徒然なるままに修羅の旅路

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悲……大阪ナイフショーは完全中止になりました。滅べ疫病神

Ogre Battle 14

2014年10月22日 00時07分34秒 | Nosferatu Blood
 
   *
 
 きぃんっ――苛烈な金属音がボロボロになった書斎に響き渡る。両者の魔力が干渉しあって周囲の精霊――大気魔力の流れが活性化し、周囲に衝撃波が吹き荒れた。
 いったん間合いを離し、互いに距離を測る。
「久しぶりだな、こうやって首を狩り合うのは何年ぶりだ?」
「二年前の頭の損傷が治ってないのか? それともボケたか――二年前にやりあったばかりじゃねえか。あれだけ痛めつけて、まだ生きてるってのにもびっくりだがな」 グリゴラシュの軽口にそう返答を返して、わずかに視線を強める。
「ふん」 鼻を鳴らして軽く爪先で床を鳴らす――足元に形成され始めていた方陣が、それだけで完全に分解されて消滅した。
術式破壊クラッキングが巧くなったものだな――魔術構成は編めないくせに」
 ふん、とアルカードは再び鼻を鳴らした。
 アルカードは魔術構成を編む能力を、常にドラキュラの精神支配を抑え込むために振り向けている。
 この能力が特に重要になるのが主に精霊とか大気魔力と呼ばれるものを利用して行う精霊魔術で、このためにアルカードは精霊魔術を操る能力を持たない――彼の魔術の無能は、正確に言うと魔術構成を編む能力が常にフル稼働していて余力が無いのが原因なのだ。
 だから彼が編める魔術は塵灰滅の剣Asher Dustを触媒にした世界斬World Endの様な単純なものや、攻撃の対象となる構成術式に正確に楔を打ち込むだけの技量があれば魔力そのものはほとんど必要としない術式破壊クラッキング技術、必要とする技能そのものが異なる儀典魔術――下位古代語魔術に限定されている。技術と知識だけならば、ファイヤースパウンのグリーンウッド家に師事したアルカードの能力はグリゴラシュを軽く凌ぐほどのものなのだが。
「まあいずれにせよ、おまえを相手に魔術戦は無意味、か――」 ひゅ、と軽い風斬り音を立てて、グリゴラシュが手にした長剣を一振りする。
 かすかに唇をゆがめて、アルカードは床を蹴った――真直に振り下ろした一撃を、剣の横腹を撃ってグリゴラシュが払いのける。そのままこちらに突き込んできた鋒を頭を傾けてやり過ごし、アルカードは手首を返して払いのけられたままの塵灰滅の剣Asher Dustを斜めに斬り上げた。
 グリゴラシュが側方に踏み出してその攻撃を躱しながら、同時に右手首を返して突き込んだ長剣の刃を水平に寝かせ、横薙ぎに払って首を刈りにくる――上体を倒し込んでその一撃を躱し、アルカードはいったん後方に飛び退ってから再び踏み出した。
 縦に撃ち下ろしたその一撃を躱してこちらの側方に廻り込みながら、グリゴラシュがこちらの背中を薙ぎにくる――気配だけでそれを察して、アルカードは跳躍した。背面跳びの様にしてグリゴラシュの剣の刃を飛び越え、そのまま着地するより早くグリゴラシュの眼前に左手で抜き放った自動拳銃の銃口を突きつける――眼前で火を噴いた自動拳銃の銃弾をやすやすと回避して、グリゴラシュがいったん後退して距離をとった。
 その間に床に着地して自動拳銃を懐にしまい込み、グリゴラシュに向き直る。
「なるほどな、自分の技量を試しただけか」 グリゴラシュが苦笑して、そんなことをつぶやく――銃撃を躱しながら展開した『式』をことごとく破壊されたことに関してだろう。
 今の一瞬の間にグリゴラシュが構築しようとした魔術の『式』は、百枚前後のファイアーウォールを組み込んだ大規模なものが十六、三十枚ほどのファイアーウォールを組み込んだ小規模なものが七十三。
 術式破壊クラッキングによって完全に分解出来たものが大規模魔術すべてを含む八十七、術式の完全な破壊は不可能だったが根幹部分を破壊して起動不能に追い込めたのは二――完全に分解出来なかったのは業腹ではあるが、起動を封じることが出来たのだからなんの問題も無い。
 使うことが出来る出来ないという意味では魔術の技量においては天と地ほどの差があるが、敵のファイアーウォールを破って術式に組み入ることで『式』を無効化したり、あるいは改竄して暴発させたりといった術式破壊クラッキングに限って言えば、アルカードはこの地上のあらゆる魔術師が足元に及ばないほどに長けている――彼と同等の技量を持つのはファイヤースパウンの長セイルディア・グリーンウッドくらいのものだ。
 魔術を使いこなせないのならば、術式破壊クラッキングに特化すればいい――いかなる術式でも、発動前に『式』を分解してしまえば意味を為さない。術式破壊クラッキングの技量においては、この地上にアルカードを上回る術者はいない――アルカードの魔術の師であるグリーンウッドでさえ、こと術式の術式破壊クラッキング技能に関して言えばアルカードに及ばない。
 魔術を暴発させるのではなく術式の分解を試みたのは、純粋な自分の技量を確認するためだった――『式』に組み入って一部を改竄するだけでいい暴発と違い、術式破壊クラッキングをかけて解体するのは術式のプロテクトをひとつひとつ解いていく必要があるために膨大な手間がかかる。三十枚以上のファイアーウォールを組み込まれた魔術式を、八十以上も一度に捌くのは至難の業だ。
 だが術式破壊技能者クラッカーとしてのアルカードは、そこらの魔術師ならば小規模魔術ひとつを破壊することも出来ないであろう高度な技術で編まれた術式群を捌き切った。
 すなわち、彼らの間で魔術戦は無意味だ――となると純粋な剣の技量の勝負になる。そして剣術の技量ならば、アルカードにも十分に勝算はある――防御技能が高いぶん、アルカードのほうが有利だともいえる。
「ああ、『実地試験』は終わった。もう手加減する理由も無い。というわけで――」 塵灰滅の剣Asher Dustの峰で軽く肩を叩き、アルカードは目を細めた。
「おまえは殺すぞ」
「死ぬのはおまえだ」 そう答えて――グリゴラシュが床を蹴った。
 
   *
 
「皆様、これをご覧ください」
 すっかり瓦礫の山と化したビルを背景に、リポーターが興奮を隠せない口調でしゃべっている。
 あのときシンがばらばらに引き裂いたビルだ――上下に分断されたビルの下半分は上部の構造物の落下によって完全に押し潰され、上部の構造物も下側の構造物を押し潰す過程で細かな破壊の過程で自重による細かな崩壊を繰り返して、完全に瓦礫の山になっている。
「いったいどの様な目的で犯人がこの様なテロ行為を行ったのかは不明です。警察が目下生存者の捜索中ですが、当直勤務の警備員は市外にいたことが確認されており――」
「これはひどいですね――いったいどこの誰が、こんな真似を」 形のいい眉をひそめて苦々しげにコメントを口にするフィオレンティーナに、
「うんそうだねひどいねうんいったい誰がこんなことをしたんだろう」 棒読み口調で早口にそう返事をしながら水飲み鳥みたいにうなずいて、アルカードはフィオレンティーナの前にカップを置いた。
「よっぽどこのビルの持ち主が憎かったんでしょうね――ここまで徹底的に破壊するなんて」
「あー……どうなんだろうな? 案外違うかもよ」 義憤に駆られたらしいパオラの言葉にそう答え、冷たい半眼を向けるエルウッドのほうを見ない様にしながら、アルカードはお茶菓子がなにか無いかと思って戸棚を開けた――見つかったのが賞味期限の切れた生八つ橋しか無かったので、あきらめて溜め息をつく。三ヶ月前の物ではさすがに食べられないだろう。
 肩越しにゴミ箱に向かって放り投げ――ばさりと言う音がしたから、正確にゴミ箱に落ちたのだろう――、アルカードは立ち上がった。京都に行ったときに土産物屋で買ってきたものだから、誰かに対して義理を欠くわけでもない。あえて言うならメーカーの人ごめん。
「悪い、お茶受けをなにか用意しようと思ったが、今なにも無いんだ」
「いえ、お気遣いだけで十分です」 そう答えてきたのはリディアだった。彼女は猫舌気味なのか、コーヒーにふうふうと息を吹きかけながら、
「それよりもアルカード、本当はこの相談をしようと思ってお邪魔したんですけど――」
「どうした?」 そう答えたところで池上が妻の実家から送ってきたものを分けてくれた白い恋人があったのを思い出し、それを戸棚から取り出す。
 個包装された焼き菓子を珍しそうに矯めつ眇めつしているフィオレンティーナに苦笑してから、アルカードは椅子に腰かけるのに難儀しているアルマの体を抱き上げて椅子に座らせた。
「さっき姉と話をしてたんですけれど、わたしたちも貴方の教授を受けるわけにはいきませんか? 戦闘技術について、という意味ですけれど」
 その言葉に、エルウッドがあう、と小さくうめく。
「俺の戦闘技術か」 長椅子のところに戻って三本目のコーヒーに口をつけ――褐色の液体を嚥下したところで、
「俺は別にかまわない。増援の能力が向上すれば、それだけドラキュラを斃せる公算は大きくなるからな」
「ほどほどに加減はしてやれよ」 エルウッドの言葉に、アルカードはさも当然という様にエルウッドに視線を向けた。
「なにを言ってる。当然おまえも参加するんだろう?」
「……え?」
「いくら病み上がりとは言え、あの程度の運動強度でヘバる様じゃな――ヴァチカンで鍛えていたころを思い出して、少し気合を入れて鍛え直してやろう」
 露骨に嫌そうな顔をするエルウッドに、かすかに唇をゆがめて続ける。
「ちなみに拒否権は無い――もし拒否した場合は『爽快コース』だ」
「なんですか、それ?」
 あからさまに胡乱そうな表情で問いかけてくるフィオレンティーナの言葉に、アルカードは適当に肩をすくめた。
「俺の弟子が問題を起こしたときの、懲罰だ。爽快コース、錯乱コース、擾乱コースの三種類があって、爽快コースは樽いっぱいの――」
「いえ聞きたくありません」
 耳をふさぐフィオレンティーナに歩み寄り、アルカードは手でふさがれた耳元に囁いた。
「ヒントその一……ゲジゲジ」
「聞きたくないって言ってるでしょう!」
 大声をあげてフィオレンティーナが振り回した右手から逃れ、アルカードはくつくつと笑った。なお続けようとしてから、肩をすくめてやめにする。
「まあ真面目な話、ここ数年本気を出して戦える相手というのがあまりいなくてな。俺自身もちょっと鈍ってるし、鍛え直すのも悪くない」
 ここ数年来でもっとも手強かった相手――シンの貌を思い出しながら、アルカードは目を細めた。十分に手強い敵ではあるが、だからと言ってあの程度の悪条件下であそこまで手古摺るほどの相手ではなかったはずだ。それはすなわち、彼自身の弱体化を示唆している。
「勘弁してくれよ。またあの地獄を味わう羽目になるのか……」 死にそうな顔をしてうなだれているエルウッドの肩を、アイリスがポンポンと叩いている。アルカードは適当に肩をすくめ、空になったコーヒー缶をキッチンに持っていって水道水で中をすすいだ。

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