KANON廃園

スタジオカノン21年間の記録

2003年の仕事①〜裏新宿闇稼業の壮絶バトル

2019年09月12日 | カノンの記録
★ゲットバッカーズ_奪還屋 2002年10月〜2003年9月放送 全49話
 原作 青樹佑夜
 漫画 綾峰欄人(講談社刊「週刊少年マガジン」連載)
 監督 古橋一浩 元永慶一郎
 シリーズ構成 面出 明美
 キャラクターデザイン 中島敦子
 メカニックデザイン 村田俊治
 美術監督 柴田千佳子
 色彩設計 松本真司
 撮影監督 川口正幸
 編集 松村正宏
 アニメーション制作 スタジオディーン

裏新宿というスラム街を舞台に、
奪られたものは奪り還すという奪還屋「GetBackes(ゲットバッカーズ)の美堂蛮と天野銀次の活躍を描く。
原作は2007年まで8年も続いたという人気作品。


2002年に「あずまんが大王」と「ちょびっツ」という同時期のシリーズを受けるという無謀極まりない状況をなんとか抜け出したと思いきや、この作品が10月からスタートしていたことを今更ながら確認して驚きを隠せません。
そもそもこれまでの手がけた美術の多くが、淡め色彩、まったり系少女マンガ風などで、
いきなり少年漫画の作品の美術がどうして依頼されたのか、こちらの方も謎。
当然監督依頼ではないので、他社に空きがなくて止むを得ず?と思ったりもしましたが、いただいた仕事はそうそうお断りできない立場でしたので、心引き締めてお受けいたしました。

ボードを描いたのは覚えているのですが、#1の背景はもうどのように仕上げたのか・・・
個人外注様を色々探していただいたりしましたが、結構バラバラな上がりになってしまい、最初からこれではまたまたディーンさんにご迷惑おかけしてしまうという恐怖の中で、焦りまくっていたような気がします。

ハードで重厚な背景の世界、まあ、言ってしまえばそれまでの多くの作品にある本流の背景の描き方に戻したので、
スタイルがつかめれば描けないこともないのですが、
この作品の情報量というか、シチュエーション的にかなり厳しかったのはいうまでもありません。
九龍城がモデルという裏新宿にそびえ立つ無限城はじめ、都会の街並から、果ては軍艦島、沖縄、
グランドキャニオンなどの世界遺産や廃墟、残骸、ハイテクメカ施設、あらゆるものを描きこなさなければならない世界でした。
幸いなことに、他社から移籍していた中堅スタッフが、この作品では水を得た魚のごとく、かなりの力量を発揮してくれました。
改めて思い起こすと、彼らの背景技術は、今残された絵を見ても高水準です。
手描き時代の技術がほとんど必要なくなってしまったのは残念ですが
その後デジタルに移行しても活躍していることでしょう。


 九龍城というより、都庁が廃墟になったような外観の無限城。


城内には様々な通路や部屋が迷路のように張り巡らされています。全容は不明。


 銀次の過去に絡む部屋


 雷ハイコンのシーン。デジタルで全て色調整して、ボードはまだプリントアウトして提出していました。


 奪還屋が仕事をもらいに集まる喫茶ホンキートンク。アメリカンスタイルの酒場風。



 美しい自然景観が出てくるとホッとします。

2002年の仕事②〜 パソコン彼女の育て方

2019年09月10日 | カノンの記録
★ちょびっツ 2002年4月〜9月放送
原作 CLAMP
監督 浅香守生
キャラクターデザイン・総作画監督 阿部恒
美術監督 柴田千佳子
色彩設計 角本百合子
撮影監督 葛山剛士、岸克芳
アニメーション制作 マッドハウス

ゴミ捨て場に捨てられていた人型パソコンを拾った浪人生、本須和くん。
なんとか起動するも、彼女は「ちぃ」としか言わないためそのまま「ちぃ」と名付ける。
まるで純粋無垢な少女そのものの彼女と不思議な同棲生活がはじまり、様々な日常のトラブルに巻き込まれて行くも、 やがて開発者に絡む隠された謎が明かされて行く。

 パソコン彼女または彼との共同生活が近い将来現実になるかもしれない、と思わせる設定。
育成型パソコンなら 自分の意のままにプログラミングして、自由に操れるわけで、どんな冴えない男でも光源氏状態になれるかもしれないという期待。
よって、このお話は男の願望を描いた漫画で、パソコン彼女とのおもしろおかしいすれちがいコメデイとしてだけ描いていれば楽しかったのにね、と思うほど物語は案外複雑な方向に展開しました。

過去の秘密に、自分たちの愛しい娘として作ったはずの双子パソコンの一方が、父を恋愛の対象としての独占欲にとらわれ、やむなく「こころ」を病んで壊れていく。 けれど「愛する対象を求めるこころ」は保存され、残った片割れのパソコンは初期化され、新しい相手に出会うために捨てられたといういきさつがあり、捨てられた「エルダ」というそのパソコンこそ、「ちぃ」の本当の名前でした。
 
何やら人間と同じくコントロールできない感情の問題が隠されていたわけですが、プログラムをうまく組み込めば、パソコンとの恋愛も成就できる????




本須和のアパート「ガブ城ヶ崎」
原作に合わせて設定しましたが、同潤会アパートがモデルです。


室内初期イメージボード。  貧乏臭くなりすぎ?で却下。


古いけれどこぎれいな感じになりました。このシーンの背景を度々入社の模写試験に出しました。


ちょっとホラーな展開になりやすい廊下。


本須和がちぃの下着を買いに行った店。阿佐ヶ谷あたりのアーケード商店街にあります。



2002年の仕事①〜ちよちゃんのおさげは人参!?

2019年09月07日 | カノンの記録
★あずまんが大王 2002年4月〜9月放送

 原作 あずまきよひこ(メディアワークス刊「月刊電撃大王」)
 監督 錦織博
 シリーズ構成 大河内一楼
 キャラクターデザイン 加藤やすひさ
 美術監督 柴田千佳子
 色彩設定 店橋真弓
 撮影監督 高瀬勝
 アニメーション制作 J.C.STAFF

  ※前年の冬、TV シリーズに先立って、5分間の劇場版が作られました。


原作は4コマ漫画で綴る女子高生の日常学園コメデイといったところ。
愛すべきキャラたちのちょっと間が抜けたようなボケとツッコミギャグが織りなす平和な世界。
このまったり感がスルメのようにじわじわと癒し効果をもたらしたのか、多くのアニメファンのハートをつかんだようです。
ユニークなOPも話題に。



「天使になるもん!」の錦織監督の依頼で初めてJ.C.STAFFの仕事をすることになりました。
それまではJCさんと言えば、美形キャラ、リアルめの背景というイメージがあり、
「闇の末裔」など背景会社の下請けでお手伝いしたことはあったものの、自分が美術を依頼されることはないだろうと思っていました。

「あずまんが大王」だからこそ、明るく楽しい4コマ作品の背景ならなんとかこなせるだろうと比較的甘い乗りで引き受けたものの、
 JCに初めて伺った時は何かとても緊張したような気がします。
 (イケメン、強面織り交ぜて、当時のJC制作部はプロデューサーの目が光る男性軍団だったからか!?)

この作品は学校の教室やそれぞれのキャラの家、住宅街などがメインの背景でしたが、 
「行事」によっては描き込みを要するシーンが色々出てきました。
夏休みはキャンプ場のバンガロー、初詣の神社など、
そして沖縄への修学旅行編がありましたが、残念ながら取材には行けませんでした。

吉祥寺あたりなど取材写真をレイアウトにした原図が度々入ってきましたが、
沖縄編の時はスケジュールも押してしまい、
結構大変な内容なので急遽「スタジオ風雅」に手伝っていただきました。
さすが風雅様、素晴らしい背景でした。
その節はありがとうございました。


沖縄の某ホテル





 石像がハーモニー処理でした。


沖縄とくればやっぱり首里城!

その他、色々な背景会社にお世話になりましたが、驚くべきは、当時のスタジオジブリの背景部にお手伝いいただいたことです。
丁度「千と千尋の神隠し」も終わり、手が空いていたのでしょうか。
こういう軽めのTV作品も経験して、描くスピードを上げたかったのかもしれませんが、丁寧に仕上げていただいて、大変恐縮してしまいました。
後にも先にもジブリとのお付き合いはこれだけでしたが。
皆様本当にありがとうございました。

フルバよ 永遠に

2019年09月04日 | カノンの記録
フルーツバスケットのOP 曲が流れてくると、じんわり涙ぐまずにはいられません。

確かにアニメのOPとしては 派手な動きもカット割りもなく、地味といえば地味なのですが、
思わず正座して見つめたくなるような静謐さを保った特異なOPと言えます。


十二支の呪いを受ける草摩家の人々にさえ忌み嫌われる存在である「猫」の呪いを受けている夾。
猫からさらに異形の姿に変身することで呪いを封印する数珠を身につけてはいるが、心の奥深くに逃れられない宿命を背負った者の深い苦しみと怒り、そして悲しみが内在している。

そんな彼をありのまま受け入れ包み込む透のイノセントな愛こそが、彼ら一人一人の心を癒し、少しずつ解き放っていく____。

そうした最終回に至るまでの物語の骨子を全て表現したような岡崎律子さんの歌詞が心に響きます。

このフルバで多くのスタッフが、お話の流れとともに一気一憂しながら、たくさんの苦労を重ね、力を出し切ったことで、終了後は虚脱感を感じたことでしょう。

背景部でも、演出のきめ細かさに対応するため、P Cに背景をスキャンし、デジタル効果を入れて調整するようになりました。
それは描くだけよりも2重の時間を要することでしたが、演出、撮影スタッフも背景部に乗り込んで、オールスタッフで作り上げる本来のアニメの作り方を経験した充実感がありました。
また、それまで自身にわだかまっていた、苦しいこと悲しいこと、仕事に没頭することで忘れようとしたことが、フルバの作業を終えることで、昇華したかのような感じでした。

この作品とともに様々な思いを封印し、葬ってしまったのかもしれません。


墓碑銘は「For Fruits Basket」






OP のラストカット

撮影された写真がレイアウトです。


写真をコピーして、その上から筆でリタッチしてほしいという演出の要望でした。母の写真はセル

2001年の仕事〜十二支の呪いという不思議

2019年09月03日 | カノンの記録
★フルーツバスケット2001年7月〜12月放送 全26話
原作 高屋奈月 「花とゆめ」連載
監督 大地丙太郎
助監督 宮崎なぎさ
シリーズ構成 中瀬里香
キャラクターデザイン・総作画監督 林明美
美術監督 柴田千佳子
色彩設計 松本真司
撮影監督 川口正幸
アニメーション制作 スタジオディーン

異性と接触すると十二支の動物に変身してしまうという呪いを受け継ぐ草摩家の人々。
彼らと出会って出居候となったヒロイン本田透は、両親を失い孤独な身だが健気で明るく天然この上ない女子高生である。
特異な設定ではありながら、ごく日常の世界でハートフルな物語が展開される。
大地監督ならではの炸裂するギャグシーンとシリアスドラマの落差がおもしろい。
原作がまだ終わらずのアニメ化で、結局アニメ独自の展開で終了。
続編はリクエスが多くあったものの作られることはなかった。

「くろみちゃん」に続いて大地監督から再び依頼があり、
この年は1月から12月までほぼ「フルバ」づけの1年となりました。
久々の美術・背景セットのTVシリーズで少女漫画の原作ときたので、イメージも膨らみ、大変楽しみな仕事となりました。
制作はあの「逮捕しちゃうぞ」でご迷惑おかけしたスタジオディーンでしたが、汚名挽回のつもりで気合が入ったというのも事実です。
各話の演出陣も大変力量のある方々が参加し、それぞれの特徴を遺憾無く発揮された作品だったと思います。

舞台を鎌倉あたりと想定してメインスタッフと取材に行きました。
鎌倉に点在する古い日本家屋や瀟洒な洋館、自然の雰囲気など観察しながらそぞろ歩き。
最近のアニメと違って、聖地巡礼となるような特定の場所を絵にはしていません。
あくまで雰囲気の参考。

もう一箇所、小金井公園にある、江戸たてもの園も取材しました。
こちらは歴史的建造物を移築してあるところなので、とても興味深く拝見しました。他の作品にも役立っています。


この作品は全体に白飛ばし系、水彩画調な雰囲気で描いていますが、
撮影でもフレアやディフィージョンフィルターがいろいろ入り、柔らかい画面仕上がりとなっています。
そのため背景の描き具合と撮影効果との兼ね合いが難しく、全体にぼやけすぎないように、
初期ボードを描いていた頃よりだんだんしっかり描くようになりました。


草摩家外観 少し人里離れた山の中にある古い日本家屋




居間の奥に見える額には、体の部位名が書かれていて、毎回変わりました。監督のお遊び的なリクエスト


縁側のシーンが多く出てきました。


縁側から見た庭  春から夏、秋、冬とそれぞれの季節が描かれました。かなり大判で描いて兼用しています。


透の通う高校