KANON廃園

スタジオカノン21年間の記録

2005年の仕事②〜美大生の恋はハチミツの味?

2019年12月24日 | カノンの記録

☆ハチミツとクローバー  第1期   2005年4月〜9月放送(ノイタミナ)

監督 カサヰケンイチ

シリーズ構成・脚本  黒田洋

キャラクター監修   羽海野チカ

キャラクターデザイン  島村秀一

総作画監督 吉田隆彦

サブデザイン  都築裕佳子

美術監督   柴田千佳子

色彩設定   石田美由紀

映像設計  大河内喜夫

撮影監督 黒澤豊(

編集      西山茂

アニメーション制作 J.C.STAFF

「ヤングユー」という女性漫画誌に連載された人気コミックのアニメ化作品。(のちに「コーラス」に転載)

美大に通う男女の切ない恋愛や将来の不安など、ギャグも満載に、総じてリリカルに描いているストーリー。

アニメはほぼ原作のイメージを壊さないように、丁寧に描いた感じです。

背景的には、ほぼ「フルーツバスケット」路線ですが、用紙も変えて水彩画風の滲み効果を出し、セピアの色鉛筆タッチも多用しました。

何しろ舞台が美大なので下手な絵は描けない、と言ってリアル過ぎても合わない、と色々悩むところですが実はほとんど悩むことなく好きなように描かせていただいたので、楽しい仕事となりました。

原作を愛するスタッフが多く揃ったことで、互いに一生懸命描こうとする相乗効果が生まれて良い作品となった好例です。

 

 けれど美術としては単独にフィーチャーされることはほとんどなかったというか、

撮影効果で全体に白っぽかったせいか、背景手抜きとか楽な仕事している、なんて思われていたのかもしれません・・・。実際は描くところはちゃんと描いていたつもりですが。

 

舞台となる美大として、まず武蔵野美術大学を取材。

まあ設定としてはほとんどそのまま?だったような。

浜美大正門

校舎色々  アンティークモダンな壁が素敵。

 掲示板にはクラブの勧誘など様々な情報が満載です。

 キャンパスのあちこちにアート作品が無造作に置かれています。

 描きかけの絵と散乱した道具が美大っぽい雰囲気。

 陶芸部などがある部室棟。 敷地の奥にあります。

 

 紹介したい画像が多いので次回につづく。

 


2004年の仕事 こぼれ 〜カオスな爆乳大レース!!

2019年11月26日 | カノンの記録

☆OVA「エイケン エイケンヴより愛をこめて

監督 大畑清隆(前編)、阿蘭墨(C) (後編)

脚本  大久保智康

キャラクターデザイン 石浜真史

作画監督 生黒雄男(前編)、秋島栄太(後編)、寺沢伸介(後編)、トム・コリンズ(後編)

美術監督 柴田千佳子

色彩設定 伊藤由紀子

撮影監督 塩田潤

アニメ制作 J.C.STAFF

前編は2003年6月、後編は1年後の2004年6月に発売されました。

当初は後編も続けて制作の予定でしたが、まあ予定はあくまで予定なのがアニメ界の常識?で、

コンテの遅延など諸般の事情があったわけですが、正直作っている方も忘れていたところに後編の制作となったわけです。

監督の大畑氏は「天使になるもん!」や「あずまんが大王」などの演出でもお馴染みでしたが、

「困った時の大畑さん」と言われていたほど、スケジュールが詰まってどうにもならなくなった時、

止めや兼用カットの多様で作業量を減らしながら味のあるコンテでストーリーをうまくつなげて下さったという印象があります。

この作品では「大畑色」を出すことに少々こだわりすぎたのか、制作側がカオスに落ちてしまった感があります。

色々「誇張」が多い絵柄ではありますが、 まずもって美少女キャラ達はお顔の可愛さに比べて、皆とんでもない超がつく爆乳で、

あられもないポーズで胸と尻を晒し続けることにびっくり。

18禁すれすれの際どいエロをギャグに包みながら、まったり風味に表現しようとしたのかもしれませんが、

ちょっと違和感というか、あんなに胸が大きければさぞや肩が凝るだろうにと余計な心配をしたものです。(笑)

エロのメタファーなのか、バナナの皮ギャグを多用していたのも、ベタすぎることが狙いだったにしろ、ちょっとしつこかったかも。

奇妙なアングル、長回しのカットなどお馴染み演出も満載ですが、これは近年のアニメにも影響を与えています。

さてこの作品は意味があるようでない単なる変態エロギャグアニメなのでしょうか?

昔のフランス映画のような(シュビダバダ〜的な)メロディとともに エロいポーズが思い切りよく描かれて、変態レースがスピーディに展開していきますが、

感想となるとこちらもカオスに陥りそうなので

成績は良いらしいがさえない男と、シャイでピュアな心を持ったヒロインの爽やか学園ドラマ!ということで落着しておきましょう。

舞台となったザッショノ学園の背景も作品のイメージを上品なものに仕上げております。

学園全景  おしゃれなモンサンミッシェル風

 恋人が語らうような東屋も完備

最後は温泉でまったり


2005年の仕事①〜腐女子待望のボーイズラブ解禁!

2019年10月10日 | カノンの記録
★「好きなものは好きだからしょうがない!!」2005年1月〜3月放送 全13話

  原作 プラチナれーべる(ゲーム「好きなものは好きだからしょうがない!!」より
  ゲームシナリオ 沢城利穂
  キャラクター原案 つたえゆず
  監督 二宮ハルカ (宮崎なぎさ)
  シリーズ構成  池田眞美子
  キャラクターデザイン 山口真未
  美術監督 柴田千佳子
  色彩監督 秋山久美
  アニメーション制作 ZEXCS
    
   ※原作は18禁ボーイズラブのアドベンチャーゲーム。

ボーイズラブというジャンルのアニメはOVAでは結構以前からあったものの、TV シリーズとしては異例の初物となったようです。
まあそこは「ダ・カーポ」などと同じくエロアニメではありません。

二重人格者の少年達の心の闇と失われた過去の記憶との葛藤、その真相究明というシリアスベースながら、
少年達の絡みはギャグテイストも織り交ぜてで爽やか学園ドラマ風味に作られました。

横浜の某大学に取材して、学食、図書館など、キャンパスのおしゃれな雰囲気を演出。

当時は別作品と重なっていたため、思い切って中堅スタッフに設定を担当してもらいました。
ついで、美術補佐として各話の担当もお任せして、デジタル班主体で、背景作業を進めてもらいました。
もちろんメインのボード作成や背景チェックはしましたが、
この体制に制作会社側への根回しが足りなかったため、制作サイドから少々不満の声が上がってしまいました。

(スタッフを育てたいのはわかるが、もう少し私が美術監督として表に立って欲しいというようなことでした。)

スタッフを美術に押すにはまず制作会社、監督はじめ皆様への事前の了解が必要なのですが、
さらっといきなりやりすぎたのかもしれません。
今思い起こせば
言葉足らず、愛想足らず、要するに営業下手だったようで・・・。
反省してます。

でもこれを機に担当スタッフは美術監督への道を進む足がかりになったと思います。


少年達が暮らす寮。キャンパス内にあります。


校舎に向かう道

 学校全体が緑豊かな高台にあるという設定です。




たんぽぽ論争〜こぼれエピソード1

2019年10月04日 | カノンの記録
2001年のフルーツバスケットで、OPと#18、#25の演出を担当された長浜氏とは
実は前年に[モンスターファーム〜伝説への道]というTVシリーズのOPで顔を合わせていました。
この作品の美術監督から依頼されたものですが、
(多分スケジュール的な理由で手が空かない状態だった?)
演出も本編と違う人なので、美術も多少違っても構わないというようなことを言われて、お引き受けしました。
モンスターファームは当時人気のゲームのアニメ化で、すでに1期は2000年3月終了。
続けて新章がスタートしたというわけですが、実はファンタジー系バトルものというぐらいしか知らず、アニメも全く見ていませんでした。
内容もよく分からないまま引き受けたのですが、OPは異世界と現代の背景シーンがあって、全く手が出ないという内容ではありませんでした。

長浜氏はコンテも原図も描き起こす絵の達者な方で、演出も1カット1カット大変凝っていたように記憶しています。

BOOKで重ねた街並みが左右に流れていく、昔の「立体アニメ家なき子」のような手法も多用されていました。

作画出身の演出家に多いのですが、BOOKが多いとか、PANを多様する、望遠表現好き、など、作業量を増やすばかりの過剰な演出が時折見受けられますが、
長浜氏は緻密表現ばかりではなく、大胆に省略したようなカットなど、緩急のつけ方が上手な感じです。
 
何よりも、打ち合わせではどのカットも熱く語る、熱心さにあふれているお方。

その中に、現代の都会のシーンで、道路ぎわにタンポポが咲いているカットがありました。
このカットについては別段演出意図としての説明は受けていなかったのですが、現代シーンはモノトーン調に、という一連の流れで描いたものです。
ところがなぜかこのカットだけ何度もリテイクをいただき、(修正用紙に具体的に絵の形の修正が載せてあり、もっと、角度はこうとか、太さはこうとか、絵図らの指示)
修正指示通りに直しては見たものの再リテイクとなるので、一体この絵のどこがいけないのかと、ちょっと怒り気味に直接電話してみました。
詳しいやり取りは忘れてしまいましたが、どうやら、演出意図が私の解釈と全く違っていたようです。
 
こちらとしては、都会のアスファルトに咲くたんぽぽなので、やっと咲いてるような、ひ弱なイメージかと思っていました。
ところが 長浜氏曰く、「そうじゃないんです! アスファルトを割って咲いてくるのだから、逆に生命力に溢れた力強さが必要なんです!」とのことで、
鼻っから、解釈が違っていました。
どう直して納得いかなかったわけです。
考えてみれば、冒険と戦いに向かうお話で、ましてOPで無意味なカットがあるわけもなく、タンポポ一輪で力強さ、元気さの象徴としたいというほうが納得です。

もっとも、絵図らのリテイクではなく、最初にこの意図を説明してくれたらよかったのに、というだけのことなのですが、 
この件以来、長浜氏と私は噛み合わない、ぶつかり合う関係という印象を周りに与えてしまったようです。

美術のK氏は、「その意図が 説明しなきゃ見た人(視聴者)にすんなり伝わらないなら意味ないよね。」とすっぱり。

しかし背景家は演出家ともっと表現の意図について話し合うべきです。
伝わらないこと(うまく伝えられないこと)は自分で勝手に直す、という演出家も多く、ちょっと心外です。

「フルーツバスケット」では、竹牢のBOOKで「ちょいボケ、ちょいちょいボケ、さらに強いボケ」など何段ものBOOK指示を出すので、
どれほどの意味があるのか、無駄な作業させるなと突っ込んだこともありましたが、デジタルでいろんなことをやってみたいころだったのかもしれません。

もちろんその後は「蟲師」などの監督をつとめ、
長浜氏の目覚ましいご活躍ぶりを賞賛しております。はい。


いっそタンポポを動画にすればよかったかも・・・



2004年の仕事②〜鏡の向こうのドール戦争

2019年09月29日 | カノンの記録
★ローゼンメイデン
第1期2004年10月〜12月放送  全12話

原作 PEACH-PIT
監督  松尾衛
シリーズ構成  花田十輝
キャラクター・デザイン・総作画監督 石井久美
イメージデザイン 春日井浩之
美術監督 柴田千佳子
色彩設計 勝沼まどか
アニメーション制作 ノーマッド

引きこもり少年ジュンの元に届けられた鞄には美しいアンティークドールが入っていた。 
ネジを巻くことで目覚めた人形は「ローゼンメイデン第五ドール・真紅」と名乗る。
19世紀の人形師ローゼンが作った7対の人形がそれぞれ現代で目覚め、
究極の少女アリスを目指して戦う「アリスゲーム」に、
真紅との主従契約を結んだジュンは巻き込まれて行くことに____。

家から一歩も出ないで自室にこもりっきり、登校拒否などの引きこもり現象は昔からあったと思いますが、
平成時代に「引きこもり」というワードがクローズアップされるようになり、今では「オタク」同様当たり前に使われています。
そんな引きこもり少年が主人公ですが、立ち位置はのび太君のようなもので、
彼の成長より、ツンデレな真紅をはじめ、次々登場する人形たちの華やかさに目を奪われます。

美少女、人形、アリス、主人と下僕というだけで、オタクごころをそそる見事な設定ですが、
ビスクドールや球体関節人形は少女のみならず変態大人の優雅な趣味。
人形たちに自分を「お父様」と呼ばせるローゼンさんはどんな人だったのだろう、と興味はつきません。
もちろん、かの「ローゼン閣下」とは違いますが。

まあそこは深読みしすぎず、ゴシックロリータ衣装のドールたちの活躍を
アールグレイでも飲みながら楽しみたいアニメです。
 
美術としては監督のおすすめで、色調の参考にまず「アメリ」を鑑賞。 
(黄色味ががった緑や赤などが特徴的。)

原作を読んだ時点では人形界をどう設定しようか楽しみにしていましたが、 
監督のこだわりが色々あるためか、人形界の方は監督の右腕として春日井さん担当、
あなたはノーマル世界の設定だけお願いします、と最初に言われて、ちょっと腰砕け。

まあ人形界もただのイメージ空間ではなく、(監督はよくあるイメージBG がお嫌い)
色々意味のある不思議ファンタジー世界なので、一筋縄ではいかなかったかもしれません。

ノーマル(現実)世界として、学校や住宅街、ジュンの家などを設定しました。


引きこもりの少年にとって、外の世界はかぎりなくグレーな鬱の世界。
そのため、モノトーンに近い色味になっています。


 ジュンの家_浅い夕景


 ジュンの部屋 見た目とても小綺麗。パソコン以外のオタクグッズは切り返しの棚にあります。



一階廊下の突き当たり、物置の中にある鏡が異界への入り口。


ローゼンメイデン第6ドール「雛苺」のフィールド。
レースの縁取りのあるリボンの通路が幾重にも重なり、背景家泣かせな世界です。


ローゼンメイデン第1ドール水銀燈のフィールド。
暗いピーコックブルーに包まれた、中世の荒廃した街並み。彼女の傷ついた心と体を象徴する世界。