YMOの高橋幸宏が先日亡くなってしまったが、それを機にまた過去の高橋幸宏作品を聴いたりしている。個人的な意見だが、僕としては高橋幸宏のソロやその他結成した様々ユニット全てを振り返ってみて、特に好きなのは３つ。１つはやっぱりYMOである。ここでのエレクトロポップは斬新で画期的であったし、今振り返っても全く色褪せない(むしろ新しい音に聴こえてしまうくらいだ)。そして２つ目が今回取り上げたいpupaというバンド。そして最後３つ目は一番最近というか、晩年に結成したMETA FIVEである。
META FIVEは以前取り上げたが、今回は改めてpupaに着目し、また当時のアルバムを聴き直してみた。Pupaは2007年に結成された日本のエレクトロポップバンド。2007年の夏に、高橋幸宏の呼びかけにより、メンバーが集結したが、メンバーは、高橋幸宏、原田知世、高野寛、高田漣、堀江博久、権藤知彦の6名。この内、原田知世と高野寛はソロアーティストとしても良く知っていたが、正直その他3名はあまり知らなかったが、業界では実力派で有名な音楽家たちで、高橋が呼びかけただけのことはある強力なメンバーであった。
バンド名の由来は高橋が愛するフライ・フィッシングの用語で蛹の意味らしい。いつもバンドの衣装を手掛ける高橋は、今回も衣装を担当し、コンセプトは「トラッド×ミリタリー」として全メンバーの衣装をデザインしたという。
そんなユニークな形で結成されたpupaだが、その音楽性はとても穏やかで、同じエレクトロポップと言っても、エッジが効いたYMOとは対極にいるようなシンセサウンドで、果てしなくどもまでも心地良いサウンドである。きっと天国ではこんな音楽がかかっているのではないかと思えるような浮遊感がある。
浮遊感と言えば、彼らのファーストアルバムのタイトルは『floating pupa』。まさに浮遊する音楽である。このアルバムに収録されているのは下記15曲。
- Jargon~What’s pupa~
- At Dawn
- Creaks
- Anywhere
- Tameiki
- Unfixed Stars
- Glass
- How?
- Laika
- Floating Pupa
- Marimo
- Sunny Day Blue
- New Order
- Home Of My Heart
- Cicada
このアルバムには結構好きな曲が収録されているが、まずおススメは2曲目の『At Dawn』。これは如何にも高橋幸宏らしいシンセサウンドで、原田知世がボーカルを務めるせいか、何ともスローで心地良いポップに仕上がっている。原田知世は特別に歌唱力があるとは思ったことも無いが、彼女のどこかライトに歌うスタイルは昔から気に入っていて、ソロアルバムも結構今でも聴いているが、この曲でも妖精のような彼女の持ち味と、高橋のお馴染みのボーカルが一部入ってくる感じが上手くpupaの世界観を表している曲だ。
3曲目の『Creaks』もかなりインパクトあり。というのも、これは聴いたら一発で賛同頂けると思うが、サウンドがどこかピートルズ、というかより具体的に言うとジョージ・ハリソンの持つサウンドに近いので、どこか懐かしく、高橋のボーカルがブリティッシュサウンド的にマッチしている感じもあって心地良いのである。
4曲目の『Anywhere』は、まるで原田知世のソロ曲かと思ってしまうような曲。もちろん彼女がボーカルを務め、どこまでも軽やかな浮遊感が漂う。僕のお気に入りの１曲だ。
5曲目の『Tameiki』も良い曲だ。『ベステンダンク』などのヒット曲で有名な高野寛がこの作曲とボーカルを務めるが、この他8曲目の『How?』など計４曲をpupaに提供しており、自身でボーカルも担当している。特に『Tameiki』と『How?』は浮遊感を持った良い曲である。
11曲目の『Marimo』も原田知世ボーカル曲。まりもをテーマに歌う感じが緩くて最高だが、何だか雨の日に窓辺でゆっくりと珈琲を飲みながら聴きたいような曲である。同じく12曲目の『Sunny Day Blue』も、緩いシンセが何とも心地良いカフェサウンドだ。
このアルバムは、高橋お得意の電子音を上手く使いながらもYMOのようにはならず、どこまでも軽やかで緩いエレクトロポップになっているのがウリで、一流ミュージシャンが集まって気負いの無い音楽を楽しんで作っているような余裕が感じられるアルバムだ。そんなに緩くていいのか、という反論もあるかもしれないが、１曲１曲にはしっかりと味わいもあるので、その緩さを楽しむためのアルバムとして、今こそ、もっとこういった空気感のバンドが存在してもいいと思ったりもするが、その意味でもこのpupaは、高橋幸宏が残してくれた貴重な音楽遺産の一つかもしれない。
