松本零士が2月13日に亡くなってしまった。享年85歳。ちょうど私の父が亡くなった年齢にも近いが、また1人昭和の偉大な漫画家が亡くなってしまった。松本零士の代表作と言えば、やっぱり『銀河鉄道999』と『宇宙戦艦ヤマト』だが、この2作品をリアルタイムで観て育った自分としてはとても残念だし、時代を先取りしていた松本零士の壮大な宇宙観は個人的にも大きなインパクトを受けた。
そんな松本零士が若い頃に多大なる影響を受け、特に『銀河鉄道999』の構想の大きなインスピレーションとなった『わが青春のマリアンヌ』というフランス映画がまた最近大きな話題となっている。僕もこの映画がとても気になり、先日ついにDVDを購入して早速観賞した。
『わが青春のマリアンヌ』は、「望郷」のジュリアン・デュヴィヴィエ監督が1955年に撮った幻想的な青春映画。なんとあの『銀河鉄道999』のヒロインであるメーテルには、この映画のヒロイン、マリアンヌがモデルのひとりになっているのだ。この映画でも、母に似ている美しい女性との出会いと別れを経験して少年が大人になっていく物語となっているが、これも『銀河鉄道999』のモチーフになっているし、映画のタイトルも、『わが青春のアルカディア』に反映されていることも注目だ。
更に興味深いのが、あのTHE ALFEEの1984年大ヒット曲『メリーアン』もこの映画をモチーフにしているということを今回初めて知ってしまったが、確かに歌詞を読んでみると、映画の内容とシンクロしているのだ。
さてこれだけ松本零士にとって特別な作品で、カルト的な魅力のあるこの映画だが、霧が立ち込める森に囲まれた寄宿学校と、湖を挟んだ向かい側に位置する“幽霊屋敷”と呼ばれる、ミステリアスな古城を舞台にした何とも幻想的な物語となっており、それはファンタジーのようでもあり、少しミステリー的でもあり、そして熱いロマンスの要素もあって、何とも不思議な魅力と空気感のあるカルト映画であった。
アルゼンチンからこの寄宿学校にやってくる青年ヴァンサンが、幽霊屋敷に幽閉されているマリアンヌに一目惚れしてしまい、何とか彼女を悪の男爵から救い出そうとするが、最後にマリアンヌは屋敷から消えてしまう。このマリアンヌが絶世の美女として印象的な登場の仕方をするので、松本零士青年が当時この映画を観て、マリアンヌに惚れ込んでしまったのも充分頷ける。そしてマリアンヌがメーテルのモデルになったというのも、イメージ的に良くわかった気がした。
マリアンヌを演じるのは、マリアンヌ・ホルトという、なかなか魅力的なドイツの女優だ。正直今まで存在を全く知らないのだが、この映画での主演以外ではあまり知られていないようだ。残念ながら彼女は1994年に亡くなっているらしい。映画の中でフード付きのケープを着るシーンがあるのだが、このスタイルがまさにメーテル的で、松本零士がインスピレーションを受けたのも想像に難くない。
ちょっとミステリアスなのは、マリアンヌは本当に幽閉されていたのか、それとも何か違う理由があったのか、或いはマリアンヌは本当に実在した女性なのか(母のイメージを重ねてしまったヴァンサンの恋の妄想だったのか?)という謎を残したまま、マリアンヌは消えてしまうのだが、ヴァンサンもまたマリアンヌを求める旅に出る為、寄宿学校を去るところで映画は終わる。その後ヴァンサンは、マリアンヌと再会することが出来たのか、又は単にこれは妄想で、彼の成長物語だったのかという余韻を残して終わるのがまたなかなかいいのだ。
今回、松本零士が亡くなったことがきっかけで、この『わが青春のマリアンヌ』という映画の存在を知ることが出来たし、松本先生が当時インスピレーションを受けた体験を今回追体験出来たことや、メーテルを始めとした松本零士の女性像を形成した原点を垣間見たような気がして、新鮮な喜びと発見があった。なんだか、また『銀河鉄道999』が観たくなってきた。