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村上春樹の『騎士団長殺し』をついに読破!

先日、村上春樹の最新作、『騎士団長殺し』上下巻を漸く読み終えた。

僕は村上春樹の小説が大好きで、これまでも主要な作品は殆ど読んでいるので『騎士団長殺し』も発売を楽しみにしていた。2/24に発売されてすぐ購入して読み始めていたのたが、通勤電車や出張中の機内などで少しずつ読んだりしていたので、読み終えるのに意外と時間を要した。各巻それぞれ500ページ以上あるので、かなりの長編である。



村上春樹の長編書き下ろし小説としては、2010年に出版され大ベストセラーになった『1Q84』以来7年ぶりと言うことで、発売前から出版業界はかなりヒートアップ。さすがは村上春樹である。もちろんこの7年間に、新作の発売が無かったわけでは無く、僕の好きなエッセイ集、『村上ラヂオ』シリーズの2と3や、以前ブログでも取り上げた随筆『職業としての小説家』、また中編小説としては『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』、紀行文集『ラオスにいったい何があると言うのですか』も出版されており、僕もこれら全てを購入して読んでいるが、どれももちろんファンにとっては嬉しい作品ではあった。しかし、多くのファンは、やはり長編書き下ろし小説の新作を待ち望んでいたのである。



最近では池井戸潤や有川浩など、ドラマ化や映画化などでも話題になる作家はたくさんいるが、村上春樹ほど新作の発売を待ち望まれて、発売前からベストセラーになる作家は少ないのでは無いか。

僕は湊かなえ、東野圭吾、川上未映子などは好きで良く読んでいるが、色々と読んでいる小説の中でも、村上春樹の小説は文章が一番すっーと頭に入ってくるし、彼独特な比喩表現がとても共感出来るものが多いので、きっと僕の感性との相性がいいのだと思う。そして、僕は手塚治虫、横山光輝、ブルース・リー、ジョン・マッケンロー、マイケル・ジャクソン、ヒッチコックなど、様々な業界の中で桁違いの才能を発揮した“天才”と呼ばれ、生まれ持った天才的な感性を持た人物たちにいつも惹かれ、尊敬してきた傾向が強いのだが、日本の小説家の中で村上春樹は間違いなく、“天才”と言える感性と匠な文章テクニックを持つ小説家では無いかと思う (好き嫌いは別として)。



さて、『騎士団長殺し』を読んだ感想だが、一言で言えば、"いかにも村上春樹らしい作品"。まずは、帯に記載されたあらすじはこんな風に書かれている。

“その年の五月から翌年の初めにかけて、私は狭い谷間の入り口近くの、山の上に住んでいた。夏には谷の奥の方でひっきりなしに雨が降ったが、谷の外側はだいたい晴れていた……それは孤独で静謐な日々であるはずだった。騎士団長が顕(あらわ)れるまでは。”

語り部としての独特な文章/表現は今回更に磨きがかかり、読む者を物語にグイグイと引き込んで行く。また、村上春樹が得意とする『現実』と『非現実』の狭間で、とても繊細に、且つ力強い物語が進行して行く。今回主人公の『私』は、妻と離婚してしまった肖像画家。有名な日本画家、雨田具彦を父に持つ友人がおり、使われなくなった小田原の山にある雨田具彦の家/アトリエを借りて暫く住むことになるが、この町で色々な新しい人々との"出会い"が有り、この家の屋根裏で、雨田具彦の『騎士団長殺し』と言うタイトルの未発表画が発見されてから、次第に非現実的な世界に引きずり込まれていくのである。

まず凄いインパクトがあったのが、『騎士団長殺し』と言うこの小説のタイトルにもなっている絵だ。小説の中で実に巧みな文章で絵が描写されており、実際どんな絵なのかと言う想像力を駆り立てられながら、本を読んで行くことになるのが何とも楽しい。この絵が不思議な“魔力”を持った絵として見事なまでのリアリティーを持って表現されている。また、本作では崖の反対側にある豪邸に住む、免色渉と言う、何とも不思議な名前のミステリアスな、白髪の初老が登場する。ジャガーに乗り、シンプルながらオシャレなファッションに身を包み、ダンディーな魅力を漂わせる。もし実写映画化されたら、誰が免色渉を演じるのだろうと考えながら読んでいた(自分のイメージでは、ロマンスグレーの髪になった真田広之みたいな感じ)。物語の中で幾つもの仕鰍ッが張り巡らされていて、それらが交わりながら全体としての物語が進行していく。村上春樹のストーリーテラーとしての才能が遺憾無く発揮されているのだ。

村上春樹の作品は、一つの小説の中で、現実世界と非現実世界の境界線がとても微妙なところで描かれる為、本当はありえないような話が、あたかも現実かと思ってしまう感覚があるのがとても独特だ。また、小説の中で現実世界と非現実世界を繋ぐ『入り口』が頻繁に登場するが、今回は主人公『私』が住む家の裏に祠の裏にある『穴』が、序盤からとても気になる形で登場する。ある意味、この『穴』が村上春樹ワールドへの入り口と化すのである。蓋によって封印されていたこの『穴』が免色渉によって開けられてから、次々と不思議なことが起こるようになる。その最も奇妙で滑稽な出来事が、小人の騎士団長の登場だ。彼にしか騎士団長は見えない"イデア"だと言うが、彼を助ける存在でもあり、物語の重要人物。村上春樹の非現実ワールドに吸い込まれて、蟻地獄のように段々と抜け出せ無くなって行く。

そして先日、『騎士団長殺し』誕生秘話なども収められた川上未映子による村上春樹とのインタビュー本、『みみずくは黄昏に飛び立つ』が出版されたので、こちらも早速購入した。『騎士団長殺し』の中で、屋根裏部屋に住みついたみみずくが登場するが、これがまた神の権化かというように、人間どもを達観しているような存在で書かれている。このインタビュー本ははなかなか良く出来たタイトルである。




川上未映子も僕の好きな小説家であり、小説『あこがれ』に就いては以前にもブログでご紹介した通りである。彼女による村上春樹へのロングインタビューと言うのにもかなり興味を惹かれた。読んだ感想として、エッセイ『職業としての小説家』で村上春樹が自身で語っていたことも多かった一方、『騎士団長殺し』の誕生秘話や、村上春樹の本音や自己分析など、川上未映子ならではの鋭い質問や突っ込みにより、新たなコメントも多く引き出し、村上春樹を知る貴重な対談となっているのでは無いかと感じた。さすが川上未映子である。天才小説家、村上春樹の頭の中を少しでも覗き見ることが出来るこのようなインタビュー本や『職業としての小説家』のようなエッセイは村上春樹を知る意味でとても貴重で、興味深い文献となるのだ。村上春樹は天才であるがゆえに長いものには巻かれない、他とは群れないアウトロー的な性格のようだが、インタビュー等で自分で自分のことを“いたって普通の人間”と言えば言うほど、普通では無いということが感じられるのがまた面白い。
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