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北野たけし最新作『首』は、新解釈/戦国時代版アウトレイジ!

先日、まだ観ていなかった北野たけし6年ぶりの監督作品『首』を観る為、いつも訪れる新百合ヶ丘のイオンシネマでレイトショーを観賞した。北野作品は『アウトレイジ』シリーズ含めこれまでに結構観賞しているが、今回は久しぶりの時代劇ということもあってより一層興味を持ち、公開されたら観賞したいと思っていた作品だ。北野たけしが『ソナチネ』の頃から温めていた構想を今回映画化したものとしても話題となっており、5月のカンヌ映画祭でも公開されて話題となっていた。観た率直な感想として、北野作品らしい見事なテンポで、残酷な狂気の戦国時代が新解釈で描かれており、まさに“戦国時代版のアウトレイジ“とも言える狂った作品であった。

物語は、天下統一を掲げる織田信長(加瀬亮)が、毛利軍、武田軍、上杉軍、京都の寺社勢力と激しい戦いを繰り広げていたが、その最中、信長の家臣・荒木村重(遠藤憲一)が反乱を起こして姿を消す。信長は明智光秀(西島秀俊)、羽柴秀吉(ビートたけし)ら家臣を一堂に集め、自身の跡目相続を餌に村重の捜索を命じるが・・という展開で始まる。信長が本能寺で明智光秀に討たれる場面に向けて物語がテンポよく進行していくのだが、正直この頃の秀吉目線、又は光秀目線で捉えた時代劇は、テレビドラマ、映画含め散々描かれてきたので、テーマとしての真新しさは全く無い。しかし、北野たけしが描くと、こうも新解釈で、狂気の世界になってしまうのかと思わず感心させられる作品だ。

時代劇だと得てして美化されがちだが、武将はみんなどこか狂っていて、善人も悪人もない、混沌とした狂乱の世界だったのかもしれない。ここにBL(ボーイズラブ)的ホモセクシュアルな世界が追加されて、その展開にちょっと目を疑ってしまうが、実際に当時男性同時の恋愛などは普通にあったとされており、この点も含めある意味リアリティーのある作品なのかもしれない。普通この戦国時代の時代劇は、どこかヒーローもの的な作品として描かれており、どうしても美化される。しかし、実際にはみんな富を得ることや出世しか考えておらず、もっと泥臭く、狂気に満ちた世界だったのかもしれないと、この映画を観て思ってしまった。日本人だけではないと思うが、特に戦国時代の日本人というのはまさに“野蛮人”だったのかもしれない。またBLに関しても、仕えていた殿様に忠誠心を貫き、“殿の為なら死ねる“なんていうのは、性を超えた愛情が無ければできないことだったようにも思えてくる。その意味では忠義はどこか狂った恋愛感情によって生まれたものなのかもしれない。そんなことを色々と感じさせる映画であった。

合戦シーンはかなりの迫力で、戦い方も泥臭く、リアリティーに富んでいた。首がどんどんはねられ、切腹などのシーンもかなりリアルで気持ち悪く、グロテスク。まさにタランティーノ監督が泣いて喜ぶようなB級映画並みの残忍なシーンが満載であった。カメラワークなどは黒澤明作品にも大きな影響が伺えるが、その残忍さは黒澤作品とは違い、限りなく『アウトレイジ』に近い為、まさに間違いなく“北野印“の作品である。

北野組と呼ばれるような豪華な主演俳優陣は何とも豪華。秀吉は北野たけし自ら演じ、主役とも言える光秀に西島秀俊、秀吉のブレインであった黒田官兵衛に浅野忠信、狂った信長の演技が見事であった加瀬亮、信長を裏切った村重に遠藤憲一、他にも主要キャストに中村獅童、木村祐一、勝村政信、桐谷健太、大森南朋、岸部一徳、寺島進、大竹まこと、小林薫など多彩な顔触れが並ぶが、女性は殆ど出てこないので、完全に”男性中心”の映画だ。その意味でも『アウトレイジ』に近い世界観と言える。

そして最後に、タイトルになっている『首』について。映画の中ではこの首にまつわる展開が象徴的に使われているのが素晴らしい。敵の“首“を取ることに拘っていたのが戦国武将だが、首をとって手柄を立てることに命をかけ、狂乱の世界に身を置いていく人間模様が見事に描かれている。本能寺の変で信長の首を取ってこれなかったことが、光秀天下にならなかった大きな要因だが、それだけに首を取ることが重要だったのだ。中村獅童が茂助という名もなき百姓の役を演じているが、これがマイナーな役かと思ったら、実はラストシーンの北野たけしらしい”オチ“も含め、なかなか見事な伏線が描かれており、映画を見終わったあと、”確かに『首』の映画だったなあ~“と感じてしまう作品。

そして北野たけしらしさがさく裂していたのが、自ら演じた秀吉という存在。百姓上がりの秀吉は忠義を重んじる考えが希薄。だからこそ、首を取ることにも全く拘りが無いのだ。これが最高の皮肉としてラストシーンに登場するのだが、その意味でも見事なタイトルであった。このあたりの感覚はさすが北野たけしであり、彼らしいオリジナリティが活きていた。僕はそもそも戦国時代を取り上げた時代劇が好きなので新たな解釈として大いに楽しめた。やっぱり残忍なシーンは思わず目をそむけたくなってしまい、どうやっても好きになれないが、それでもこの変なリアリティ感から色々と深く考えさせられ、久々にとても印象に残った北野作品となった。

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