徒然なるままに修羅の旅路

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In the Flames of the Purgatory 50

2014年11月23日 01時06分10秒 | Nosferatu Blood LDK
 
   *
 
 耳元でひゅっという鋭い風斬り音が鳴る――右脇から左肩にかけて角度の浅い逆袈裟の軌道で剣を振るうと、塵灰滅の剣Asher Dustの鋒が石造りの床を削り取ってがりがりと音を立てた。
 その攻撃を、グリーンウッドが一歩後退して躱す――グリーンウッドに横から接近していた自動人形オートマタが空振りした斬撃の軌道に巻き込まれて頭部を半ばから切断され、そのまま崩れ落ちた。
 次の瞬間突き出されてきた短剣を、アルカードは翳した左手の下膊を鎧う装甲の出縁フランジを手首の内側に叩きつける様にして押しのけた。
「ぐ――」
 グリーンウッドは特に装甲を身につけていない――薄い出縁フランジが無防備の手首の裏側に喰い込み、彼は小さなうめきを漏らした。うめきながらも、手にした短剣をそのまま逆の軌道で振り抜く――彼の手にした短剣は刺突を容易にするために背中側にも刃がつけられており、さほど鋭くはないものの振りが速ければ十分な脅威になる。
 その振り抜きを体を沈めて躱し、アルカードは続いて進捗に近い角度の袈裟掛けの軌道で撃ち込まれてきた一撃を一歩後退して躱した。
 そのまま右手首を左の手刀で撃ち据える様にして、短剣を右手ごと叩き落とす――グリーンウッドの手にした短剣は皇龍砕塵雷とは違い、ただ魔力強化エンチャントの効力による耐久性の向上を恃んで恐ろしく鋭く砥ぎ上げられているだけの普通の刃物だ。むしろこちらのほうが、アルカードとしては凌ぎやすい。
 さて・・――
 ぎ、と塵灰滅の剣Asher Dustの柄を握り直す。アルカードは少しだけ唇をゆがめ、半歩退いて間合いを作り直した。そのまま手首を返して片手で保持した塵灰滅の剣Asher Dustを、今度は首を刈る軌道で振り抜く。
 そろそろ終わりに・・・・・・・・――
 塵灰滅の剣Asher Dustの物撃ちが、グリーンウッドの首に肉薄する――短剣をはたき落とされた直後だったために、グリーンウッドは後方に跳躍して躱すのも体を沈めて躱すのも間に合わない。
 が――
 グリーンウッドがこちらに向かって足を踏み出す。軌道の高い水平の一撃を体勢を沈めて躱したグリーンウッドが肩口から飛び込む様な体当たりを仕掛けてきた。
 なっ――
 その体当たりで体勢が致命的に崩れる前に、アルカードは後方に跳躍した――もはや首刈りの一撃には意味は無い。どころか先ほど手首ごと叩き落とした格闘戦用の大ぶりの短剣を左手に持ち替え、逆手に握り直した短剣を鈎を引っ掛ける様な動きで突き出してきている。
 肩で押されて体勢が崩れたために、斬撃の軌道は上向きにそれてグリーンウッドの髪を数本切断しただけに終わり、鋒を引っ掛ける様な軌道で繰り出してきたグリーンウッドの一撃が羽織った外套を浅く切り裂いていく。
「――出来ないか」 そうつぶやいて――振り抜いた塵灰滅の剣Asher Dustを、短剣を振り抜いた姿勢から体勢を立て直そうとしているグリーンウッドの肩を割る様にして叩きつける。まるで膝に撥條でも仕込まれているかの様な怪物じみた瞬発力を見せ、グリーンウッドはその一撃を後方に跳躍して躱した――同時に、離れながらこちらに向かって左手を突き出す。
 魔術を行使する際の精霊の動揺は感じ取れない――もっとも、グリーンウッドは先ほどまで精霊を使わずに魔術を行使していたから、周囲の大気魔力の密度変動などあてに出来たものではない。
 だが――グリーンウッドの攻撃は予想外のものだった。こちらに向けてまっすぐに伸ばしたグリーンウッドの左手の袖がズタズタに裂け、同時にその体からグリーンウッドのものとは明らかに異なるすさまじい魔力が膨張する。
 次の瞬間まるで水死体のそれの様にぶくぶくに膨れ上がった腕がごわごわした黒い獣毛に覆われて掌から鋸を思わせる牙列が生えそろい、そろえた四指が上顎に、親指が下顎にそれぞれ変化した。
 グリーンウッドの左手が、獣の咆哮をあげる――グリーンウッドの左腕は瞬く間に獅子ほどの大きさの巨大な犬に変化し、彼の腕から抜け出す様にして分離しながらこちらに襲いかかってきた。
 おそらくは、グリーンウッドが取り込んだ魔獣の一体だ――どの様な由来を持つ魔獣かは知らないが。
 ちっ――舌打ちを漏らして、アルカードは後方に跳躍した。間合いが近すぎる。
 アルカードの後退のほうが、犬の肉薄よりも速い――数歩ぶん後退して間合いを作ると、アルカードは正面から突っ込んできた犬の頭部に左廻し蹴りを叩き込んだ。
 横殴りに吹き飛ばされた犬の巨体が、近づいて来ていた自動人形オートマタ数体を巻き込みながら石造りの壁に激突する――グリーンウッドが魔力を集め始めた際に放った衝撃波の影響でこのフロアの間仕切りとしての壁は軒並み崩落しているので、残る壁は外に面した壁のみになっている――外から見た限りピラミッド状の構造物はかなり大きな石を積み上げて造られているので、かなり分厚い様に思えるが。
 だが激突した位置が壁に近かったことと、グリーンウッドが魔力を解放する際に放った衝撃波で石材に細かな亀裂が走り、また石材同士の締まり・・・が緩んでいたこともあるだろう、犬の巨体が激突した箇所から壁が崩落し、犬の姿は細かく砕けた瓦礫に埋もれて見えなくなった。
 グリーンウッドに注意を戻すより早く、周囲の精霊マナの密度が急激に変動した――グリーンウッドがなにか魔術を使おうとしているのだ。
 犬をけしかけてきたのは必殺を期した攻撃ではなく、こちらの注意をそらすための囮にすぎなかったらしい――もとより、今の攻撃程度ではあの犬を殺すことは出来ても、霊体を完全に滅ぼすことは出来まい。霊体を完全に消滅せしめるほどの損害は与えていないだろう。
 グリーンウッドはすでに攻撃動作に入っている――時間をかけすぎたか。
 ごう、と音を立てて急激な気圧変化で湿った埃を巻き上げ、おそらくは空気密度の変動による光の屈折率の変化のためだろう、その周囲の光景を陽炎の様にゆがめながら、生み出された衝撃波が押し寄せてくる。
 おそらくは先ほど建物を寸断したものと同じ――極限まで絞り込まれて刃のごとき切れ味を誇る衝撃波だろう。
 だが音と光景のゆがみ、それに床の上から巻き上げられる埃を見れば位置の特定は難しくない――さっさと身を躱すと同時に脇を抜けていった衝撃波の軌道に巻き込まれて、背後で壁に寄りかかる様にして倒れていた自動人形が首を切断された。
 衝撃波が壁に衝突すると同時、轟音とともに壁に裂け目が走り――食パンに刃を入れる様に再び建物全体が切断されてその衝撃で建物が揺れ、屍蝋化した死体の様な外観の自動人形の頭が床の上をごろごろと転がっていって壁にぶつかって止まる。それを視界の端に捉え、アルカードはわずかに唇をゆがめて笑った。
 グリーンウッドに視線を戻す――長身の魔術師が身動きひとつとらないまま、続く魔術を起動させた。
 グリーンウッドの背中からまるで孔雀の羽根の様に虹色の触手の様なものが伸び、彼の周囲で渦を巻く――まるで金属塊を鑢で削るときの様な耳障りな轟音とともに、男の周囲に数個の光点が生じた。まるで折り畳んだ紙切れを拡げるかの様に展開しながら、それらの光点が薄く輝く光の立方体を形成してゆく。
 まるで杭の様な先細りの形状をした、半透明の立方体だ――こちらに尖端を向けたそれらの半透明の立方体の内側に、一瞬だけ青味がかった緑色の劫火が満ちて、そして消える。
 立方体の内部は前後に分割されており、後部にだけ大量の水銀を思わせる液体が渦巻いている。
 次の瞬間、合計六個の立方体が彼に向かって殺到してきた。
 あれがどんな魔術なのか、知識の無いアルカードにはわからない――ただ、対処をしくじれば致命的な結果を招くことだけは疑い無い。
 ――ギャァァァァッ!
 ――ヒィィィィィッ!
 柄を握り直すと同時に振り翳した塵灰滅の剣Asher Dustが頭の中にじかに響くすさまじい絶叫を発し、同時に曲刀の刃が蒼白い激光を放つとともに雷華を纏う。
Wooaaaraaaaaaaaaaaaaオォォォアァァラァァァァァァァァァァァァァッ!」 声をあげて、アルカードは手にした塵灰滅の剣Asher Dustを水平に薙ぎ払った。
 形成された衝撃波が、殺到してきた立方体と衝突し――次の瞬間立方体の内部に封入されていたどろどろに熔融した金属が周囲に飛び散って、そこらに転がっていた自動人形オートマタの残骸に降りかかった。
 内部の液体は、液状化するまで加熱された金属だったのだろう――死蝋の様な姿の自動人形オートマタの体が、その液体が触れた途端に燃え上がる。
「完全に液状化するまで加熱された金属か――理屈はわからんが、ずいぶん高度な魔術を使うんだな」
 そんな感想を漏らして、アルカードは油を染み込ませた外套の燃えるきな臭い臭いに舌打ちした。
 先ほどの熔けた金属が附着したのだろう、油を染み込ませて耐水性を高めた外套がめらめらと燃えている。アルカードは溜め息をつくと、外套留めをはずして外套を脱ぎ棄てた。
 足元の水溜まりに飛び散って冷却され固形化した金属を見下ろして、
「察するに、あの立方体。目標に命中すると、後部の液状化した金属と蒸気が先端から噴き出す様な仕組みか? この色からすると、黄鉄鉱――否、銅か。まともに受けていれば、こんなちゃちな甲冑なんぞひとたまりも無いな」
 その言葉にグリーンウッドが少しだけ唇をゆがめ、一瞬足元に視線を向ける。彼が拍子をとる様に一度たん、と爪先で床を踏み鳴らした瞬間、その影の中に次々と六つの光点が燈るのが見えた。
 否、光点ではない――なにも無い空間にふわふわと浮いた魔術の篝火によって作り出された影の中に紡錘形にふたつずつ燈り、その中で殊更に赤い瞳孔が周囲をぎょろぎょろと睥睨しているそれは、眼だ。
 次の瞬間、男の影の中から巨大な影が飛び出した――まるで影そのものが体積を持ったかの様に床の上から盛り上がり、影の中から這い出す様にして飛び出してきたそれは、軍用戦車ほどの巨大な体躯とみっつの頭を持つ狼のごとき獣だった。
 みっつの口から同時に咆哮をあげながら殺到してくる――巨大なその獣に向き直って、アルカードは少しだけ唇をゆがめた。
 同時に、アルカードの足元の影にも異変が生じた――影が変形し、巨大な狼のごとき異形へと変わる。
 変形した影がそのまま長く伸び――まるで頭から完全に水中に全身を沈めていた人間が徐々に水面から顔を出す様に、影の中から黒々と濡れた獣毛に覆われた巨大な獣が姿を現す。
 首から後ろを影の中に沈めたまま――その巨獣はちょうど自分が姿を現した真上を走り抜けかけた三頭の狼の首のひとつに穴から顔を出した土竜の様に足元からかぶりついた。
 一本一本が短剣ほどもある狼王クールトーの牙が喉笛に喰い込んだ瞬間、獣のみっつの口からすさまじい絶叫がほとばしった。
 逆三角に配置されたみっつの頭のうち、下側に位置するひとつの頭の首から大量の赤黒い血が噴き出して石造りの床を濡らし、そのまま喉笛を食いちぎられたのかその頭ががくりとうなだれて動かなくなる。残るふたつの頭がすさまじい絶叫をあげ、なんとか攻撃者を振りほどこうと暴れながら前肢の爪でガリガリと床を引っ掻いた――だが無駄なことだ。
 アルカードに使い魔として取り込まれた狼王クールトーは影に身をひそめている限り周囲になんの影響も与えることは出来ないが、代わりに影に身をひそめている限りいかなる攻撃も通用しない。
 首から先だけを影の中から出したクールトーが真ん中の首にかぶりついているために、残るふたつの首はクールトーに噛みつくことは出来ない。
 クールトーはじきに三頭の狼よりも一回り巨大な全身を影の中から這い出させると、力強い前肢で三頭の狼の体を床に抑えつけて残るふたつの首に順に喰らいついた。
 やがて形骸を維持する力が尽きたのか、それとも形骸を消して実体化を解くことで完全消滅を避けようとしたのか、哀れっぽい悲鳴を漏らして、獣が形骸をほつれさせて消滅してゆく。
 クールトーもまた影の中に身体を沈み込ませながらアルカードの足元まで戻り、いびつにゆがんだ影は急速に元の人型へと戻っていった。
 それを見下ろして、アルカードは少しだけ口元をゆがめて笑った。
「残念――次はなんだ?」
 投げつけた挑発の言葉に重なる様に、パチパチという音とともに足元の床に青白い電光が走った。次の瞬間耳を聾する轟音とともに周囲の視界が白濁し、足元からほとばしった電光がアルカードを飲み込んで天井に突き刺さる。
 そのあとどうなったのかは、よくわからない――はっきりしていることは、次の瞬間爆発が起こったことだけだった。
 視界は閃光と爆風によって塗り潰され、電撃とそれに続く爆発の轟音によって一時的に聴力の低下を起こしたらしく、聴覚も役に立たなくなっている。
「なっ――」 自分の声も、聞こえなかった――さすがにその瞬間はアルカードも普段の余裕を失い、自分の周囲に発生した莫大な熱と猛烈な衝撃波、それにいったいどれほどの高熱によるものか瞬時に熔岩のごとく液状化した遺跡の構造物の飛沫を防御するのに集中せざるを得なかった。岩石がいったいどの程度の熱で熔解するのか知らないが、少なくとも熱湯が引っ掛かった程度の被害では済まないだろう。
 おそらくはあの電撃――否、雷撃・・か。あの魔術によって周囲の構造物が熔解し、あるいは液状化する事無く直接蒸発することで体積が急激に膨張して爆発が起こったのだ。

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