1.はじめに
スウェーデンのヨーテボリ大学に本拠を置く「民主主義の多様性」研究所は、ここ10年以上、世界で独裁化が進んでいると警鐘をならしている。
残念ながら私達日本は、狂気に満ちた独裁者に率いられた複数の国家に囲まれている。
私が不安なのは日本の国民が、これら周辺国が独裁国家なのか、剛腕な指導者が率いる国家に過ぎないのかを的確に見分けることが出来ているかです。
見分けるポイントは三つある。
- 独裁とは何を指すのか?
広辞苑では、独裁とは独断で物事を決める事。また、特定の個人・団体・階級が全権力を掌握して支配する事とあります。しかし現実世界では、一人の独裁者が目立つと言うよりは、選挙を通じた上で国会(与党議員団)が独裁的な振る舞いをしている場合が多い。
- 独裁を見分ける方法はあるのか?
国のトップの振る舞いから、彼が独裁者と判別出来れば良いのですが、これが出来ていない事は歴史が示しています。
独裁の特徴は、独裁者(組織)から多大な恩恵が与えられている限定された支援者が、独裁者を中心にした組織の存続を強力に図ることにあります。逆に言えば、恩恵を与えられのが国民の半数以上にのぼれば、独裁と言うよりは、ポピュリズムか民主主義と言えるでしょう。明らかに後者は独裁者にとって経済効率が悪い。
独裁を見分けるポイントは、独裁者から支配層に、魅力的な恩恵が行き届いているかを知る事に尽きる。この恩恵(報酬、賄賂、口利き、権威等)は、通常、隠れて行われます。つまり独裁化が進んでいる社会は、腐敗が蔓延しています。日本のように議員が露骨に行っている国は先進国では珍しい。
- 独裁はなぜ危険なのか?
独裁がなぜ危険かと問われて、多くの方は直ぐ返答出来るでしょうか? 剛腕な経営者(ワンマン)が事業を発展させる事は多々あります。しかし、歴史的に独裁者とその組織は自分の末路が悲惨なものだと自覚しているので、徹底抗戦の過程で、国民を見捨てでも生き残ろうとします。なぜなら魅力ある独裁者の地位はいつも狙われているからです。独裁化の進行具合でその程度は変わりますが。
- 日本について
独裁者とは言えないが、腐敗した政治の一例を挙げます。かつて民主党の前原議員は在日外国人から34万円の献金を受けたことで辞任しました。これは外国人の献金が禁止されているからでした。ところが、現在の評価で年間数百億円近いを金額を10年以上、外国から極秘に提供してもらい、かつ催促していた首相が複数居たのです。明確のは岸と佐藤元首相です。彼らは兄弟であり、故安倍首相の祖父でもあります。米国政府(CIA)は自民党が優勢になるように資金援助と選挙工作を行っていたのです。また旧統一教会は、かつて自民党に当時60億円を提供し、選挙協力を行っていました。この腐れ縁が岸から安倍へと引き継がれていったのです。自民党の名誉の為に言うと、大平と三木元首相は、米国の資金援助を断ったようです。
膨大な選挙資金を必要とする社会にあって、勝ち残って来た政党は議会の独裁化を拒否出来るでしょうか?抜けられない罠にハマったも同然で、金をかき集め、バラマキいて集票するようになるでしょう。
解説書の紹介
「秘密資金の戦後政党史: 米露公文書に刻まれた「依存」の系譜」 名越 健郎著、 新潮選書、2019/12/24発行
ジャーナリストが、主に米国の公開文書の徹底調査から、戦後の日本政治の暗部を明らかにしています。
「戦後史の正体 「戦後再発見」双書1」孫崎 享 著、創元社、 2012/7/24発行
元外務省・国際情報局長が、「米国からの圧力」を軸に、日本の戦後史を解説しています。
「CIA秘録 その誕生から今日まで 上・下」ティム ワイナー著、 文藝春秋、2008/11/12発行
諜報機関を20年以上に亘り取材した調査報道記者が、CIAの姿を全て情報源を明らかにして書いた。
注意すべき事
岸の経歴や安倍の振る舞いから、彼らが信用に足る人物で無い事は明々白々だったはずです。確かに実力や人気があり、大きな変革をやり遂げた事も事実です。しかし彼らの手段を選ばない行いは、民主主義とは相容れません。当然の事ながら、安倍氏の目指したものは、最大の支援者(経済界など)への恩恵にあったのです。これが続けば、腐敗と独裁化は進んでいたでしょう。国民は、この事に気付かなければなりません。これは今回の兵庫県知事選挙でも言えます。見てくれやイメージで知事を選ぶは愚の骨頂です。放置すれば、簡単に腐敗と独裁への泥沼へと逆戻りするでしょう。
- 中国について
私は、中国の歴史に惹かれ30年以上にわたり多く訪ね、また友人もいることもあり、独裁化を信じたくない気持が強かった。以前は、経済の発展に連れて民主主義へと向かうだろうと希望を持っていた。また、2019年10月の中国外縁部の旅行でも、私は悪い兆候を感じることはなかった。
しかし現在、習近平がトップになってからは酷くなる一方で、希望は断たれたと考える。彼の政策は精神的なものに偏り、コロナ対応の厳格な都市封鎖が招いた倒産ラッシ、そして不動産バブルの崩壊を招いた。さらに問題は、香港の雨傘運動への強権対応や情報統制が益々進んいることです。結局、政策が拙く、不満が鬱積し始めているのに、それを強権で抑えようとしており、酷くなっている。マスコミや書籍の情報から察して、今の状況は習近平の独裁がかなり進行していると言える。
解説書の紹介
「中国は、いま 」 国分良成 編、 岩波書店、 2011/3/19発行
著名な日本の学者と専門家による多岐にわたる中国分析、習近平登場前なのが残念です。
「習近平帝国の暗号 2035」 中澤 克二著、 日本経済新聞出版、2018/3/9発行
新聞記者が、中国総局長として北京赴任の経験を通して書いた。
注意すべき事
日本の右翼は以前から中国嫌いを牽引しているので、店頭に並ぶ人気の中国関連の本の多くは「中国を悪」と断じている。中々、中立的な立場で書かれている本を見つけるのは困難です。中国を正しく評価している稀な日本人コメンテーター(学者)がかつて一人いたのですが、香港の件で、中国側を擁護しているのを聞いて失望した。注意しなければならないのは、独裁国家から情報を入手しなければならない立場の人は、この国を悪く言えないのです。このような例は他にもあります。
- ロシアについて
プーチンを独裁者と見做している日本人はどのくらい居るのだろうか? それもかなり危険だと?
ロシアに詳しい作家の佐藤優や鈴木宗男議員は、プーチンを凶悪な独裁者だと見做していないようだ。そういえば、故安倍氏も同様だった。ほとんどの人は北朝鮮の金正恩を独裁者であり、習近平も同様だと答えるはずなのに、なぜだろう。両国は共産主義国だが、ロシアはゴルバチョフが共産主義を壊した後の共和制国家だからと考えているからか?
隣国だが、社会や政治の詳しい情報は伝わって来ない。しかし独裁国家かどうかは、社会が腐敗しているか、情報統制が進んでいるかでわかる。情報・言論統制が進んでいる事は日本のマスコミが伝えている。社会の腐敗状況は、普通の観光旅行ではわからないが、書籍や幾つかの情報から伺える。公務員に賄賂を渡さなけらばならないとか、ビジネスに権力者への口利きと賄賂(マージン)が不可欠だと言われている。
彼が初めてトップになる時、彼はエリツインとの交代劇を手際よくこなした。この裏で、オリガルヒ(国営財産を奪取した人々)、KGB(ソ連国家保安委員会)とマフィアが暗躍していた。これを理想家のゴルバチョフらでは制御出来なかったが、冷酷な彼でこそ成し得た。さらに彼は強運に恵まれていた。彼は若い頃、経済先進国のドイツに派遣されたKGBだった。ついで帰国後はヨーロッパの玄関口であり、マフィアに牛耳られていた古巣のサンクトペテルブルグで出世の糸口を見つけることになった。彼が大統領になると、幸運なことに世界のオイル価格が上昇し、国家収入が潤い始めた。さらに彼は持前の残虐さと冷徹な思考力で、多民族国家の欠点をうまく取り繕う事が出来た。チェチェンの内紛への大規模な軍隊出動、チェチェンのテロ攻撃のでっち上げによるテロ殲滅、クリミア半島占拠などで彼の剛腕さが国民に絶賛された。またロシア正教会の総主教を取り込むなどを図った。
彼の独裁者ぶりを垣間見る事件は後を絶たない。ウクライナ侵攻を非難するオルガリヒの不審死は20件ほどあるだろう。プーチン氏の料理人と呼ばれたプリゴジン氏もあっさり暗殺された。いずれも証拠は無いが、実に神が頃合いよく味方するものだ。
解説書の紹介
「プーチン ロシアを乗っ取ったKGBたち(上・下)」キャサリン・ベルトン著、日本経済新聞出版、2022/12/17発行
ロイター通信の調査特派員が、モスクワ特派員の経験と徹底した調査で、プーチン独裁者誕生の背景から、現在までを詳細に解き明かしている。また、ヨーロッパやトランプ籠絡にも肉薄している。素晴らしい本です!!
「プーチンの世界 」フィオナ ヒル 共著、新潮社、2016/12/12発行
プーチンの行動パターンや思想に広く迫ってはいるが、彼の現実の独裁的な行動の説明を避けている。特に彼を取り巻く暗黒面の社会背景(マフィア)や彼の非難されている悪行(暗殺、濡れ衣のテロ、侵攻)には、まったく触れていない。わざと語らないようだ。これは著者らが、プーチン主催のバルダイ会議の常連だからだろう。上述の本は読むべきだが、この本は役に立たない。
「ミトロヒン文書 KGB(ソ連)・工作の近現代史」山内 智恵子著 、ワニブックス、2020/8/27発行
亡命KGBが、1918~1980年代前半のソ連情報機関の対外工作の記録を書き写した膨大な文書を下です。対外工作の凄さが伝わり、今も続いていることを予感させます。現在はさらに巨額の資金が使えるのですから。
注意すべき事
私が見る所、日本にとって最も危険なのはロシアでしょう。それは独裁者が核保有国を牛耳っているからであり、彼の立場がヒトラーに益々似ているからです。ロシア社会が完全に独裁者の意のままに染まりつつあり、国民もプーチンも破局の袋小路に突き進んでいるように見える。ロシアはオイル価格が減少に転じれば、産業力が弱いので、経済は昔の状態に戻り、プーチンは飽きられるでしょう。プーチンは保身に走り、国民や世界の危険を顧みない賭けに出るかもしれません。それに比べ中国社会は、産業も人的な交流もまだ世界に開かれており、ロシアほど酷くないと考えています。
けっして、見たくないからと言って、現実から逃避せず、凝視する姿勢が必要です。
- ヒトラー時代のドイツについて
ヒトラーは狂気の独裁者であり、世界を不幸に陥れた人物であることは、トランプや一部の極右以外は認めることでしょう。私が指摘したいことは、独裁者が初めから国や世界を不幸に陥れることを目指したかどうかは問題では無く、独裁が進み、それが裏目に出ると破局へと進むことが多々あると言うことです。国がファシズムや独裁へと進む場合、人々は民主主義を捨て去ってでも強権による統治を望むようになっています。そして初めは小さな動きでも、やがて雪ダルマが坂道を転がると巨大になり、遂にはぶつかり粉々になります。
ヒトラーは、失敗したミュンヘン一揆後の潔い態度が人気を博し、やがて率いたナチ党が議会で多数を占めます。彼は首相になると、国会放火事件を共産党のせいにし、彼らを排除し全権委任を得ます。そして大統領の信任を得て総統に成り上がり、独裁を完成させ、3年後には隣国への侵攻を始めました。こうして第二次世界大戦は始まりました。
彼は自分が成り上がる為には手段を選ばなかった。彼の勢力拡大に役立って来た突撃隊の粛清(116名の暗殺)、そして国会放火事件の当時の犯人はナチス政権下でのでっち上げだった。ヒトラーの親衛隊SSはヒトラーの意を汲んで壮絶な悪行(ユダヤ人虐殺など)を率先して行うようになりました。独裁やファシズムが進むと、ドイツだけでなく日本でも、多くの国民が意図的に国家への支持を表明し参加するようになりました。独裁には、巧みに国民を煽情し行動への参加を促す力があります。
解説書の紹介は省きます
色々、書籍はありますが、市井の人がどのようにナチスの体制に飲み込まれていたかを知って頂くことは重要だと思います。
またヒトラー政権誕生時から、危機意識を持ち、反対していた地下組織の存在や、数多くの人が狂気のヒトラー暗殺を企ては死んでいたことも知って頂きたい。残念ながら圧倒的多数の人は、時代に乗り遅れまいとして、片棒を担ぐことになった。
6.米国について
次期大統領のトランプが独裁者かは判断が難しい。しかし可能性は非常に高いと言えるでしょう。米国の制度では大統領は独裁者になり得ないと思うのですが、彼の法を無視した長年の行いと共和党の軟弱な態度から、最悪の道もあるように思える。近年、州の独立より大統領の権限強化が重視されるようになっている。
彼に独裁者の兆しを見ているのは私だけでしょうか?
彼を含めて、米国には独裁化への不安要因が多数ある。
先ず彼について
・彼は遵法精神が欠如している。彼のビジネス、裁判歴、大統領時代。
・彼は恣意的で非科学的な政策を行う。地球温暖化否定、コロナやワクチンの誤った対応、数多くのノーベル学者が反対する経済政策など、きりが無い。
・彼は独裁者に憧れている節がある。プーチンやヒトラーなど。
米国の状況
・社会は長年の経済政策により経済格差が進行し、8割の国民は30年間ほど実質賃金が横這いだったが、最近のインフレで低下に転じているようだ。
・規制緩和により報道の公平さが無くなり、人気を得るために過激で偏向した番組が流れようになった。さらにSNSが助長している。
・40年ほど前から、二大政党の対立が激化し一層酷くなっている。
・保守的なキリスト教の勢力が強くなり、人権擁護の政策に敵対するようになった。
・中南米からの移民が増え、白人の人口を越える事態になりつつある。
・このような衰退と混乱の背景に、国民は分断を煽られてしまっている。
上記状況を考慮すれば、ヒトラーとトランプの発言の共通点に頷けるものがある。
ヒトラーは「共産主義者を入れない、ユダヤ人(絶対的な悪)を排除する、ドイツ帝国の復活を目指す」
トランプは「移民を入れない、ディープステート(闇の政府)と戦う、米国を再び偉大な国にする」
どちらも敵愾心を煽り、単純な排除策を提案し、復古主義を謳う、実に単純で分かり易い。
現在の米国は、当時のドイツほど酷い状況では無いはずだが、米国民は不安と不満を煽られて追い込まれているように思える。
解説書の紹介
「トランプがはじめた21世紀の南北戦争」 渡辺由佳里著 、 晶文社、 2017/1/11発行
米国移住の日本人エッセイストが2016年末のトランプ大統領誕生の米国社会と選挙の問題点を分析している。
「恐怖の男: FEAR トランプ政権の真実」ボブ ウッドワード著、日本経済新聞出版、2018/12/1発行
米国の代表的なジャーナリストが、恐怖のトランプ大統領を扱わざるをえないホワイトハウスの苦悩を描いている。
「炎と怒り トランプ政権の内幕」マイケル ウォルフ著 、早川書房、2018/2/25発行
米国ジャーナリストが、トランプがいかに「無知」で「臆病」か、トランプ一族と側近たちの確執を描いている。
「忠誠の代償 ホワイトハウスの噓と裏切り」ロン・サスキンド著、日本経済新聞出版、 2004/6/1発行
米国記者が、ジョージ・W・ブッシュ政権の財務長官の機密文書や証言などからホワイトハウスの実態を暴露している。しかし、この小ブッシュと比べてもトランプの酷さは特筆ものです。
- 最後に
私達が現在、最も注意しなければならない事はなんでしょうか?
年金の不安、金融危機、日本経済の衰退、地球温暖化の進行と色々考えられます。
しかし私が現在最も注視しているのは、日本の衰退が進んでいる事と周辺国の独裁化が進み、世界大戦へと進むことです。
今回は、皆さんに周辺国の独裁に注意して頂ければ幸いです。