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じわじわ染みる小川糸の新刊、『小鳥とリムジン』!

僕はそんなにたくさん小説を読む方ではないし、かなり好きな小説家に偏りがある方だ。そんな中で毎回新作を読んでいる数少ない小説家の一人が小川糸である。

小川糸と言えば、『食堂かたつむり』、『ツバキ文具店』、『キラキラ共和国』、『ライオンのおやつ』などが代表作だが、僕もこれまで殆どの主要作品は読んでいる。そして今回、その小川糸の最新作、『小鳥とリムジン』が10月9日に出版されたばかり。早速購入して一気に読破してしまった。

最近なかなか集中して小説を読むことが苦手になっていて、買って読み始めたけど数メージ読んだだけでそのままになってしまっている本も何冊かある。しかし、何故か小川糸の小説は集中力が途切れることなく、スラスラと読めてしまうのだ。どこか小川糸の書く文体が自分に合っていて、読みやすいのだろう。

新刊『小鳥とリムジン』は、“愛することは、生きること“をテーマにした、小川糸らしい物語だ。『食堂かたつむり』では”食べることは、生きること“がテーマで、『ライオンのおやつ』では”死に向かうことは、生きること“がテーマであった。そして今回の『小鳥とリムジン』により、”生きること“をテーマにして3つめの物語である。ちなみに、この3作はカバーの装丁が同じアーティストによるイラストなので、統一感があって素敵だ。

『小鳥とリムジン』とは変な取り合わせのタイトルだなあ、と思いながら読み始めたが、主人公の名前がそれぞれ小鳥ちゃんと理夢人(りむじん)ということから、2人の愛の物語であることが判明する。主人公の小鳥は過去にとても辛い経験をしてきたことから、人を信頼することをあきらめ、自分の人生すらもあきらめていた。しかし、お弁当屋を営む理夢人(りむじん)を始め、かけがえのない人たちと出逢うことで自らの心と体を取り戻していく“自然治癒”と再生物語である。小鳥のささやかな楽しみは、仕事の帰り道に灯りのともったお弁当屋さんから漂うおいしそうなにおいをかぐこと。人と接することが得意ではない小鳥は、心惹かれつつも長らくお店のドアを開けられずにいた。十年ほど前、家族に恵まれず、生きる術も住む場所もなかった18歳の小鳥に、病を得た自身の介護を仕事として依頼してきたのは、小鳥の父親だというコジマさんだった。病によって衰え、コミュニケーションが難しくなっていくのと反比例するように、少しずつ心が通いあうようにもなっていたが、ある日出勤すると、コジマさんは眠るように亡くなっていた。その帰り、小鳥は初めてお弁当屋さんのドアを開けるーというストーリー。

物語の構成として、コジマさんの介護や、小鳥が過去にあった辛い出来事や、高校生時代に亡くした親友との回想が語られる章と、お弁当屋さんの理夢人との愛の物語が交互に語られていくことで、小鳥の物語に深みが産まれていく。前作の『とわの庭』もそうだったが、最近特に辛い生い立ちのある主人公という設定が多い。『とわの庭』ほど酷くはないが、小鳥もこれまで決して幸せな人生を送ってきたわけでは無い人物。一般的な人よりも過酷な境遇にあって、心に傷を負った主人公であり、小川糸の作品に登場する主人公はこのような設定を背負っているケースが多い。僕はそんな過酷な経験が無いので、どうしても本質を理解するのは難しいと思うのだが、それでも小川糸の小説を読むと、いつも心が癒されていくような不思議な魅力がある。そして“愛”や“生きること”という普遍的なテーマは、どこかで誰もが共感出来る要素を見つけることが出来るのだと思う。

小川糸全作品に共通している大きな魅力は、“食“である。どの小説にも美味しそうな料理が登場するが、どの料理も繊細でオーガニック。そして小川糸にかかると、どの料理にも魔法がかかっているように感じられ、美味しさが倍増するような魅力があるから不思議だ。そしてどこか料理に温かみがあり、過去の記憶や自分にとって大切なことに結びついており、物語を語る上で”食”が重要な要素となってくる。僕も特別グルメヲタクというわけでは無いのだが、小川糸の小説に出てくる料理の描写を読んでいるだけでとても食べたくなってしまうものばかりなのである。これは小川糸本人が料理に対する愛と造詣が深いから成せる技なのだろう。そして今回は料理のみならず、”香り”も大きなポイントとなっている。お弁当屋さんから漂うお弁当の匂いや、精油(アロマ)にハマるが、コジマさんとのコミュニケーション手段として“香り”が大きな役割を果たしていく。また小川糸の小説は、山、森、海など、豊な自然も大きなポイントとなっている。今回も理夢人が山伏として山に数か月籠ることが語られるのだが、自然の大きな力が人間の心の傷を癒す自然治癒効果をもたらしていく様子も語られるのが作品の大きな魅力でもある。

小川糸のこれまで作品の中では、鎌倉が魅力的にフィーチャーされた『ツバキ文具店』、死と向き合うことを捉えた傑作『ライオンのおやつ』が特に好きな作品だったが、この『小鳥とリムジン』もすっかり大好きな作品となった。これまでの作品の中では“恋愛要素”が多い作品とはなっている点や、ややキュンキュンする要素もあってちょっと新しい風も感じることが出来たのは大きな発見であった。読み終わった後、とても幸せな気持ちになる作品なので、おススメである。

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