これは、2009年11月25日に書いた「創聖のアクエリオン」の二次創作SSの再掲です。
また、「太陽の翼CP20お題19.ただ伝えたくて」で「スコルピオス×アポロニアス」で、
書かせて頂いた作品です。劇場版ですね。
スコルピオスの想いに関しては妄想の産物ですが、アポロニアスに関しては俺設定です。
大丈夫な方のみ下へスクロールしてご覧下さい。
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<ただ伝えたくて>
どうしたら、この仄かな想いが伝わるのか。
ただひたすら人間界の為に尽力する事しか知らなかった無垢な青年には、一向に分からない。
それでも、手の届く処に、今、目の前に、その存在があるのだ。
その奇跡とも言える真紅の天翅を観る度に、何度でも恋に堕ちる気がするのだ。
だがその想いは、決して叶う事は無い。
人間を翅なしと蔑み、獣のように捕獲し、プラーナを搾取する上位生命体の堕天翅達。
その同族の堕天翅達を裏切り、北極に位置するアトランディアから地に舞い降りたアポロニアス。
彼はアリシア王家の姫セリアンと恋に堕ち、今その迎えを待っているのだ。
漆黒の衣装を身に纏った青年スコルピオスは大きな溜息を漏らした。
窓辺に腰掛け、階下の中庭を見下ろしていたスコルピオスに、
人間界の本を山積みにして読書を楽しんでいたアポロニアスは、ふと顔を上げ彼の変化に気付いた。
午後の柔らかな光が、横に聳える塔で遮られ、いつも明るく聡明なスコルピオスの顔に陰を落としている。
深刻そうな表情だった。
数分で本に書かれている数ヶ国語を読解したアポロニアスは、
心配そうに首を傾げ立ち上がると、彼の顔を覗き込んだ。
突如、目の前に、ルビーでさえ色褪せる程艶やかな瞳が現れて、
スコルピオスは小さな悲鳴を上げて窓辺から室内に飛び退いた。
「…………アポロニアス様。先に声をお掛け下さい。……驚きました」
動悸が激しい。
必死に平静を装おうとするが、返って身体中が心臓になってしまったかのように感じられる。
胸の前で拳を作ると大きく呼吸をして息を整えた。
スコルピオスがそんなに驚くとは考えていなかったのだろう。
顔を覗き込んだ当人であるアポロニアスも、
スコルピオスの余りもの動揺に返って体調を悪くさせてしまったのではと更に心配そうに眉を潜めている。
「当分此処で私は本を読んでいるから、君は部屋で休んだ方が良いのではないか?」
深刻な顔で考え事をしていたのを、アポロニアスは体調が悪いのではと心配したようだった。
人間界では「殺戮の天翅」と呼ばれ、人々に恐れられていたアポロニアス。
しかし、本来の彼は物静かで心優しい不器用な性質の男だった。
神の造形としか言えない奇跡のような美しさも然ることながら、その繊細な心も、
スコルピオスが惹かれた要因だった。
なかなか返答しないスコルピオスを不審に思って、アポロニアスは再度、顔を覗き込もうと近付いて来た。
スコルピオスは慌てた。
これ以上近寄られると、恐らく心臓が保たない。
近くに居たい。
もっと傍に来て欲しいと思いつつも、その芳しい花の香りがするだけで、
眩暈がしてしまう程、アポロニアスに恋をしている。
重症だ。
スコルピオスは額に手を遣り、自重した。
「いえ、いえ、あなた様の接待は、父、リエール大公から仰せつかった大事な役目です。
お邪魔で無ければ、此処にそのまま控えさせて下さい。
目障りなのであれば、勿論、早々に退散しますが……」
「邪魔などではない。ただ、君の様子がいつもとは違ったから、気になったのだ」
アポロニアスは余り気持ちを言葉に出す事は無い。
それどころか、天翅は本来、口で言葉を発しない。
心の声と言うテレパシーを遣って言葉を交わすのだ。
口は歌を紡ぐ神聖な器官。
それを食事や会話で遣うのは野蛮だと思われていた。
人間界に来て、このリエール大公の城では人間に習って「耳に届く言葉」詰まり口で会話を行っている。
元々物静かで自分の想いを胸に仕舞い込む性質のアポロニアスが、
スコルピオスの力になろうと必死に話そうとしていた。
恥ずかしいのか仄かに頬を朱に染め、大柄な男なのに何故か愛らしい。
「体調は万全です。少し考え事をしていたのです。ご安心下さい」
何の悩み事なのだろうか。
まさか堕天翅と呼ばれる自分を城に招き入れた為、
スコルピオスの父であるリエール大公が不利な状況になってしまったのではないだろうか。
僅かではあるが微妙に変化するアポロニアスの表情からスコルピオスは、
彼がそんな想像をして思い詰めてしまったのではと危惧した。
「考え事と言うのは、政治的な事ではありません。
その…お恥ずかしいのですが…恋しい方の事を考えていたのです。
………父には内緒ですよ?」
幾らアポロニアスを心配させない為とは言え、
当の本人に向かって恋の話をしてもいいものだろうかと自問しつつも、
言葉は紡がずとも小川のようにさらさらと口から流れ出て来た。
「スコルピオス殿が想いを寄せる姫君なら、さぞ可憐な方なのだろう」
目を通していた分厚い本に手を乗せ、アポロニアスは目を細めて微笑んだ。
それはセリアンと両思い故、満たされた者の余裕と見れた。
スコルピオスは恋愛に奥手であろうアポロニアスなら気付かぬだろうと踏み、
開き直り会話を続ける事にした。
想いは届かない。
それならば、彼と過ごす時間を大いに楽しもうと思った。
「その方は確かに可憐なのですが、身体は大きい方なのです」
アポロニアスは華奢で一見少女にも見えるスコルピオスだからこそ、
その劣等感により背の大きい女性が趣味なのではと考えた。
女性の好みは人それぞれ、自分がどうこう言える立場でもないと判断した。
「それにグラマーで胸が大きくて、芳しい花の香りがする美しい方なのですよ」
アポロニアスはただ黙ったまま頷いた。
可憐で背が大きくてグラマーで花の香りがする女性。
翅なしの女性はセリアンしか知らないアポロニアスには全く想像が付かない。
スコルピオスは必死に笑いを堪えた。
「それに、剣が上手で凄く強くて、僕なんか到底叶わない程なのです」
「そ…それは計り知れないな…。一度手合わせ願いたいものだ」
「アポロニアス様はもうご存知の方ですよ。既にお逢いになっています。
あ、勿論セリアン姫ではございませんので、ご安心下さい。
それはそれは美しく、僕の心を締め付ける憎いお方なのですよ」
既にパニックに陥っているアポロニアスが愛らしくて愛らしくて、
スコルピオスの口角が徐々に上がって来てしまう。
アポロニアスだけでなく、自らを客観的に見る事が出来る人間は極僅かだ。
しかし、これだけ具体的な身体的特徴を挙げても、
スコルピオスの恋の相手が女性だと思い込んでいるアポロニアスに自覚など出来よう筈も無かった。
何とか落ち着いて、色々考えた挙句、アポロニアスは口を開いた。
「その想い…叶うよう私も祈ろう」
告白ではない。
恋焦がれている相手はあなたなのだと全てを話している訳ではない。
ただ自分が恋で悩んでいる事を知って欲しかった。
セリアン姫が来るまでのただの繋ぎでは無く、
人に恋する一人の人間である事をただ伝えたくてスコルピオスは実践した。
そしてその想いは遂げられた。
アポロニアスはまた手を置いたままの分厚い本に視線を戻し、黙々と本を読み始めた。
また静かな午後の時間が流れ出す。
セリアンが城を訪れるのはまだ数日先。
それまでこの緋色の天翅を独占し、恋人を気取ってみてもいいかもしれない。
心の中でほくそ笑み、スコルピオスはまた窓辺に戻り、階下の中庭で遊ぶ幼い従兄弟達に視線を寄越した。
<了>
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スコルピオスは麗華の過去生だと劇場版ではなっていたと記憶しています。
アポロニアスに恋して堕天翅に恋して憎んだ可哀想な子だと思ってます。