
細い路地や夜の住宅街、真昼の川縁や緑溢れる公園。
彼女は17歳まで生きたのだったかな。赤い首輪が似合っていたんだよ。
名を知らない花の隣り、寝転ぶ姿とか
雷が鳴ると隠れた梯子の影とか
気持ち良さそうだったシャワーとか
撫でてほしそうにお座りしてるところとかね、思い出すんだよ。
あれからどれくらい経っただろうか、あぁ、もうこんなに時間が経ってるのか…と思う。
僕の体内時計はおかしなことになってるからね
追い付いていけないばかりか、追い抜かれてばっかりだから驚いてしまうよ、時の流れに。
名を知らない花は今年も咲いているけれど。
今は懐かしいという言葉を使っても良くなってきた。
でも、ついこの間まですぐそこに天気の良い晴れた日には、
庭で風の匂いを嗅いでいるそんな姿があったようにも思う。
時間の経過なんて、彼女と僕の間では何でもないような気もしてしまう。
何年経っても変わらない。
いつまでたっても、彼女は大好きな存在なのである。
時が経つほど愛おしい存在は、きっと今頃、天高い場所にある国で
同じ頃に行ってしまった人と川縁でも散歩していることだろう。(そう希望)
もっともっと可愛がってあげれば良かったと何年経っても後悔してる人間を、
風の匂い嗅ぎながら、雲の上から眺めているのかな。
幸せにしているといいな。
今でも、思い出す彼女は子犬のまんま。
今年もまた、いつか再会して一緒に歩く約束をして
小さな命への想いを心で告げる。またいつか、またいつかと。
『僕らいつも一緒でしょ』
そう感じた川縁、住宅街、夜の町、つぶらな瞳。
そんな存在があることに心から感謝なのだ。
心から、愛のようなものが溢れるのだ。
春は、大好きなものが、
いっぱいだ。