徒然なるままに修羅の旅路

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In the Flames of the Purgatory 52

2014年11月23日 01時14分17秒 | Nosferatu Blood LDK
 
   †
 
 ひとつ下の階層は、完全に熔岩で埋まっていた。
 神威雷鎚・昇雷サンダー・ブラスト・ライジングによって発生した電気抵抗による発熱が原因で構造物が熔かされ、熔融はしたものの蒸発するにいたらなかった構造物の一部が熔岩状になって下階層に流れ込んだからだ――セアラも三階層下にいたからいいものの、直下の階層にいたらあっという間に熔岩に呑まれて焼け死んでいただろう。
 胸中でそんな愚痴をこぼしながら、セアラはあっという間にずぶ濡れになった衣装を見下ろした。濡れそぼった前髪が、べったりと額に張りついている。溜め息を漏らして、セアラは自分が開けた風穴を見遣った――あまり直径が大きくならない様に威力は絞ったのだが、それでも大量の水が流れ込んできている。
 雷鎚・昇雷ブラスト・ライジングの影響によって、外の天候は悪化の一途をたどっている様だった――これでは帰りは苦労するだろう。胸中でつぶやいたとき、視界の端でグリーンウッドの身に着けていた衣装が金色の粒子を撒き散らしながら瞬時に分解された――次の瞬間グリーンウッドの体も分解されて、さらにその次の瞬間には乾いた衣装を身に着けた姿に再構成される。
「つくづく便利な能力だな」 あっという間に乾燥した快適そうな服装に戻ったグリーンウッドを見遣って、金髪の吸血鬼がそう口を開く。
 金髪の真祖ノスフェラトゥ――アルカードと名乗った金髪の吸血鬼の言葉に、師でもあり直系ではないものの祖先でもあるその男、セイルディア・グリーンウッドは肩越しに振り返り、
「まあな。お蔭で衣食には困らん」 それは確かにそうだ――セイルディア・グリーンウッドはいったん接触スキャンしてサンプリングを行えば、対象の物質構造を模倣して同一の構造の物をいくらでも量産することが出来る。遺伝子という完全な設計図を備えた自分の肉体のみならず、衣服や装備品、食糧に至るまでなんでもだ。
「俺の服と装備も、それで新しいのを複製してくれよ」 アルカードの要求に、グリーンウッドは首を振った。
「無理だ。俺の能力は、あらかじめ通常の状態をサンプリングしておかないと意味をなさない――今のおまえの服や甲冑を模倣することも可能だが、濡れた衣服をサンプリングしても濡れた衣服を量産することになるだけだ。意味が無い」
 ついでに言うと、物理構造は複製出来ても耐魔製法までは模倣出来ないから、服はともかく甲冑を複製しても役に立たないぞ――グリーンウッドの言葉に、アルカードは肩をすくめた。
「別にいい。言ってみただけだ」 彼はそう言ってセアラに視線を投げると、
「だが、そっちのちんちくりんはなんとかしてやったほうがいいんじゃないのか」
「ちんちくりん言わないでください」 セアラの抗議に、アルカードは肩をすくめて、
「俺はずぶ濡れになろうが氷漬けになろうが問題無いが、こいつは風邪をひく」 抗議を聞く気は無いらしい。一応気を遣ってくれている様だったので、セアラはそれ以上抗議をしなかった。
 まあグリーンウッドはグリーンウッドで、セアラの衣服を再構成する気は無いだろう――グリーンウッドはセアラの服をサンプリングしていないので、彼女の服を複製しようにもサンプルが無いのだ。
 着替えをサンプリングしてもらえばよかったのかもしれないが、男性相手に服から下着から一枚一枚直接触れさせるのはさすがに思春期の乙女には無理だった――まあ、グリーンウッドにしてみれば自分などお子様もいいところだろうが。
 グリーンウッドはそんなセアラの胸中など知らぬげに適当に肩をすくめ、軽く爪先で床を打ち鳴らした。
 次の瞬間、一気に周囲の大気が渦を巻く――なにをされたのかは知らないが強烈な温風に曝されて、ずぶ濡れになったセアラと吸血鬼は着衣も髪も完全に乾燥した状態に戻っていた。
 周囲の気温を上昇させて、さらに猛烈な気流を発生させることで熱風を浴びせ、衣装や髪の湿気を奪い去って乾燥させたのか――まだ駆け出しのセアラにはよくわからない。この男の使う魔術は、同門のセアラでも次元が違いすぎて理解出来ないことが多い――そもそもグリーンウッド家の精霊魔術の術式は複合合成術式といって、複数の同じ、もしくは異なる効果を持つ魔術を同時・連続起動させることが基本になっている。そうすることで、単一の術式では到底実現しえない高度な物理現象を実現するのだ。
 雷鎚・昇雷ブラスト・ライジングも皇龍砕塵雷の電源供給も、すべては複合合成術式があってはじめて可能になるものだ――二、三種類、場合によっては数十種類もの術式を同時起動するために、グリーンウッド家の精霊魔術はたとえファイアーウォールを突破出来ても、術式を解析するのも改竄するのも極めて難しい。それがグリーンウッド家の精霊魔術師が、世の精霊魔術師に対して絶対的な優位に立てる利点だった。
 だがその術式を見ることも出来ず、片鱗を読み取ることも出来ないアルカードは、理解する努力をとうに放棄しているらしい――もともと魔術師でない彼にはグリーンウッドがいったいいくつの魔術を同時に起動させたのか、その離れ業も理解出来てはいないだろうが。とりあえず服が乾いたことがうれしいのか、少し機嫌が良くなっている様にも見えた。
「で――」 アルカードがグリーンウッドに視線を投げる。
「結局、おまえたちはここになにをしにきたんだ? あの肉団子を始末して資料を奪うか始末するのが目的なら、もう目的は達成したんじゃないのか」
 肉団子というのはグリーンウッドの一族の本拠、ファイヤースパウンから生物学を専門とするレッドフィールド家秘蔵の資料を持ち出して行方をくらました叛逆魔術師、ウォード・グリーンウッドのことだろう。こんな孤島では食糧調達もままなるまいに、まるで風船のごとく肥大した肥満体は確かに肉団子と言われても仕方無いのかもしれない。おそらく雷鎚・昇雷ブラスト・ライジングでこの建物の上部構造物と一緒に吹き飛ばされて、死体も残ってはいないだろうが。
「セアラ、面倒だからおまえが説明してやれ」
 面倒言うな、というアルカードの突っ込みに肩をすくめて、グリーンウッドは口を開いた。
「実際のところは、おまえが言うところの肉団子――おまえも上で見かけたあの魔術師を斃すという目的はもう達成した。ただ、そこのセアラが少々厄介なものを見つけてな。この階層にいるぶんには危険は無さそうだったから、そちらを探索させていたんだ」
「おまえの魔術が一番危険だろうに――で、厄介なものってのは? 俺たちも警戒が必要なのか?」 質問のひとつめはセアラに、ふたつめはグリーンウッドに向けられたものだった。
「この遺跡です」 セアラの言葉にアルカードは再び周囲を見回し、
「遺跡? ここは遺跡なのか」
「否、ここは違う」 グリーンウッドがそう返事をする。
「この建物は地下に埋もれた――というか地下に造られたんだろうがな、地中に存在する遺跡の上にかぶせる様にして建てられている。今俺たちがいるこの階が、この建物の地上一階部分――つまりこの島の海抜とほぼ同じ高さだ」
 彼はそう言って爪先で床を打ち鳴らし、
「正確に言うと、地上に建てられた四角錘状の建物は俺が殺した魔術師の造った工房だ――だから出入り口の昇降機にグリーンウッド家、というかファイヤースパウンの魔術式で割り込みクラッキング出来た。だが、ここから下は違う――少しばかり珍しい、魔術を用いた古代文明の遺跡だよ」
「古代文明、ねえ」 胡乱そうな表情で、アルカードがそんな言葉を漏らす。
「それがどう厄介なんだ?」
「一言で言うとな、悪魔召喚の儀式場だ」 あっさりそう答えて、グリーンウッドは肩をすくめた。
「おまえはあの肉団子がドラキュラ公爵に手を貸しているから潰しに来たんだろう、吸血鬼よ――奴がここで生産しようとしていたのは、魔具と魔兵だよ。悪魔を召喚してその能力を抽出し、精製して作った疑似的な霊体武装、そしてそれを使用させるためのゴーレムの一種だ」
 もっともその大半が、実用段階には達していなかった様だがな――グリーンウッドがそう付け加える。
 アルカードが意味を理解出来ていないと察したのだろう、グリーンウッドは続けた。
上階層うえに吸血鬼を入れた調製槽があっただろう?」
「ああ、あの噛まれ者ダンパイアだろ。あれをなにかいじってキメラでも作ろうとしてたんじゃないのか」 アルカードの言葉に、グリーンウッドは小さくうなずいた。
「そうだ。だが、作ろうとしていたのはキメラじゃない。発生済みの個体をベースにしてキメラを作る方法は――今のところ――確立されていない」
「……つまり?」
「大人はもちろん生まれたての赤ん坊でも、それをベースにしてキメラを作るわけではないということだ。必要なのはあくまでも遺伝子サンプル――否、今この場でわかりやすく説明するのは難しいからとりあえず割愛しよう」 グリーンウッドは溶けかけた雪だるまみたいな顔をしているアルカードに片手を挙げて、
「話を戻すが上の階で調製槽に漬け込まれていた噛まれ者ダンパイア、あれは魔兵の実験体らしい――ここにあった資料によると、な。最初の吸血を済ませて魔素を安定させた噛まれた吸血鬼ダンパイアに、そのうえで召喚した悪魔を憑依させることで能力の底上げを図る。ゴーレムでやる低級霊の憑依を、生きた吸血鬼でやる様なものだ――その過程で吸血鬼の自我は消失し、命令実行能力を残したまま廃人になる。思考能力は残ったままになるが、自我が無いから命令を実行するための手段以外はなにも考えない。命令者に対する叛乱を考えることも無い――あの調製槽はキメラの調製槽じゃない、悪魔の憑依を無理無く行うための体質改善装置だ」
「グリゴラシュの奴も、ずいぶんとまあいろいろ考えるもんだ」 アルカードがそんなぼやきをこぼす。
「グリゴラシュ――もうひとりのドラキュラの『剣』か。直接知っているのか?」
「ああ――正確に言うとドラキュラの『剣』はグリゴラシュだけだがな。俺はドラキュラに血を吸われたが、『剣』として蘇生しなかったから」 アルカードはグリーンウッドの質問にそう答えてから、
「グリゴラシュは俺の養父の実子だ。義理の兄ということになるな」 そう付け加え、彼は話を元の路線に戻そうと試みた様だった。
「それで――それとこの遺跡に、なんのかかわりが?」
「ここは悪魔召喚の儀式場だ――さっきも言ったとおりな。遺跡内にある儀式場は『門』に非常に近く、月齢に関係無く簡単に悪魔や高位神霊を召喚することが出来る。要するに、あの魔術師はここで悪魔を召喚しては捕らえて、実験材料にしていたんだ」
「それがどうした? あの肉団子はもう死んだ――術者がいなければ召喚も出来ないし、使い棄てられた悪魔が可哀想だなんて博愛精神の持ち合わせでもあるのか?」
「まさか」 即答して、グリーンウッドは続けた。
「問題は儀式を繰り返し行うことで、『門』が撓んできたということだ――資料の中にあった経過観察によればな」 グリーンウッドはそう言って足を止め、アルカードに向き直り、
「術者がいなければ召喚は出来ない、おまえはそう言ったな。その認識は正しくない――通常の状態ならおまえの言うとおりだが、奴がここにやってきてから十数年、奴はこの場所で実験を行っていた。悪魔召喚を同一の場所で立て続けに繰り返したせいで堕性の魔力の濃度が上がり、自然降臨が起こりやすくなってきているんだ」
 『門』とは『点』の周辺に高密度に凝集した精霊と魔素によって形成される、高位神霊や悪魔といった霊的生物の棲む異界との扉を指す。
 地脈の『点』から噴き出したこの天体の生命力そのもの、無属性の魔力が大気に溶け込んで散逸したものを精霊マナあるいは大気魔力ミスト・ルーンと呼ぶ――大気魔力そのものはいかなる属性も帯びてはいないのだが、周囲の環境によって属性が変わることがある。
 たとえば周辺に寺院などの天使のや神といった善性の高位の霊体と接続するための施設がある場合、その周囲に散逸した魔力は聖性を帯びて、その周囲の地域は天界――俗に楽園イェルサレムだの天国だのと言われている世界に近づく。
 もしその寺院が悪魔や邪神を崇め奉る施設だったり、あるいはその周辺が虐殺の現場だったりして強い怨念や復讐心をいだいた霊魂が大量に残っていたりした場合は、その周辺に蓄積した精霊は堕性を帯び、悪魔や鬼神、魔神といった悪性の霊体が住む異界――地獄に近くなる。
 こういった霊場の属性が中庸でなくなってしまった環境では蓄積した大量の精霊が聖性や堕性の影響を受け、それぞれに近い・・『層』との開口部が開くことがある。この開口部――主に人為的に開いたものを『門』と呼ぶのだが、極端に聖性、あるいは堕性が強くなると、それが自然に開くことがあるのだ。ここの降臨場は存在規模の小さな悪魔ばかりとはいえ頻繁かつ大量の悪魔が召喚されており、そのせいで周囲の精霊の惰性が極端に強くなっている――そのためだろう、小規模のものではあるが、月の満ち欠けに合わせて『門』が自然に開いたり閉じたりしているのだ。扉を開けて家の中に入れば多少なりとも外気が家の中に入り込む様に、『門』が開くたびに少しずつ地獄の瘴気が流れ出して周囲の精霊が汚染されているのだ。
 ウォード・グリーンウッドの経過観察によると『門』の開く感覚はだんだん短くなり、『門』が開いている時間は徐々に長くなってきている――おそらく向こう側・・・・からも、頻繁に開く通り道として認識されているだろう。

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