天上天下唯我独尊

夢に生き、夢のように生きる人の世を
憐れと思へば、罪幸もなし・・・

四行詩集 ~無花果の実り~ 20

2008-02-11 22:16:02 | 「無花果の実り」
1.長い隧道から抜け出た時、一瞬視力を失い、恐怖に襲われる。
  だからといって引き返すならば、一生暗く湿った狭い空間の中で暮らさねばならない。
  無知から抜け出す時、一瞬何も分からなくなり、絶望感に襲われる。
  しかし、それでも知ろうと努めることによって、明るく多彩な世界が与えられる。

2.みんなで力を合わせて築いても、蟻塚なんぞは塵に等しい。
  何千年かけて積み上げても、人の知恵など、糞と涎でできたゴミに等しい。
  愚かなことよ、地を掘って巣を作れば、強い風が吹いても壊れなかっただろうに。
  誤謬と憶測で国家を建設する者共は、真理が来たときに住処を失うことになる。
「苔の生えた先生! 学者もそんな風に研究を続けるんだ。
 他には何も出来ないからね。
 そうしてつつましい紙切れの家を建てる。
 しかも一番偉い学者だって完成させられない(ゲーテ/ファウスト第2部6638)」

3.馬の轡を外すと馬車は必ず暴走し、最後は崖から転落する。
  軍の発言を許すと国家は必ず暴走し、最後は破滅に突入する。
  馬は自分を抑えることができない。軍部は自制することがを知らない。
  轡を嵌め、しっかりと鞭を当てて調教せよ。放っておくと駄馬になる。
「神は馬の力を喜ばず
 歩兵を好まれない。
 主を恐れる者と
 御恵みを待ち望む者とを主は好まれる(詩篇147:10)」

4.御者が下手だからといって、腕を押さえたり鞭打ったりすれば、余計ひどくなる。
  長官の働きが悪いからといって、権限を削ったり威厳を傷つければ、さらに悪くなる。
  罵るな、叱り付けるな、御者は後ろを気にしていては、仕事に集中できない。
  そもそも事前に行き先を教えてなければ、御者が戸惑うのは当然だ。
「馬輿に驚けば、すなわち君子輿に安んぜず、庶民政に驚けば、すなわち君子位に安んぜず。馬輿に驚けば、すなわち之を鎮むるに如くは無く、庶民政に驚けば、すなわち之を恵するに如くは無し。賢良を選び、篤敬を挙げ、孝弟を興し、孤寡を収め、貧窮を補く、是の如くなればすなわち庶民政に安んず。庶民政に安んじて、然り後、君子位に安んず(荀子/第9章)」

5.暴走運転手が車から降りたなら、何もその車まで壊す必要はない。
  独裁指導者が退任したならば、もうその国を攻撃する必要はない。
  しかし、御者が落ちても馬が走り続けることがある。
  独裁者が暗殺されても、軍部の暴走が止まるとは限らない。

6.どこも故障していない新車も、燃料が無くなると動かなくなる。
  まったく善良で健康な若者も、希望や欲望を失うと働けなくなる。
  燃料があるときは大変役に立つが、なくなると車ほど厄介なものはない。
  希望と欲望を使い果たしてしまうと、人間は誰かが鞭を打ってやらねば生きてゆけなくなる。
「民をして欲無からしむれば、上、賢なりと雖も、猶ほ用ふること能はず。夫れ欲無き者は、其の天子たるを視ること、輿隷たると同じ。其の天下を有するを視ること、立錐の地無きと同じ。天子は至貴也、天下は至富也。誠に欲無ければ、是の二者、以て勧むるに足らず。輿隷は至賤也、立錐の地は至貧也。誠に欲無ければ、是の二者、以て禁ずるに足らず。故に人の欲多き者は、其の用ふること得べきことも亦多く、人の欲少なき者は、其の用ふることを得ることも亦少なし。欲無き者は得て用ふべからず。人の欲は多しと雖も、而して上、以て之をして令しむる無ければ、人、其の欲を得と雖も、人猶ほ用ふべからざる也。人をして欲を得しむるの道、審らかにせざるべからず。能く上たる者は、能く人をして欲を得ること窮まり無からしむ。故に人を用ふるを得べきことも亦窮まり無し(呂氏春秋/第19巻)」

7.確かにそれは必要だが、燃料も結構車の重荷となっている。
  それがなければ前進できないが、過剰な意欲も結構負担となる。
  賢い者は、必要なだけ燃料を搭載し、途中で補給しながら走行するのではないか。
  燃料もやる気も無駄に消費すると、補給地まで辿り着けず、後で苦労するはめになる。

8.車の構造や整備に通じていなくても、結構上手に運転する者はいる。
  国の法律や事務に通じていなくても、巧みに国を運営する者はいる。
  車の知識は粗末でもよいが、交通規則を知らない者は断じて許せぬ。
  法律や事務は知らなくてもよいが、道徳を知らない政治家は即刻追放せよ。

9.激しく火花を散らして、嫌な音を立てている機械も、油を注げば滑らかになる。
  諍いばかり起こして、苦情を訴えてくる組織社会も、敬譲心を注げば和やかになる。
  いくら精密に組み合わせても、間に油がなければ部品はすぐに壊れてしまう。
  いくら気が合っても、間にお世辞がなければ人は互いに傷つけあってしまう。
「唯聖人のみ、礼の以て止むべからざるを知ると為す。故に国を破り、家を喪ひ、人を害ふは、必ず先づ礼を去る。礼の人に於けるは、猶ほ酒の麹有るが如し。君子は以て厚く、小人は以て薄し(孔子家語/第32章)」

10.馬力のある車に乗っていると、つい公道でアクセルを全開にしたくなる。
  激しい情熱を備えていると、みんなの前で感情を爆発させたくなってくる。
  馬力があればあるほど、強力なブレーキと運転技術とを備えなければならない。
  どれだけ熱意があっても、自制心と分別がなければ、災いばかりが大きくなる。

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