした展開がスタッフの間でも話題になりました。

「快感」とくれば 「セーラー服と機関銃」を思い出しますが、女子高生の鬱積したイライラを解放する爽快感。
こちらの「快感」の意味は愛音の作る歌詞と咲夜の歌声が醸し出すハーモニーの心地よさを表現したものか?と思っていましたが、
原作ではもっとストレートな意味だったらしく、妄想から現実化した二人の関係はどんどんエスカレートしていき、流石にTVアニメでは描けないシーン満載だったようです。

カノンでは#30、#33、#37、#42、と音楽ビデオの背景を担当。

 
夜景の参考ボードがありました!



ビルの灯りが筆描きならではの絶妙なタッチで入っています。
手前の歩道橋はセルに描かれていますが、セル絵の具にポスターカラーを混ぜて描かれています。
街灯の灯りなどブラシ処理をすると周りにも絵の具の粒子がつきやすく、傷も目立つため、こうしたセルBOOKは扱いに慎重を要する作業でした。

街の調査実習

2019年08月26日 | カノンの記録
2000年(平成12年)
この年も新規の美術・背景セットのシリーズがなかなか決まらず、いろいろな背景のお手伝いに終始しました。
実はTVシリーズの企画が持ち上がって1話までは作るものの、シリーズ化は立ち消えになったという作品も何本か重なり、やや不遇の年だったと言えます。

過密スケジュールから解放されて、スタッフは比較的のんびりと仕事に取り組め、他社と合同で、お花見や納涼船ツアーなどのレクレーションを行うようになったのもこのころです。

また、背景の打ち合わせに担当として一人で出向いてもらうという経験を積んで、いろいろ事務的な仕事を覚えてもらうチャンスでもありました。

つなぎの仕事がうまく入らず、手が空いてしまうときもあります。
そういうときは、模写をしたりデッサンしたりと、まあすることはなきにしもあらずですが、特に気になっていたことは街の構造の理解と観察が不足しているということでした。
何やら社会学的で難しそうな感じですが、要は、日常の街を描くにあたって最低限把握しておかなくてはならないことがあります。
住宅街の道路の幅、電柱の高さ、塀の高さ、家屋の作りなどなど、あらゆるものに、「基準」があります。
それを無視して見た目だけで描くと、結構いいかげんになります。
緻密な数値までは必要ありませんが、人物と対比しての大きさも把握しておかないと、原図整理(背景用にレイアウトを整えること)が的確に進みません。
そこで新人の頃は実習としてまず身近な街の住宅街調査を行ってもらうことにしていました。
机にかじりついてばかりいないで、まず自分の足で歩いて観察してください、ということです。
分類表の記入式にして、スケッチなども添えて提出してもらいました。
概ねこの調査は背景家には役立つものだと思います。

今ではすぐになんでもネットで調べればとりあえず事足りる状況ですが、自分の目で地道な取材をすることは、どんな絵を描くときも欠かせないことです。



1999年(平成11年)の仕事

2019年08月24日 | カノンの記録
★「週刊ストーリーランド」1999年10月〜2001年9月放送
視聴者から寄せられたオリジナルストーリーをアニメ化するというバラエテイ番組。
特にアニメ好きではない一般視聴者向けというか、絵は劇画調のものが多く、アニオタ好みの美少女系キャラは一切登場しません。
オカルトやブラックユーモア的なお話に人気があったようです。

 第29話 「誰もこない予約席」
 制作 日本アニメーション 
 演出・作画 三浦辰夫

クリスマスイブの夜、海辺のおしゃれなレストランに一組みのカップルがやってくる。
席は満席だが、窓辺の予約席がいつまでも空いている。主人はこの席にまつわるある夫婦の話をしんみりと語り始める・・・。

9月に「天使になるもん!」の作業が終わり、この年は他に特筆すべき仕事はありませんでしたが、1本だけオールデジタルの背景というものをやってみました。

アニメーション制作のデジタル化はすでに少しずつ波及していましたが、仕上げ、撮影に比べて、背景部門はまだほとんど手描き(紙媒体によるもの)が主流でした。
撮影とセルがデジタル化した場合、背景は撮影などにスキャンしてもらうという形を取っていましたが、自社でスキャンをする場合は専門の作業員が必要なのだからスキャン代を別途請求すべきといった声が背景会社から上がっていたような状況です。

デジタル化移行期と言えるこの時期に、たまたまデジタル作品の話が1本あり、試しに背景も全てデジタル描き(フォトショップで作成)してみようということになりました。
もっとも自分はまるでフォトショップ操作など興味もなく、スタッフの一人がデジタル描きを是非やってみたいと希望した為、このお話の中心となるレストランシーンを任せてみることにしたものです。
手描きに少々自信をなくしていたところだったらしく、こういうチャンスを得て、また新たな意欲が湧いてきたようでした。
 設定と原図整理は私がやりましたが、それに彩色してボードを作ってもらい、あれやこれやとチェックを重ねました。

手描きと違って、この当時はどうしても色に深みや渋みが足りないというか、PC 画面で綺麗に見える色はTV ではかなり派手になってしまいます。
そのあたりの調整加減がまだよくわからないころだったので、見た目で良いと思えるものでやっていくしかありませんでした。
のちに別作品で、マスモニだのキャリブレーションだのうるさくいわれて、辟易したこともあります。

演出さんにも直接チェックに来てもらい、あーだこーだと調整を重ねましたが、何しろまだフォトショップのバージョンも低く、PCのスペックもさほどないころの話なので、出来のほどは限られていたかもしれません。


今でこそベテランの美術監督に成長した彼がこの当時のデータを見ればどう思うだろう?と思いつつも、すでにデータらしきものは存在しないのが残念至極。のちにHD が壊れてなくなったとか・・・)

 手描きの背景が何枚か残っていました。


レストランの窓から見える風景。少しづつたそがれていきます。

山の背景が違っているのはなぜだろう・・・と思ったら、どうやら現代と過去で違いを出したようです。


回想シーンでタッチを変えた背景にしています。