それは『あばれ天童』という学園・番長マンガ。転校生の少年、山城天童と不良たちのケンカを描いた作品だ。1974年から1976年に雑誌『少年チャンピオン』に連載された人気作。僕は秋田書店の少年チャンピオンコミックス版(全7巻)と、講談社漫画文庫版 (全4巻)を持っている。
当時すでに漫画界の重鎮だった横山光輝が、60年代終盤に学園を舞台にした番長マンガの隆盛を見て挑戦した意欲作であった。本人も「新人になったつもりで描いた」と語っていたが、これは横山先生初の学園ものであったので、意気込みもかなり強かったことが想像出来る。当時の学園もの・番長もの作品の多くが劇画調だったのに対し、本作は横山従来の絵柄ゆえにおおらかで牧歌的な印象が強い。また作品内容も、仁徳で人を惹きつける天童を劉備玄徳に、柚木勝彦を曹操孟徳になぞらえていることから、後に描く三国志を引用して、「学園三国志」と評されることも多いようだ。
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(物語の簡単なあらすじ)
東京の若葉学園にやってきた転校生の山城天童。成績優秀でスポーツもこなす彼は学園の人気者になる。しかし、行き違いから周囲の学園を統括する番長連合と諍いを起こしてしまう。折しも夏休みになり、彼の住む興安寺に佐々頑鉄やキザ男などの豪傑学生が遊びに来てしまい、天童の知らぬ間に番長連合VS天童軍団の闘争が始まってしまった。高取山を決戦の場としてぶつかる両軍勢。駆けつけた天童は、事態を治めるべく番長四天王と大番長の柚木勝彦に一対一の連戦を申し込む。
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学園ものというか、どちらかと言えば番長ものという色合いが強いが、主人公の山城天童はケンカを好まない好青年ながら、ケンカをさせたら誰よりも強く、そしてスポーツも万能。まさに非の打ちどころの無い人物。仁徳者だけに、多くの仲間を惹きつけ、彼を慕っている。またそれが大抗争に巻き込まれる要因にもなるのだが。天童はケンカをなるべく避けようとするが、結果的にケンカのシーンも多い。しかし決して誰も死なないし、ケンカをした後に相手へのリスペクトが産まれ、爽やかな風が吹くという道徳的な作品でもある。
ケンカに長けた仲間も敵も、実に魅力的な設定で描かれており、後半には高校生ながら犬神組というヤクザとも対決するというド派手な展開もあるが、天童はヤクザの二代目とも絆が産まれる。そして最後は、天童が海外に留学するということで、空港に多くの仲間に見送られて旅立っていくという形で物語は終わる。
どんなジャンルであれ、やっぱり横山光輝の作品は“横山印”となる。そこには『鉄人28号』や『伊賀の影丸』などと共通した横山光輝らしさが全編から伝わってくるし、いつも魅力的なキャラクターに溢れており、『あばれ天童』にもたくさんの濃くて魅力的なキャラクターたちが登場する。そして物語の展開スピードも絶妙で、どんどん物語に引き込まれていくのだ。そして読み終わった後、何とも爽やかな気持ちになる番長漫画である。
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