徒然なるままに修羅の旅路

祝……大ベルセルク展が大阪ひらかたパークで開催決定キター! 
悲……大阪ナイフショーは完全中止になりました。滅べ疫病神

In the Distant Past 28

2015年10月25日 08時03分03秒 | Nosferatu Blood
 片腕がごっそりと吹き飛び、傷口から大量の血があふれ出す。
 声帯を持ってはいないのか、悲鳴こえはあがらなかった――その代わりか本物の海老のそれに似た大小の顎を開閉しながら、02が体を仰け反らせる。
 だがそれでも動きを止める事無く、02は反撃を仕掛けてきた。
 左腕に備えた鈎爪で、こちらの体を掴もうと手を伸ばしている。
 左手の鈎爪はバレーボールを掴めそうなほどの大きさで、こちらの胴体も鷲掴みにしてしまえるだろう。掴んだ状態でレーザーを発射すれば、いかなアルカードといえども無事では済まない。
 そして、斬撃動作の直後で腕が邪魔になってキメラの挙動は見えていない――キメラに思考能力があるなら、そう考えているだろう。実際その判断は正しい。
 彼らはアルカードがその場に居ながらにして自分自身も含めた周囲の状況をつぶさに把握することの出来る、憤怒の火星Mars of Wrathを持っていることを知らないのだから。
 背後から肉薄してくるキメラたちの姿は、肉眼の視界には入っていない――しかし周囲の状況を脳に直接投影する憤怒の火星Mars of Wrath視覚、重層視覚は様々な高精度センサーによる検索結果から合成されたそれぞれ視点の異なる複数の映像によって使用者の死角を補完する。
 三次元俯瞰視界3Dオーバールッキング・ビュアーはまるで監視カメラで別の場所から見ているかの様に頭上から見下ろす視点で自身を含めた周囲の状況を詳細に描写し、全方位視界オムニディレクショナル・アラウンド・ビュアーはまるで全身が目になったかの様に彼自身の周囲三百六十度全方向の状況を描画している。全方位視界オムニディレクショナル・アラウンド・ビュアーは足裏の下以外のあらゆる角度を視認出来るため、これらを組み合わせることでアルカードには視覚的な意味での死角は完全に無くなる。
 手甲の隙間から索敵触手を伸ばしているだけの状態なので視界は狭く暗く粗く、フレームレートもさほど高くなく多少の描画の遅延ラグもあるが、それでも相手の動きから次の攻撃を予測する材料には十分に使える。
 だから左手で抜き放った三爪刀トライエッジの鋒をアルカードにとっては死角になっている角度から突き刺されるというのは、02にとって予想外のことだっただろう。
 右腕の下をくぐる様にして彼の体を掴もうと伸ばされた左腕の外殻の遊びから入り込んだ鋸状のぎざぎざの刃が、筋肉組織を突き破り深々と体内に入り込む。
 激痛に身をよじらせるキメラの正面から抜け出す様に左足を外側に踏み出し、その足を軸にして転身しながら、アルカードは塵灰滅の剣Asher Dustの柄を握り直した。
 塵灰滅の剣Asher Dustの刃が蒼白い激光を放ち、バチバチと音を立てて細かい電撃を纏わりつかせる。
 まずは一匹目――
 まるでダンスを踊る様にステップしながら02からわずかに距離をとり、同時に握りを逆に切り替えて――そのままキメラの背中側から最大の膂力と遠心力を乗せて、塵灰滅の剣Asher Dustの刃を人間でいえば首筋の少し下あたりを狙って叩きつける。
 重戦車に匹敵する凄まじい腕力で撃ち込まれた塵灰滅の剣Asher Dustが身の毛の彌立つ凄絶な絶叫とともに世界斬・纏World End-Followを解き放ち、02の背中側を鎧うキチン質の分厚い甲殻を粉砕した。
 吹き飛ばされた02が正面にあった培養液の原液が満たされた巨大な樹脂製の貯水槽に、轟音とともに激突する――分厚い強化プラスティック製の外壁に大穴が穿たれ、衝突の衝撃で調製槽全体が一瞬傾いた。外装に穿たれた穴からじゃばじゃばという音とともに大量の培養液が流れ出し、貯水槽の下で倒れ込んだ02の身体に降り注ぐ。
 海老に似た外観の02は背中側の甲殻が完全に粉砕され、なんともいえない色の筋肉が剥き出しになっている。キメラは遺伝子サンプルの一部に人間を使っているせいか、生物学的に外骨格に分類される外殻クチクラを持っていても骨格を備えていることが多いのだが、02の場合がそうなのかは見た目では判断がつかなかった。
 どこまでダメージが及んだかわからないが、海老のそれに似た扇尾や無事な手足ががくがくと痙攣し、その場で悶絶している。即死したかどうかは今ひとつ判別がつかないが、まあ無事では済むまい。仮にまた動き出すとしても、五分や十分では立ち上がれないだろう。
 だが――周囲を確認してから、アルカードは再び貯水槽に視線を戻した。
 視線を据えても02には変化は無い。変化が無いということは、まだ生命活動が終わってはいない。
 まだ時間がある――視線を強めると樹脂製の貯水槽の外壁が高熱に晒された様にぐにゃりと溶けて、瞬時に炎上した。内部に貯水された大量の水の水圧に負けて変形し、穿たれた穴が広がって、大量の水がそこから流れ出してくる。
 配管の外観から推察するに、内部には浮きフロートを用いた自動水位調整装置が組み込まれている。
 貯水槽の内部には一端を貯水槽の内部に接続されたアームが組み込まれており、その反対側の端には浮きフロートが取りつけられている。
 アームはヒンジ状の接続部によって貯水槽に取りつけられており、縦方向にスイングする。可動範囲はおそらく九十度程度だろうか、水平に近い角度からアームが下がりきり、内壁に当たって止まるまでの範囲。
 アームは液面高さによって変化する浮きフロートの高さに合わせて、可動範囲内で自由に動くことが出来る――そしてそのアームのどこかに栓が取りつけられていて、浮きフロートと一緒にアームが水平に近づくと給水配管の開口部をふさいで原液の供給を止めるのだ。行き場が無くなった原液はオーバーフローパイプを通して再び貯水槽か、あるのならどこかの一時的なチャンバーに戻されることになる。
 要するに、キャブレターのフロートチャンバーの液面調整機構と同じ構造だ――液面が上がると供給が止まり、液面が下がると供給が再開される。
 だが、今は供給される原液は注入されたそばから流れ出しており、したがって浮きフロートが原液を供給する配管をふさぐことは出来ない。つまり今の状況では浮きフロートのアームを手で持ち上げて原液供給管の開口部を栓でふさぐか、もしくはポンプのストレーナーが原液を吸い上げられなくなるほど地下貯水槽の水位が下がるまで、原液の補給は絶対に止まらない。
 分子加速破壊能力モレクル・アクセラレイションはかつて原理が解明される以前、念力発火能力バイロキネシスと呼ばれていた――実際に対象を気化させる前に、分子の運動が加速されることによる摩擦熱で攻撃対象の一部が発火、炎上するからだ。
 呼称が変わったのは、燃やすことが出来ないだけで水や鉄、石などの不燃物も攻撃出来ることがわかったからだ。
 分子加速破壊能力モレクル・アクセラレイションは攻撃対象の分子の運動を加速させることで、分子構造を破壊して目標を気化させる――その過程で攻撃対象は可燃物であれば発火し水であれば沸騰、金属も熔解したのちに沸騰し、石であれば粉砕される。しかしそれは分子の運動を加速させる際の摩擦熱や分子振動の加速に伴う異常振動によるもので、あくまでも副次的な結果にすぎない――本来は目標を熔解させたりすること無く、瞬時に気化させる能力だからだ。
 だが出力を十分に高めないで『加速アクセラレイション』の照射を行うと、分子加速破壊能力モレクル・アクセラレイションは攻撃対象を気化させずにただ燃やしたり沸騰させたり粉砕したりする。それはつまり――
 貯水槽に穿たれた穴から流れ出した大量の培養液の原液が流れ出しながら空中で沸騰し、もうもうと湯気が立ち昇る――内部に貯水されていた原液が分子の運動を急激に加速され、流れ出したそばから熱湯に変わっているのだ。
 流れ出した原液がぐつぐつと空中で沸騰しながら貯水槽の下に転がっていた02の上に流れ落ち、うつぶせに倒れ臥していた02が熱湯と化した培養液の原液を浴びせかけられて、それまでとは違う意味で悶絶し始めた。
 同時にキチン質の外殻が、まるで茹でた蟹の外殻の様に赤く変色してゆく。
 キチン質の外殻クチクラの内部でオボルビンやクラスターシアニンなどの蛋白質と結合していたアスタキサンチンが、加熱によって分離し始めたのだ。水揚げされた蟹の殻が、ボイルされることで赤くなるのと同じ現象だ。
 さて――
 視線を転じた先で、02を熱湯で釜茹でにするのに利用した貯水槽の向こうにいた03が再び床を蹴る。03は巨大な鈎爪で手近に転がっていた研究員の死体を掴み上げ、そのまま下手投げで投げつけてきた。
 真直に振り下ろした塵灰滅の剣Asher Dustの一撃で研究員の死体を叩き落とし――憐れな研究員の胴体を上下まっぷたつに両断して、アルカードはそのまま前に出た。
 03が再び体を丸めて突進形態をとり、進路上にあるものすべてを削り取りながら突進してくる――迎え撃つために手にした塵灰滅の剣Asher Dustを右脇に引き八双の構えに身構えたとき、突然剣先に衝撃が走ってアルカードはそちらに視線を向けた。
 まるで半ばまで割った蜜柑の様にふたつに割れて展開した04の瘤が、塵灰滅の剣Asher Dustの鋒を銜え込んでいる。
 消して再構築することは出来るが――間に合わんか。
 ――チッ!
 舌打ちを漏らして、アルカードは再び03に視線を戻した。
 分子加速破壊能力モレクル・アクセラレイションは無生物や植物、死体、本体から切り離された手足等の身体の一部に対しては効果があるが、生きている動物に直接干渉することは出来ない――したがって、03や04を直接焼くことは出来ない。
 だが――
 まるで巨大な回転砥石グラインダーの様に床の表面を削り取りながら転がってくる03の体が、横殴りの爆風によって吹き飛ばされた。
 ちょうど床の上に倒れ込んだまま真っ赤に茹で上がった02を巻き添えにしようとした瞬間、先ほど02を釜茹でにするのに使われた貯水槽が爆発を起こしたのだ。
 分子加速破壊能力モレクル・アクセラレイションは攻撃対象が直接肉眼の視界に見えており、かつ射程内に対象があれば、生きた動物を除くあらゆる物体の分子の運動を加速させることが出来る。
 貯水槽に穿たれた穴から内部に残っている培養液の原液を『見る』ことで分子の運動をそれまでの数十倍にまで加速させ、貯水槽内に残っていた原液すべてを瞬時に沸騰させたのだ。
 先ほどまでの様に貯水槽の下で虫の息になった海老0 2に熱湯を浴びせて茹でるのが目的ではないので、出力も先ほどとは桁違い――地下貯水槽から際限無く供給されていた培養液の原液は分子加速破壊能力モレクル・アクセラレイションの加熱によって瞬時に沸騰させられ、文字通り一瞬で蒸発して大量の水蒸気へと変わった。
 水は沸騰して水蒸気に変わる際に、体積が千七百倍にまで増大する――02を釜茹でにするだけが目的だった先ほどの攻撃とは違って、今度の『加速アクセラレイション』は二十五メートルプールを瞬時に干上がらせるほどの出力のものだった。
 実際に加熱したのは貯水槽の割れ目から覗く液面とそこから流れ落ちてくる原液だったが、分子加速破壊能力モレクル・アクセラレイションによって供給された熱は瞬時に貯水槽内部や床の上に流れ落ちた原液にまで広がって、一秒にも満たない短い時間で数百リッターもの大量の原液を水蒸気に変えた。
 それだけの量の水が瞬時に水蒸気に変わったことで急激に膨張し――結果、爆風も同然の衝撃波となった。『加速アクセラレイション』による分子同士の摩擦で生じた超高熱が内部の原液すべてを一気に水蒸気に変えて急激に膨張させ、樹脂製の貯水槽を内側から吹き飛ばしたのだ。
 吹き飛ばされた03がまだ無事だった調製槽に突っ込んで、巨大な筺体を薙ぎ倒す――とりあえずそちらは無視して、アルカードは04に視線を戻した。
 片脚を切断されているために床の上に座り込んだまま、04が左腕の槍状の器官をこちらに伸ばす。同時に尖った槍状の先端が耳障りな低周波音を発し始め、その音が続いて耳を劈く様な高音域を経て聞き取れなくなった。
 こいつもか――
 同時にこちらに尖端を向けた槍状の器官が、アルカードに向かって高速で伸びてくる――横跳びに躱したアルカードがそれまで立っていた空間を刺し貫いた高周波振動する槍状の器官が後方にあったスーパーコンピューターの残骸に突き刺さり、轟音とともに筺体を粉砕した。
 高周波数で振動しいかなる物体も貫くことの出来る、言うなれば高周波スピアだ。尖端で接触した対象の分子結合を解くことによって貫通するため、これで貫くことの出来ない物体は理論上存在しない。
 今起こったのは、共鳴現象による異常振動だ――高周波数で振動する槍状器官が突き刺さると、振動波が対象に伝播する。物体にはその材質と構造、形状で決まる固有の共鳴周波数というものがあり、伝播した振動波の周波数が共鳴周波数に達すると振動数が一気に跳ね上がって異常振動を始め、やがては粉砕されてしまう。
 振動波を送り込まれた筺体の構造物が振動し始め、その振動周波数が材質と形状で決まる共鳴周波数を上回ったことで、筺体の構成分子が異常振動を起こして構造物が自壊したのだ。
 05の鈎爪も切断するのではなく突き刺す様にして使い、鈎爪を一定時間対象に突き立てたままにしておけば、同様の現象が起こるだろう。
 右腕の瘤状の器官もそうだが、それを腕に接続する触手も筋肉で出来ているらしく、自在に伸縮する様だ――高速で引き戻された触手が再び伸長し、まるで啄木鳥が木を突くときの様にアルカードを追って床や周囲の構造物に次々と突き刺さる。
 右腕の瘤と違って遠心力をつけたりする必要が無いからだろう、瘤を直接投擲したり瘤で掴んだものを投げつけてくる攻撃と違って予備動作がほとんど無く、動きが直線的な反面攻撃が速く手数が多い。
 次々と繰り出されて見る間に床や壁、周囲の調製槽などの構造物に擂り鉢状の穴を穿っていくその攻撃に、アルカードは舌打ちした。
 こいつ一匹にかまけている暇は――
 いったん塵灰滅の剣Asher Dustを消して、瘤による刀身の拘束を振りほどく――そのまま伸びきった高周波スピアを躱して最接近しようと足を踏み出しかけたとき、視界の端で01が動いた。
 咆哮とともに突っ込んできた01が、鈎爪を突き込む様にして貫手を繰り出してくる。
 塵灰滅の剣Asher Dustを再構築している暇は無い――アルカードはその攻撃を払いのける様にして内懐に飛び込むと、人間で言えば鳩尾のあたりを狙って肩で当て身を喰らわせた。
 ただの当て身ではない――中国拳法に見られる貼山靠に類似する背面からのタックルを昇華させた草薙神流クサナギシンリュウの最秘奥のひとつ、『クダキ』の変形だ。そして同時に、腋の下を通して突き込んだ三爪刀トライエッジの刃がキメラの左脇腹を深々とえぐっている。
 口蓋から大量の血を吐き散らしながら、派手に吹き飛ばされた01の体が調製槽の残骸に背中から激突する。それでいったん注意をはずそうとしたその刹那、01の肩を鎧うクチクラの外殻がいきなりモコリと膨れ上がった。
 続いて肩の装甲がこちらに開口部を向けて展開し、内部からレーザー発振器官が顔を出す。
 ――まずい!
 小さく毒づいて、アルカードは左手でブラウニング・ハイパワー自動拳銃を引き抜いた。立て続けの乾いた銃声とともに叩き込まれた二度の概略照準連射ダブルタップが、両肩に構成されたレーザー発振器官を叩き潰す――よりも早く、高度視覚を塗り潰す可視光線外の激光とともにレーザー発振器官が火を噴いた。飛来した銃弾を瞬時に蒸発させながら照射されたレーザーが寸手のところでアルカードをはずして手近な調製槽に突き刺さり、内部の培養液を沸騰させて爆発を起こす。
「うぉっ……!」
 その爆発に巻き込まれるのを避けるために跳躍しながら、塵灰滅の剣Asher Dustを再構成。
 危なかった――銃撃に反応して01が体をよじっていなければ、アルカードが咄嗟にそれとは逆方向に身を躱しながら発砲していなければ、間違い無く直撃を喰らっていただろう。
 01の肘の刃状の器官は退化し、代わりに肩にはクチクラの外殻に保護されたレーザー発振器官――生体熱線砲バイオブラスターが形成されている。獣毛の下の筋肉も、若干退化している様に見えた。
 大きく盛り上がって展開した肩部装甲の背中側で、背後の光景が陽炎の様にゆがんで見える――おそらく内部に余剰熱を排出するための熱交換器が形成されており、そこからレーザー発射後の放熱を行っているのだ。
 と――
 アルカードの視線の先で、01に再び変化が起こる。
 両肩に形成されたレーザー発振器を保護する様に閉じたクチクラの外殻が小さくしぼんで肩の装甲を再構成し、代わりに両肘の刃状の器官が伸長、獣毛の下の筋肉が盛り上がる。
 あれは――
 最初に遭遇したとき、01は筋力増幅型の特徴を備えたキメラだった――だが、先ほどまでは間違い無く生体熱線砲装備型バイオブラスタータイプの特徴を備えていた。そして今は最初に遭遇したときと同様、筋力増幅型に戻っている。
 状況に応じて武装ロードアウトを切り替えて戦うキメラだと――
 三爪刀トライエッジで受けた傷はすでに治り始めているのか、さほどダメージを感じさせない動きで01が再び床を蹴った。鈎爪による貫手を躱して重心を沈めたアルカードの首を刈る様な軌道で、高熱を放つ肘の刃を振り回す。
 アルカードは小さく舌打ちを漏らして刃の一撃を躱し、踏み込んできた01の腕を体の内側に向かって押しのける様にして01の腕の外側に出た。
 ヒトガタ相手の戦闘であれば、こちらが左右どちらかの側面に廻り込むだけで攻撃手段は極端に制限される――逆側の腕での攻撃は届きにくく狙いの精度も欠き、手前側の腕での攻撃は肩か肘の回転を止めるだけで無力化されてしまうからだ。01の場合は肘部の刃状の放熱突起があるので、もう少し厄介だが。
 だが、別に時間をかけるつもりは無いからどうでもいい――肘の放熱刃を使ってアルカードを斬り倒そうとしていたために、01の踏み込みはかなり深い。その状態から直接側面に廻り込んだアルカードに攻撃をつなげるのは、かなり難しいだろう――それを待つ気も無い。
 そのまま01の側面に廻り込み、肘部の刃による斬撃動作のために踏み込んだ体勢のキメラの前足の膝を側面から蹴り砕く。
 絶叫とともに転倒した01の首を続く一撃で刈ろうと塵灰滅の剣Asher Dustを振りかぶったとき、横合いから04が繰り出した高周波スピアが再び襲いかかってきた。
 攻撃動作を中断していったん01から間合いを離すと、今度はこちらの体を銜え取ろうとしているのか、右手の瘤が襲ってくる。
 ――くそ、邪魔臭い!
 毒づいて、その一撃を塵灰滅の剣Asher Dustで叩き落とす――先ほどまでの様に自由に動けないからだろう、04はものを投げつけてはきていない。
 代わりに絨毯爆撃の様に逃げ場の無い高周波スピアによる連続攻撃で動きを制限し、そこに瘤による一撃を叩き込んでくる。
 もはや自由に動き回り、ものを掴んで投擲することが出来ないからだろう、おそらく04は仲間のサポートに徹することに決めたのだ。
 とりあえずほかのキメラが再度攻撃態勢を整える前に、高周波スピアだけでも――
 だが、04の反撃は予想外のところからやってきた。叩き落とした瘤がそのまま足元でのたうちまわり、足首を銜え込んだのだ。
 ――しまった!
 振りほどくいとまも無い――それまでこちらの動きについてこられなかったのか手を出してきていなかった05が今度は全高十二メートル、直径五メートルはある巨大な調製槽を担ぎ上げて突っ込んできた。

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