今年の秋クールドラマはかなり色々と見ていたが、その中でも一番面白かったのはダントツで『Silent』だった。12/22 (木)に惜しまれつつ最終回を迎えてしまい、既にサイレントロスとなっている人も多いと思うが、録画したものをまた見返している(既に3回目(笑))。それくらい気に入ってしまい、毎回感動ポイントがあって涙腺が崩壊してしまうドラマであった。
なぜここまで多くの支持を得たドラマとなったのかを改めて考えてみたが、自分として響いたポイントを纏めてみた。
- “聴覚障害者“というテーマ設定
少し不謹慎に聞こえるかもしれないが、昔から僕は“不治の病”系のドラマにはついつい感情移入してしまう。これまでにも『1リットルの涙』、『君と出逢ってから』、『愛していると言ってくれ』、『白い影』等々、挙げればキリがないくらい好きな歴代ドラマはこの不治の病系ジャンルに属するドラマだ。その意味で、今回もテーマからしてそもそもハマってしまう予感は最初からあった。しかし今回ユニークだったのは、『愛していると言ってくれ』とは違い、主人公は高校卒業と同時に耳が聞こえなくなってしまうので、生まれながら障害を持っていたのとはまた少し違う設定だったこと。逆に、聞こえていた声、聞こえていた言葉がもう聴けなくなるというのはかなり残酷であり、この設定がより悲しみを誘うのである。そして、高校時代と現在の対比、声や音楽の使い方などを何とも上手く使っていた点も秀逸であった。
- 普通の恋愛ドラマとは一線を画したラブストーリー
『Silent』は、いまどきの恋愛ドラマとは一線を画し、何ともさりげなくラブストーリーを描いている点が秀逸だ。結局1回もキスシーンすら出てこないラブストーリーは珍しいのではないだろうか。しかも、良くコテコテのラブストーリーにありがちな展開(くっつきそうで、誤解や試練によって一旦離れ、最後はめでたく結ばれる展開)ではなく、高校時代と現在を上手く往復しながら物語を紡ぎ、主人公の2人だけのラブストーリーにフォーカスするのではなく、周辺の人たちのドラマや葛藤にもしっかり過ぎるくらい焦点を当てている点がこれまでのドラマと大きく異なった。ある意味これは大きなチャレンジだったと思うが、この設定が逆にドラマに深みを持たせ、より人間模様にリアリティや共感をもたらした大きな勝因だろう。この点は、なんと言っても生方美久の優れた脚本力によるところが大きい。
- 圧倒的に美しい映像表現
ドラマは雪がちらつく団地から物語が始まり、とても静かで美しい映像からスタートする。この時点で既に“今までのドラマとは違うぞ“と思わせてくれるが、”雪だね!“と無邪気にはしゃぐ、可愛い紬(川口春奈)のコントラストが見事に表現され、これが後々返って悲しみを誘う為の序章となっていくのだが、1話開始時点ではまだ視聴者はそこまで気が付かない。ドラマタイトル『Silent』の意味や、”雪が降ると静かだね“という何気ない紬のセリフすら、とても切なく胸に刺さる。そして中盤の回でも、基本的に手話のシーンが多くて普通であればドラマを見る人の集中力が削がれるリスクが高いのだが、そこであえて手を抜かず、長回しのカメラワークで丁寧に人物を描ききった映像美は神聖な域にすら到達していた。ある意味映画クオリティの撮影方法で贅沢に使ってドラマで表現したことで、ドラマの可能性を広げたのではないかと感じた。この映像表現力という点は監督の風間大樹による手腕も大きいのかもしれない。
- 今の時代だから改めて問いたい、『言葉』の大切さ
コロナ禍になって3年になろうとしているが、世の中の環境は激変してしまった。そしてデジタル時代の今、メール、LINEなど、文字によるコミュニケーションの主流となってきた今、今回の『Silent』を見て、言葉をしっかり相手に伝えること、そして相手の顔を見て伝えることの大切さを改めて教えられたような気がしている。ヒットした要因として、きっと今の若い人たちも、この点を逆に新鮮に感じ取ったのかもしれない。紬が、想の声が好き、声が聴きたいとか、顔を見て話したいと度々ドラマ中で言うが、同時に“言葉”の大切さもドラマの大きなテーマになっている。言葉自体は文字でも良いと思われがちだが、その言葉の“意味”や“思い”をしっかりと相手に伝達する手段として通常は口で話すわけだが、このドラマでは手話でも如何に言葉を伝えて行くかが大きなポイントとなっていく点で、ドラマで伝えたいメッセージ性に感銘を受けた。”うるさい”という言葉を、第一話で全く違う意味で象徴的に使っていたのも実に上手いと思った。
- 巧みなツールとしての”音楽“の活用
『Silent』では音楽がとても効果的に使われている。劇中、紬と想が高校時代に聴いていたのが『スピッツ』のアルバム。この大好きだったスピッツが聴こえなくなってしまった想。そして、イヤホンや補聴器なども象徴的な使われ方で劇中に登場する。また、社会人になって紬が働くのが渋谷のTower Recordsなのだが、その標語、『No Music, No Life』という言葉が、想や聴覚障害者にとっては何とも酷い言葉の暴力として心に刺さる。本来、音楽の大切さを上手く言い当てた上手い標語なのだが、物事の見方や、見る人の立場が変わっただけで暴力となってしまうという点は、今の世の中を端的に表しているという点もかなり秀逸な設定で、考えさせられる。そして最後に、Official髭男dismが歌う主題歌、『Subtitle』(字幕)がまたドラマの内容と歌詞がシンクロしていて素晴らしい。手話はまさに言葉の字幕(Subtitle)であり、最終回で見せた歌詞とドラマのセリフのシンクロが大きな話題となった。
色々と語ってしまったが、若いスタッフによる感性が見事に結実した結果出来あがった素晴らしいドラマであり、またもちろん川口春奈、目黒漣、夏帆、鈴鹿央士、板垣李光人、風間俊介等、役者陣の見事な演技力により、感動を誘う展開になったことも間違いない。個人的には特に川口春奈と夏帆の可愛らしさを今回のドラマで再認識した。様々な要素と、時代が求める流れや空気感に引き寄せられ、絶妙なコラボレーションを見せたドラマとなったわけだが、まさに奇跡的なタイミングで誕生したドラマだったのである。