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白磁の月に涙濡れて(京スタ)

2020年03月25日 | BLE◆CH関連

 

 

 

BLE◆CHの「京楽×スターク」のSSです。閲覧には充分注意して下さい。

大丈夫な方のみ下へスクロールしてご覧下さい。

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<白磁の月に涙濡れて>


先程の喧騒が嘘だったかのように、しんと静まり返ってしまった自室に居た堪れなくなって、
スタークは廊下に出た。
外は夕暮れ。
空が紅く染まり、西の方角から藍色の闇が迫っていた。
廊下から縁側に座り、足をぷらんと下ろせば縁石にあった草履に自然と目が行った。
草履の横に色鮮やかな折り紙で作られた紙風船が落ちていた。
先程まで遊び廻っていた少女が忘れて行ったのだろう。
また来た際に返してやらねばとスタークは手を伸ばした。
草鹿やちるは一見リリネットより幼く見えるが、
護廷十三隊でも戦闘専門部隊と異名を持つ十一番隊副隊長を務めていると言う。
以前、人攫いに浚われ掛けたスタークを十一番隊隊長更木剣八と副隊長草鹿やちるに助けられた一件から、
草鹿やちるはスタークを大層気に入り、頻繁に京楽邸を訪れるようになった。
全くの方向音痴の為、副官補佐である第三席の斑目一角や第五席の綾瀬川弓親が一緒の場合が多かった。
時折暇だからと、適当な理由を付けて、十一番隊隊長である更木剣八までが、
やちるに付き合って顔を出す事もあった。
戦闘以外には然程興味を持たない剣八がスタークを気に掛けているとは考え難いが、
破面(アランカル)で第一十刃(プリメーラ・エスパーダ)だった男に少しは関心があるのかもしれない。
初めは戦闘でも仕掛けるつもりなのかと危惧していた京楽も、
剣八が面倒臭そうに廊下に寝転がり、やちるが庭で遊んだり、
スタークの自室で一緒に菓子を食べるのをただじっと凝視しているだけだと知り、
やがて何も言わなくなった。
今日は十一番隊隊舎ではなく出稽古だった帰りだという瞑目で、
十一番隊の席官達を引き連れ剣八とやちるがやって来た。
弓親が気を利かせて沢山の菓子を手土産に持って来たので、
スタークは使用人に頼み茶を用意し、日が傾く位まで皆を持て成した。
やちるはスタークを「コヨ君」と呼んで纏わり付き、
剣八の武勇伝を語って聞かせたり美味しいお菓子を半分に割って渡したり、
何かと世話を焼きたがった。
そのくすぐったいような心地良い時間はスタークの傷付いた淋しい心を癒し、
今は居ない半身を思い出させた。
翠の髪の華奢な少女。
いつもスタークを構い、気に掛けてくれた少女。
自分を護る為、散って逝った少女。
ぽつりと名を呼んでみる。
すっかり闇が濃くなって来た京楽邸の中庭に、スタークの震えたか細い声が響く。
もう一度、名を呼んでみる。
今度は止まらなかった。
何度も名を呼んで、やがて涙に声が詰まり身を屈めると啜り泣きは嗚咽になった。
剣八が羨ましかった。
剣八とやちるは自分とリリネットに重なって見えた。
しかし、彼等は二人。
自分は永遠に一人になってしまった。
自分だった少女。
少女だった自分。
二人は一人だったのに、自分だけが生きている。
片身を削られたような壮絶な痛みを抱いたまま、生きていくのは辛過ぎた。

「また、そうやって……独りで泣かないでよ」

低い腹に響くようなその囁きに、スタークは涙を拭う暇も無く顔を上げ振り返った。
まるで自分が傷付けられたかのように苦笑した京楽がすぐ其処に立っていた。
霊圧が抑えられている。
スタークを心配して近くから駆け戻ってくれたのだろう。
スタークの目尻から堪え切れず涙が頬を伝う。
薄い水色にも見える薄灰の瞳が潤んで、男らしい相貌が妖しい程の色香を放っている。
男なら抱き締めたくなる程の庇護欲を誘う表情。
京楽は堪らず身体を引き寄せ、その胸に抱き込んだ。
泣き顔を見られたという衝撃よりもリリネットを失った痛みを反芻していたスタークは、
その哀しい現実に戻れずに居た。
京楽に抱き締められても表情を無くしたまま涙を流し続けている。
京楽は焦った。
スタークは十二番隊隊長兼技術開発局局長涅マユリに捕らえられた際の拷問紛いの実験を受けた所為か、
時折精神不安定な時が有り、記憶が混乱し、京楽邸に来る前の状態に戻ってしまう事がある。
その場合、京楽の事は愚か、尸魂界(ソウルソサエティ)の事さえも分からず、
精神錯乱に至る場合もあるのだ。
予め四番隊隊長卯ノ花烈に安定剤は渡されている。出来る事なら使用したくは無かった。

「…………ゃ……だ………」

抱き締めているスタークが何か囁いた。
京楽は耳を欹てて「なぁに」と再度促した。
スタークは顔を上げ指先で涙を拭うと京楽の目をじっと見詰める。
いつも辛そうに皺の寄った眉間が更に深く刻まれる。
余程言い難い事なのだろう。
しかし覚悟を決めたのか、スタークは瞬きして視線を彷徨わせていたが、再度京楽を見た。

「………一人は……もう嫌だ……。だけど…………」

言い噤んでからスタークは京楽の胸に顔を埋める。そして呟いた。

「………俺はもう大丈夫」

十刃(エスパーダ)の仲間達はもう居ない。
半身だった少女ももう居ない。
破面(アランカル)は恐らく自分だけだろう。
しかし、尸魂界(ソウルソサエティ)に捕らえられ、保護され、
今では一度は敵として闘った死神の隊長と暮らしている。
そしてその死神は有ろう事か自分を家族に迎えてくれた。
一人じゃない。
半身を失ったとしても今自分は一人じゃない。
京楽がリリネットの分も愛してくれる。
浮竹が伊勢がやちるが気に掛けてくれる。
一人生き残った自分だけが幸せを感じている。
リリネットに申し訳無い気がした。
だから自分だけでも覚えていようと思った。
自分を護り、逝ってしまった少女をずっと忘れずに居ようと思った。
悲嘆にくれ泣き暮らすより塵芥になる一瞬まで幸せに生きて行こうと思った。
面倒臭がりな性分だが、力の無い今の自分に出来る事は少ない。
せめて前向きに生きようと思った。
京楽が心配そうな顔付きで大きく息を吐いた。

「じゃあ、ちゃんとボクに笑って見せて。じゃないと安心出来ないからね」

父親のような物言いに、スタークは一瞬ぽかんと呆けるが、すぐに破顔して噴き出した。

「ホント、あんた、俺の父親みたいだな」

くすくす笑いながら甘えるように腰に乗り上がってくる。
「溺愛系の父親だけどね」と顔を綻ばせ、スタークを横抱きに膝に乗せると、
京楽は薄紺の空を見上げ陶器のように白い月を見上げた。
三日月は華奢で白磁の肌を持つスタークの半身だった少女を連想させる。
京楽はふっと僅かに微笑むと(君の分もこの子を護るから安心してね)と心の中で誓うのだった。
京楽の腕の中、半日遊び疲れ、安心したのかスタークが小さな寝息を立てていた。


<了>

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スタークは優しいから、幸せ過ぎてリリネットに悪いとか思ってたら萌え!と。

 

 


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