徒然なるままに修羅の旅路

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The Otherside of the Borderline 13

2014年10月13日 21時16分58秒 | Nosferatu Blood
「誰が用意したんだかな、こんなもん。注文した奴の顔が見たいぜ」 ウレタン製の型に嵌め込まれた銃身を取り出しながら、そんなぼやきをこぼす――猿渡がその言葉に適当に肩をすくめ、
「それは無理な注文だな」
 しゃべりながらもてきぱきと、同梱されていたレンチを使って銃身をレシーヴァーに組みつける。といっても、銃身そのものをレシーヴァーに捩じ込むだけの単純な造りだ――ライフリングはレシーヴァー側から見て六条右回り、銃弾発射の反力で銃身を増し締めする構造になっている。銃身後部に切られたねじをレシーヴァーに捩じ込み、十分なトルクで銃身を回転させるためのレンチを銃身に穿たれた貫通穴から抜き取って、アルカードはそのあまりにもバランスの悪い銃を翳して苦笑した。
 なるほど、猿渡の言う通りだ。銃身が長すぎて重心位置が前方に偏りすぎている。こんなバランスの悪い代物、普通の人間では据銃も出来まい。重量二十キロを超えそうなリボルバーを片手で据銃して、アルカードは箱の中から弾薬を取り出した。
 シリンダーを振り出し、六発の弾薬を装填する――弾薬を装填するための穴同士の間隔がかなり広い。強度を優先して大型化の一途をたどったのだろう。
「ここで発砲したら、街に銃声が届くか?」
 その言葉にアルカードがここで試し撃ちをするつもりだと悟ったのか、桜がかぶりを振る。
「いいえ、その心配はありません」
 その言葉にうなずくと、アルカードは窓を開けた。バランスの悪いウォークライを片手で据銃し、塀の向こうに黒々と広がる森に銃口を向ける。かすかに唇をゆがめて、アルカードは重いトリガーを引いた。
 凄まじい轟音とともに、シリンダーと銃身後端部の隙間から炎が噴き出す――九ミリ口径とは比べ物にならない強烈な反動が、轟音とともに腕を襲った。だが気にせずに片手で据銃したまま、さらに発砲。
 普通の人間では到底視認出来ないだろうが、アルカードの目にはそれぞれの銃弾が森に見える木の枝の、照準した個所から若干ずれた場所に命中しているのがはっきりと見て取れた。
 一発目は照準より若干左にずれて着弾し、二発目と三発目はその周囲に集弾している――最初の一発で照準と着弾のずれを見極め、二発目と三発目は着弾のばらつきを見極めるために一発目とほぼ同じ位置に着弾する様に修正して発砲したのだ。
 一発目は照準と着弾のずれを確認するためだが、二発目と三発目は主に銃身の工作精度を確認するためのものだった――銃身が正確にまっすぐになっていなければ、照準が正確であっても弾道は曲がり集弾グルーピングにはばらつきが生じる。
 工作精度はなかなか悪くない――過剰なフロントへビーが原因のバランスの悪さが逆に幸いして、反動リコイルはマイルドだ。
 零点規正ゼローイングは必要無さそうだ――とりあえず点検射だけで銃の癖は掴めた。
「使えそうだな、ありがたく戴いて――」 言いながら振り返って、アルカードは視線の先で桜が耳を押さえてぐったりしているのを目にして眉をひそめた。
「どうした?」 さらに視線を転じると、猿渡が床に倒れて卒倒している――さすがに気になって、アルカードは桜のそばに歩み寄った。
「大丈夫か?」
「大丈夫です、ごめんなさい。わたしや猿渡は吸血鬼とライカンスロープとの混血なので、ちょっと耳が――」
「ああ」 そういえば、彼らはそうだった。病気による吸血鬼――この際便宜上ナハツェーラーと呼ぶことにするが、ナハツェーラーもライカンスロープも、人の姿のままでも人間よりはるかに聴覚や嗅覚が優れている。
 その一方でロイヤルクラシックであるアルカードの様に自分の視力や聴力を自分の意思で調整したり、嗅覚の感度を落としたり、その中から特定の音や周波数を拾い出したりということは出来ないので、逆に強烈な異臭や大きすぎる音が苦手なのだろう。
「そうか。すまなかった」
「いえ。それよりも、そろそろ時間が――」
「そうだな」 うなずいて、アルカードはリボルバーを手早く分解してトランクケースにしまい込んだ。
「なら、俺は行く。こいつはありがたくもらっていくよ」
 そう告げて、アルカードは立ち上がった。
 立ち去りかけたアルカードを見送るためだろう、桜が立ち上がる。それを手で制して、アルカードはかぶりを振った。
「結構だ。夜中に突然押し掛けたのはこっちだしな」
「なら、私が案内しよう」 銃声に驚いたからだろう、駆けつけてきた男たちを適当に手で制して、まだ耳鳴りがしているのか顔を顰めながら猿渡がそう名乗りを上げる。
「わかりました、吸血鬼アルカード。どうかご武運を――将也のことをよろしくお願いします」
 深々とお辞儀をする女性の視線を背中に、アルカードは部屋を出た。猿渡が応接間の扉を閉めて、小走りに彼の近くまで追いついてきた。
「彼女も月之瀬も、どちらも気の毒だな」 廊下を歩きながら零したそのひと言に、猿渡がこちらに視線を向けるのがわかった。
「そう思う。桜様と将也は幼いころから仲が良かった――本当の兄弟の様だった」
 アルカードが視線を向けると、猿渡はかすかに笑った。
「さっきはああ言ったが――月之瀬の件にだけ関して言えば被害者にすぎない将也を殺さざるを得ないことに、私がまったく心を痛めていないとでも思ったのかね? 吸血鬼アルカード」
 その言葉にかぶりを振って、アルカードは小さく息をついた。
「さっきの非礼は詫びておこう。だがこの屋敷も狙われる可能性がある以上、私は桜様を守らねばならん」
「彼女の父親が不在にしているからか?」
「それだけでもないがね」
 言いながら、猿渡が廊下の突き当たりを曲がる――彼に続いて玄関ホールに通じる階段を下りていくと、和也という名の青年がこちらに気づいて近づいてきた。
「話は終わったのか、オヤジ?」
「ああ、終わった。吸血鬼アルカードがこれから将也を討ちに行く」
 その言葉に、和也が口ごもった。
「……そうか」
「おまえはさっき桜嬢から見せてもらった写真で、月之瀬と一緒に写っていたな」
 アルカードの言葉に、和也がこちらに視線を向ける。
「……ああ。親父のほうはいけ好かないが、将也はいい奴だったよ」
「月之瀬将也は俺が殺る。これ以上被害が拡大する前にな」
「わかってる――あいつはただの被害者だが、今じゃあいつ自身が加害者になっちまってるからな」 和也はそう言って、アルカードの目を正面から見据えた。
「将也のこと、よろしく頼むわ。せめてあいつがこれ以上手を汚す前に、終わらせてやってくれ」
「首尾よく間に合ったなら、その約条は全力で果たそう。猿渡和也」 そう言って、アルカードは和也が開けた玄関をくぐって外に出た。
 玄関の前に、彼が門の外に止めておいたモンスターが置いてある――ハンドルロックはかかっていたはずなのだが、何人かがかりで運び込んだのだろう。
 まさか彼らが台車でも使って運び込んだのだろうか。とりあえず破損したりはしていない様なので、アルカードは想像を打ち切った。
 左腕から取り出したキーでエンジンを始動させ、エンジンオイルが循環するのを待つ間にツーリング用のゴム紐でトランクケースを車体側面に固定する。携行性を優先して樹脂で出来たケースを固定し、ヘルメットをかぶったところで、アルカードは屋敷の一角、先ほど桜と会見を行った部屋のあたりに視線を投げた。
 窓硝子に左手を当てて、桜がこちらを見下ろしている。彼女はこちらと視線が合うと、目を伏せて会釈した。
「健治が門のところにいる。あれが正門を開けているはずだ」
 猿渡の言葉にうなずいて、アルカードはモンスターにまたがった。
 
   †
 
 通り過ぎた洋楽専門のレコード店のスピーカーから、ハードロックの洋楽が流れている。ずいぶん遅くまで営業しているものだと思ったとき、出てきた店員が店の前に置いてあった百円見切り品のCDのラックを店内に取り込み始めた。
 店員がシャッターを引き下ろそうとしている横を通り過ぎ、陽響は前方に視線を戻した。歩道の向かい側から歩いてきた会社員――携帯電話をいじりながら歩いているので、危なっかしいことこの上無い――を避けて道を開ける。
 腕時計に視線を落とすと、時刻は二十三時半を回ったところだった。
 コートの内ポケットで携帯電話が鳴った――正確には携帯電話と特殊な暗号化機能つき無線機を組み合わせたものだ。この振動パターンと音楽は、暗号化通信の着信であることを示している。
 陽響はポケットから例の黒い無線機を引っ張り出して通話ボタンを押した。
「俺だ」
「陛下――」 スピーカーから聞こえてきたのは、まだ若々しい男の声だった。
 その呼び方は、彼の配下の人外たちが好んで使う呼称だ。恥ずかしい上に人聞きが悪く、あまつさえ周りに聞かれたら奇異の目で見られるという欠点があるため、やめろと言っているのだが、聞いてくれない。
「シン――その呼び方はやめろ、まだ人目が無くなったわけじゃない。どうした?」
「は、申し訳ありません。全部署の展開が完了しました。それと、ご注文の装備が届きましたのでお引き渡ししたいと」
 その言葉に、陽響は足を止めた。視界の中でわずかに上下に揺れていたローソンの看板の動きがぴたりと止まり、内部の電球が切れかけた看板のちらつきが目に障り始める。
 ヤンキー仕様に改造された黒塗りのクラウンが開けっ放しの窓から難聴になりそうな大音量のハードロックと耳障りな男女の歓声を垂れ流しながら車道を通り過ぎていく。明らかに光軸の狂った高輝度放電式ディスチャージヘッドライトの閃光が視界を焼いて、彼は顔を顰めた。
「へい――陽響様は今どちらに?」
 様もやめろと言いたいが、そこは今はどうでもいい――陽響はあたりを見回してから、
「デルタ・フォアとエコー・フォアの中間だ」
「わかりました。これより車輌を一台、迎えに回します。それと、統括宰しょ――否、環様もこちらにおいでです。報告事項があるとのことで、直接お伝えしたいと」
「わかった。じゃあここで回収ピックアップを待ってる。俺は西行きの車線の歩道にいる」
「運転手に伝えます。それでは」 その言葉を最後に通話が途切れる。陽響は携帯電話を懐にしまい込むと、手近なサントリーの自動販売機に歩み寄った。
 自販機のスプライトの広告に蚊がびっしりと張りついている。小銭を貨幣投入口から入れて、彼は烏龍茶のペットボトルのボタンを押した。
 がたんと音を立てて、取り出し口に飲み物が落ちてくる――陽響はペットボトルを取り出すと、キャップを開けて飲み物に口をつけた。かすかな苦みを感じる冷えた液体が喉を流れ落ちていく。
 小さく息をついて、陽響は車道に視線を向けた――近所の歓楽街で仕事を終えたのだろう、派手な化粧の女性が数人、何年か前の型の軽自動車に乗って視界を横断していった。助手席に座っていた女性がこちらを指差していたが、頓着せずにその車を視界から締め出して右側に視線を向ける。
 彼はシンに自分が西行きの車線の歩道にいると伝えた――つまり南側だ。日本は左側通行だから、右側から来るはずだ。
 ほどなくライトバンが一台走ってきた。なんということもない銀色のトヨタ――ナンバーで見分けがつく、騎士団のものだ。あからさまに怪しい黒塗りのライトバンを使う趣味は無い。
 空になったペットボトルをゴミ箱に放り込もうとして、彼は自販機の横にごみ入れが無いのに気づいた。
 仕方無く、彼はローソンに向かって歩き出した――まだそこそこ距離があるが、向こうもこちらに気づいてハザードを焚きながら減速を始めている。このままならローソンの前あたりでかち合うことになるだろう。
 ローソンの店の前のごみ箱にペットボトルを放り込んだところで車道の路側帯に寄ってライトバンが完全に停車したところでスライドドアが内側から開き、セカンドシートに座っていた見覚えのある若い男が顔を出す。
「へい――否、ひび」
「様は無しだぞ、ケンゴ」
 機先を制したその言葉に、ケンゴと呼ばれた青年が言葉に詰まる――胸中でだけにやりとしながら、彼はガードレールを乗り越えてライトバンのサードシートに体を滑り込ませた。
 運転手がくつくつと笑っている――それを睨んでから、気を取り直してケンゴがドアを閉めた。
 ケンゴもスクエア・チームのひとりだが、シンが彼の迎えに分隊を割いたらしい。まあ、まだ作戦は開始していないから問題は無い。
 運転手がいったん引いたサイドブレーキを緩め、ライトバンを発進させた――消燈していた高輝度放電式ヘッドライトの閃光が、前方を照らし出す。
 シートの背凭れに凭れかかり、彼は目的地に着くまでの短い時間を休息に使うために目を閉じた。

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