ねこのひたい

ねこのひたいのような庭と、趣味の読書と,
おとぼけな日々のことをいろいろ書きたいです。

「ドーン」平野啓一郎

2009年11月05日 | 今日読んだ本
普段結構本を読む私ですが
「おもしろかった」とか「へぇ~」とか
そういう感想以上のことを感じることはまれです。
が、「チグリスとユーフラテス」についで
私にとっての大切な本となることでしょう。


近未来の人類初の火星探索船である事件が起きる。
心身ともにダメージを負った主人公明日人が
どうやってそこから立ち直るか、そしてそれは
明日人夫婦の再生の物語でもある。

そんな話でした。

この話の舞台は、今小学生くらいの子が30代になる近未来。
ブルース・スプリングスティーンは87歳だけど元気です(笑)

火星探索とか人間の顔の認証システムとか生物兵器とか
SFとも言える要素や、アメリカの戦争や選挙や国民の意味とか
読みどころはたくさんあるのですが、
私が一番感銘を受けたのは「分人主義」という考えを
創作したところです。

分人主義とは・・・個人=individualは分人=dividualの
集合であると言う考え。分人とは、自分の中のある一面で
関わる人や物事で分化していると定義つけてあります。

人間は分人をそれなりにたくさん抱えて、色々な自分を
生きることでバランスを取っている。宇宙船のような環境では
分人化が過度に抑制される。1種類の分人で生きると言うことは、
過去の記憶や未来の想像にあふれてバランスを崩すのではないか。
そう論じています。

そして、この分人主義は、

自分の全ての分人に満足できることはないが、
1つでも満足な分人があればそれを足場に生きていける

とか、

子どもは分人化を拒否することも。
誰に対しても自分は自分という感じで接して
コミュニケーション不全に陥る

とか、

分人は人と対するだけでなく、一人で海や山に出かけても
分人化する

とか、
なんだか生きる上でとても役に立ちそうな感じがあります。

例えば、先日の個人面談で担任にむしむしの人間性について
厳しいことを言われ、帰りの車で泣いてしまいました(実話)。
家に帰ってむしむしにそのことを言い方を変えて言ったのですが、
これに分人主義をあてはめると・・・

家でのむしむしの分人はそのままでいいと思うよ。
でも先生に対しての分人は少し工夫したほうがいいんじゃないかな。

なんて注意の仕方が可能です。そうは注意しても、むしむしが
「だって、むしむしは、むしむしだもん!!これしかできないもん!!」
なんて反論したとしましょう(実話だけど)。

あ~まだ子どもなんだな~、でも学校と家では少し違うみたいだから
本格的な分人化はこれからなのかな・・・なんて対応できる訳です。

そして引きこもりの人なんかには、
少ない分人で生きているから、苦しいんだよ。
人と会うのが大変と言うなら、海や山へでかけて
新たな分人を作り出すといいよ

なんてアドバイスが可能になるのでは・・・
(そんなに簡単じゃないと思うけど・・・)

更に家ではいいお父さんなのに外ではヤクザ者なんて
人を更正させる場合も、組での分人をネットワークから
はずすなんて言い方もできるようです。
自分にとってプラスの分人は大事にして、マイナスの
分人だけを改めるという訳です。

人間はたいてい外と内ではそれなりに違う自分を生きています。
母の私、職場の私、保護者としての私、両親の娘としての私、
それぞれ無意識に使い分けています。

また、子どもを叱る時、その全人格を否定するのではなく
好ましくない行いだけど叱るというようなことが
育児関係の本などには載ってます。

誰もが普通にやっていることや、すでに広く知られていること
なのですが、「分人」という名前をつけることによって、
漠然とした感じから具体的な物に変化したように
感じるのは私だけでしょうか?

話は飛びますが、心身ともにダメージを負った明日人が
回復を図るためにあることをします。
「辛く苦しかった場面を明るい結末に回収される伏線に
するため、何が必要か」と言う描写なのですが、
そこがなんだかとっても好きです。

これも昔から「失敗は成功の母」とかそういう
格言でさんざん言われていて、誰もが言われずとも
思っていることです。

でも、「失敗は成功の母だよ」と励まされるより、
「この失敗を明るい未来の伏線にしようよ。
そのためには何が必要かな」と励まされたいなと
思います。そして励ませたらいいな・・・

例えば「中間テスト大失敗しちゃったけど、
志望校合格の伏線にすればいいんだよ。
そのためにはどうしたらいいと思う?」
とまたしても実話で例えてみました・・・

分人主義のところだけをピックアップして
くどくど書いてしまったので、精神論的な本なのかと
思うかもしれませんが、読んだ感じは基本SFです(多分)。

分人主義はロールケーキのクリームとか、
いなりずしの寿司酢とか、そんな役割を果たしています。
スポンジケーキの食感や油揚げの味付け具合に気をとられて
あんまり意識しないけど、実は重要みたいな感じかな。
スポンジケーキや油揚げは火星探索やその他いろいろです。

小説を読む醍醐味を感じられる本です。
私は対人関係に悩む娘を励ますのにとっても役立つと
思ったのですが、対人関係の問題の真っ只中にいる人に
ぜひ読んで欲しいと思います。後、心が折れ中の人とかね。

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