先日、いつも立ち寄っている近所のレコード店で、坂本龍一のアルバム『未来派野郎』の中古レコードを発見し、思わず購入してしまった。このアルバムは、1986年にリリースされた坂本龍一のソロアルバムだが、オリジナルアルバムとしては1984年にリリースされ話題となった『音楽図鑑』に続くアルバムである。
『未来派野郎』というタイトルもなかなかYMO的で面白いのだが、実はこのアルバムは前から欲しいと思っていた1枚。坂本龍一のソロ曲の中で僕が特に好きな『黄土高原』と『Ballet Mecanique』という2曲が収録されているアルバムだからである。そしてこのアルバムは、Apple Musicではダウンロード出来ない為、CDかレコードで買うしかない。CDは再販されているもののレコードの方は再販されておらず、当時のものを手に入れるのがなかなか難しくなっているので、今回1986年当時の中古レコードを入手出来たのはラッキーであった。
収録されているのは下記9曲。アルバム全体としてFairlight CMIとYamaha DX-7をフル活用しており、未来派に相応しい見事な、坂本龍一らしいシンセサウンドを生み出している。
- Broadway Boogie Woogie
- 黄土高原
- Ballet Mecanique
- T. II
- Milan, 1909
- Variety Show
- 大航海 Verso lo Schermo
- Water is Life
- Parolibre
美しいインスト曲の『黄土高原』は、心に染みるサウンドでやっぱり素晴らしい。また『Ballet Mecanique』はボーカルが入った曲ではあるが、メロディがとても美しく、お気に入りの1曲。元々は坂本龍一が岡田有希子に提供した曲がベースとなって、新たに歌詞を書き換えたセルフカバーという点でもユニーク。坂本龍一は恐ろしく美しいメロディを奏でる曲と、難解で複雑な曲など色々とあるのだが、この2曲は特に僕の好きなタイプの曲である。
また1曲目の『Broadway Boogie Woogie』は有名なモダンアーティスト、モンドリアンによる有名なポップアートをモチーフにした曲で、勢いのあるポップな打ち込みシンセサウンドが展開されていて、シンセ好きな僕としては何ともビートが心地良い、オシャレな曲だ。映画『ブレードランナー』のセリフからサンプリングされているのも未来派な感じで面白い。シングルとなった『G.T.』のミックス違いバージョンである『G.T. II』も収録されているが、これもなかなか良い曲。GTとはGrand Tourismoの略で、我が家の愛車と同じでもあり、ちょっと親近感が(笑)。
このアルバムは、イタリアの詩人、フィリップ・トンマーゾ・マリネッティの『未来派』にインスパイアされた作品として、アルバムのタイトルである『未来派野郎』として引用されているらしい。マリネッティの詩をもちろん読んだことは無いのだが、YMOで世界を席巻した坂本龍一はまさに“未来派野郎”であり、彼を見事に表現した言葉、そしてアルバムのタイトルであることは間違いない。
レコードで言うと、A面から一転して、B面は結構難解でチャレンジングなサンプリング系サウンドが続く。1曲目の『Milan,1909』は若干退屈で、正直個人的にはそんなに好きな曲ではないが、歌舞伎の効果音などもサンプリングで使われている。『Variety Show』はノリのいいヒップホップ系のサウンド。その後インパクトのある『大航海』、やや退屈な『Water is Life』を経て、ラストの『Parolibre』は勝手に“幽霊音楽”と読んでいるが、まるで幽霊が登場しそうな怪し気で、悲し気なメロディが印象的である。アルバム全体のコンセプトとしてはなかなか攻めた内容であり、坂本龍一らしい未来派アルバムと言えるのかもしれない。
ちなみに、僕の好きな美しいメロディ曲を中心に集めたベスト盤となる『Gruppo Musicale』が1989年にリリースされ、こちらはCDで持っているが、このベスト盤には『黄土高原』、『Ballet Mecanique』のみならず、僕が大好きなインスト曲『Self Portrait』も収録されているので、他のインスト曲も楽しみたい場合はこのCDが一番おススメである。