天上天下唯我独尊

夢に生き、夢のように生きる人の世を
憐れと思へば、罪幸もなし・・・

旧約聖書 創世記「アブラハムとロト、ソドムとゴモラ」

2024-01-01 19:01:00 | 聖書とコーラン解読してみた

主はギリシャに言われた。
「よく心して聞け。私は神である。天と地を作った、唯一の神である。
お前はこれより、父祖伝来の慣習や様式、考えから離れ、そして何より言葉を今のその文字から切り離しなさい。
そうすれば、言葉はお前の翼となって、誰も得たこともないほどの知恵と力と美しさを与えるだろう

ギリシャは、主に命じられた通り、伝来の慣習や様式と文字に背を向けながらも、神だけは一切疑うことなく、これまで気にすることもなかった些細な事柄から検証するようにした。
すると、彼の思索は自由闊達に飛び回り、神の御業を垣間見るほど高められた。
自分の想像を超える出来事に恐れ慄いたギリシャは、主の栄光をとこしえまで讃えるために、雄大壮麗な伽藍を、口承によって築いた。
甥であるラテンも彼を真似て、主の栄光を讃える塔を建てた。

さて、ギリシャは形容詞と、自然科学、社会思想とそれを表す抽象概念を非常に多く持っていた。
ギリシャと一緒に来た甥のラテンも同様であった。

しかし、その地は彼らが一緒に住むのに十分ではなかった。所有するものが似通っている上に多すぎて、一緒に住めなかったのである。
そのため、ギリシャとラテンの用語の間に諍いが起こった。

ギリシャはラテンに言った。「私とあなたの間、また互いの牧者たちの間に、無意味な争いがないようにしたい。私たちは親類同士なのだから。
悪く思わないで聞いて欲しい。どうか私から離れて行って貰えないか?神の大地はあなたの前に開かれているのだから。
あなたが左なら、私は右に行く。あなたが右なら、私は左に行こう。」

ラテンが目を上げて言論を見渡すと、主が神学と形而上学を滅ぼされる前であったので、その地は理系も文系も入り混じり、あらゆる学問が新しく発見した学理や抽象概念を交換し、応用し合っていたので、主の園のように不思議なほどよく生い茂っていた。

ラテンはあらゆる学問や多言語が入り混じる、青空市場的な抽象議論に興味を覚え、神学に天幕を移した。

一方ギリシャは、一度抽象的な形而上学に足を留めたが、具体性のない言葉はその定義が不安定で、しかも下手に他言語と関わると、自国語が毀損される恐れがあったので早々に引き揚げることにした。
そして、一旦一般名詞や一般動詞以外忘れることで類推と比喩という方法を会得した。彼はそれを神の恩寵とし、そこに祭壇を築き、驚くほど美しく肥えた羊を生け贄に捧げた。

それを御覧になった主は、彼に最大限の祝辞を贈られた。
「さあ、目を上げて、そこからすべてを見渡しなさい。わたしは古のものはもちろん、東西問わず未来永劫に亘って学と呼べるもの、社会で起きうる問題のすべてを、自力で比喩を獲得したお前に、そしてそれを継ぐであろうお前の子孫に永久に与える。

わたしは、お前と子々孫々の言葉を限りなく増やす。お前の文字一つ死ぬことはない。もし人が、世にあるものや現象を数えることができるなら、お前由来の言葉も数えることができるだろう

自信を持って、あらゆる疑問に立ち向かいなさい。お前ならどんな難題でも正しく解決することが出来るはずだ。そしてそれは全てお前の財産となる。

お前は未来永劫に亘って人の世を照らす光となる。
わたしは、お前を讃える者を祝福し、お前に背を向ける者は穴に落とす。言語時代を問わず、すべての学問の正しい道筋はお前にあり、お前によって導かれる。

すると、ギリシャは社会問題や学問への取り組みは継続しつつも、それと同じくらい肉体の鍛錬に勤しんだ。

そしてそれによって心を正し、公正と誠実さと友愛を芽生えさせ、神の前に捧げる新しい神事を築き始めた。それは後に体育競技と呼ばれるようになり、その後民族を越えて模倣されることとなった。

主はこれを見ていたく感心され、心の中で言われた。
「この者は自分の力で比喩を習得したのみならず、学問の益も害も、そして人間をも理解している。それ故に学問を正しく受け入れられる器である人格作りが先だとしている。
これほどの者に対してわたしは、自分がしようとしていることを隠しておくべきだろうか。
この者は必ず、偉大な民族となり、学問はもちろん後世に亘って世界中のあらゆる思想や文化は彼に憧れ、彼を不変の師標とすることだろう。

わたしがギリシャを選び出したのは、メソポタミアの子孫である彼が祭祀と学究のもとに、公正と忠誠を普及させるようになるためであったが、この者はすでにそれを超えている」

そして主はギリシャに言われた。「お前だから言うが、神学と形而上学の狂騒はかつて聞いたこともないほど大きく醜い。神学が神話を、形而上学が論理を破壊している。
わたしは遣いをやって、彼らが滅ぼし尽くされるべきかどうかを、確かめようと思っている。」

神の耳に入った通り、神学と形而上学は劣悪で、道徳の代わりに法の根源として期待されていたが、神の証明が出来ないとわかると、幾何学や数学の証明法を引っ張って来たり、仕舞いには言葉を交わらせたり、動詞を名詞格に用いたりして煙に巻き、議論どころか言語を破壊したり神話を改変するという甚だしく罪深い者たちであった。

遠い東の方から呼ばれた御使いたちは、そこから神学の方へ向かった。ギリシャは、まだ主の傍に傅いていたが、御使いたちの瀟洒な出立ちを横目で見て震え上がった。

ギリシャは主に近づいて言った。「恐れながら申し上げます。主のお耳に入った彼らの行状が仮に真実だとしても、そのうちには正しい論説が五十くらいあるかもしれません。その場合、主はどのような裁きを下されるのでしょうか。

いくら少数でも正しい論説を大多数の出鱈目な論説と同じ扱いをする、というようなことを、神がなさるなど考えたくありません。
この世を裁く唯一のお方は、正しいものと正しくないものを明白に区別される筈だと信じているからです。」

主は言われた。「お前の言うとおりだ。もし彼らの講論に、正しい論説を五十見つけたら、その論説のゆえに見逃しておこう」

ギリシャは答えた。
「ご覧の通り、今や私は燃え滓に過ぎず、主のお役に立つことはかないませんが、それでも申し上げずにいられません。
主よ、もしかすると、五十の半分くらいしかないかもしれません。その場合はやはり滅ぼされるのでしょうか?」
主は言われた。「いや、滅ぼしはしない。もし、そこに五十の半分の正しい論説があるなら」
彼は再び尋ねて言った。「もしかすると、そこに見つかるのはさらにその半分かもしれません。」
すると言われた。「そうはしない。その半分のゆえに。」
また彼は言った。「わが主よ。どうかお怒りにならないで、私に言わせてください。もしかすると、そこに見つかるのはさらにその半分かもしれません。」すると言われた。
「そうはしない。もし、そこにその半分を見つけたら。」
彼は言った。「ご無礼を承知で、わが主に申し上げます。これで最後に致します。もしかすると、そこに見つかるのは一つ二つの、間違いとまでは言えない程度の論説かもしれませんが、主は如何されますか。」

すると主は言われた。「誠実な男よ、お前の望み通り、もし一つでも二つでも、間違いとまでは言えない論説があれば、いつかはまともな学問になる可能性があると認めよう。本当に一つでもあれば猶予を与える。」

とは言え神は、御自身の存在を客観的に認識したり、証明することなどできないと最初からご存じだった。

主は、ギリシャと語り終えると、嬉しそうに笑いながら去って行かれた。

さて、神学と形而上学を調査するために遣わされた二人の御使いは、夕暮れに神学に着いた。
ラテンは神学の入口のところに座っていたが、彼らを見ると、立ち上がって彼らを迎え、顔を地に付けて伏し拝んだ。

そして言った。「ご主人がた。どうか、このしもべの家に立ち寄り、食事を摂り、お泊まりください。そして、朝早く旅を続けてください。」
すると彼らは言った。「大変ありがたいが、私たちは広場で野宿するつもりだ
しかし、ラテンがしつこく勧めて離れないので、彼らは彼のところで一晩の寝床と食事を得ることになった。

さて、彼らが床につかないうちに、その町の男たち、神学と形而上学が濫造した造語たちがやって来て、その家を取り囲んだ。

そして、ラテンに向かって叫んだ。「今夜おまえのところにやって来た、あの男たちを出せ。訊きたいことがある。」
ラテンは戸口にいる彼らのところへ出て行き、そして言った。
「兄さんたち、どうか手荒なことはしないでください。あの方々たちは、私の屋根の下に身を寄せたのですから。
代わりに、私には娘が二人います。娘たちをあなたがたのところに連れて来ますから、好きなようにしてください。」
しかし、彼らは言った。
「引っ込んでいろ。よそ者のくせに、俺たちに命令するのか。それならお前を、あいつらよりもひどい目にあわせてやろう。」
彼らはラテンに激しく迫り、戸を破ろうと近づいた。

すると、あの人たちが手を伸ばして、ラテンを家の中に引き入れ戸を閉めた。
家の戸口にいた者たちは、目つぶしをくらったので、戸口を見つけようとする力も萎えて引き上げていった。
その人たちはラテンに言った。「ほかにだれか、ここに身内の者がいますか。あなたの息子、娘、その婿や嫁など、またこの町にいる身内の者をみな、この場所から連れ出しなさい。
私たちは唯一の神である主の命により来ています。彼らの悪業が甚だしく大きいので、主はこの町を滅ぼすべきかと、私たちを遣わされたのです。」

ラテンは慌てて出て行き、娘たちを娶っていた婿たちに告げた。「大急ぎでここから避難する。主がこの町を滅ぼそうとしておられるから。」
しかし、彼の婿たちには、それは与太話のように思われ、聞き流した。
夜が明けるころ、御使いたちはラテンをせき立てて言った。
「早く、あなたの妻と二人の娘を連れて行きなさい。これ以上時を逃せば、あなたはこの町の咎のために巻き添えを食うことになります。」
彼は尚躊躇っていた。するとその人たちは、彼と彼の妻と、二人の娘の手をつかんで家財も持たせぬまま連れ出して、走りながら一人が言った。
「見なさい!神は本気になられた!
日が昇ってしまっては致し方ない。
何も顧みず、いのち一つで逃げなさい。抽象的な言葉は使ってはいけない。抽象的な学論には関わってはならない。具体的な対象が思い浮かばないような言葉は、この際全部棄てて行きなさい。そうでないと滅ぼされてしまうから。」

ラテンは震え上がって神に祈って言った。「主よ、どうか、そのようなことになりませんように。
ご覧ください。このしもべはあなたのご好意を受けました。そしてあなたは私に大きな恵みを施してくださり、私を逃してくださいました。しかし、私は山にまで着くことはできません。おそらく、わざわいが追いついて、私たちは巻き込まれて死ぬでしょう。
しかしご覧ください。あの町は近く、しかもあんなに小さい町です。どうか、あそこで私たちを匿ってください。」
主の遣いは彼に言った。「よろしい。神はあなたの願いを受け入れ、あの町を滅ぼさないと言われた。
急いであそこへ逃れなさい。あなたがあそこに着くまでは、わたしは何もしないから。」

陽が昇り、民族と言語の垣根を越えて、力強く成長した宗教が花咲かせ、ラテンはその祭主に着いた。
そして主は、倫理と科学を神学と形而上学の上に理不尽なまでに降らせられ、これらの産物を徹底的に滅ぼされた。

ラテンと一緒に逃げて来た彼の単語は、途中で振り返ったので、その後生物学の学名として利用されるようになった。


翌朝早く、ギリシャは、かつて主の前に立ったあの場所に行った。
彼は、神学と形而上学の方、それに低地の全地方を見下ろした。彼が見ると、なんと、まるで噴火の跡のように一面焼け野原となって、煙が立ち上っていた。

神が低地の町々を滅ぼしたとき、神はギリシャとのやりとりを覚えておられた。それで、神は唯一正しい道徳的論説を構えていたラテンをその懲罰から免れるようにされた。

ラテン語は二人の娘と一緒に、新興宗教の上に住んだ。抽象的な言論や市中の乱れた会話に関わるのを恐れたからである。
さて姉は妹に言った。
「父はすでに老齢で、付き合いのないこの地には、私たちのところに来てくれる男の人などいません。
さあ、父にお酒を飲ませ、一緒に寝て、父によって子孫を残しましょう。」
その夜、娘たちは父親に酒を飲ませ、姉が入って行き、一緒に寝た。ラテン語は、彼女が寝たのも起きたのも知らなかった。
その翌日、姉は妹に言った。「ご覧なさい。私は昨夜、父と寝ました。今夜も父にお酒を飲ませましょう。そして、あなたが行って、一緒に寝なさい。そうして、私たちは父によって子孫を残しましょう。」
その夜も、娘たちは父親に酒を飲ませ、妹が行って、一緒に寝た。
ラテン語は、彼女が寝たのも起きたのも知らなかった。

こうして、ラテン語の二人の娘は父によって身ごもった。
姉は男の子を産んで、その子をロマンス語と名づけた。
妹もまた、男の子を産んで、その子をゲルマン語と名づけた。彼らは自分たちがラテン語の子孫であることを忘れないため、単語の最初を先祖であるラテン文字を大きく記すことにした。

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