<今日は、ねこのお話 のつづき>
勇気を出して開けた「シャンゼリゼ通りへの扉」の向こう側には、誰もいなかった。
美容室のお兄さんもいなければ、お客さんもいない。
ご、ごめんくださぃぃ
2度ほど、そう言ってみると、奥の方からあの時のハンチング帽のお兄さんが出てきた。
あの、先日の、子猫の・・・。
と言うと、お兄さんはすぐに思い出してくれて
その後、子猫を探しにたずねてきた人はいないよと教えてくれた。
何か情報があったら連絡しますね。あ、そうだ。ちょっと待っててください。
と言って奥へ戻り、名刺を持ってきてくれた。
CASQUETTE
名刺にかかれていたお店の名前をみて、わたしは、はっとした。
お兄さんがかぶっていたのはハンチング帽ではなく、
「キャスケット」なる名前のおしゃれ帽子だったのか・・・。
わたしはまた、恥ずかしさで顔が赤くなった。
おまえさんはのらねこだったのかねぇ。
家に帰り、子猫に聞いてみる。
子猫は「うん、そうなの。」と答えるはずもなく、
人の話も聞かずに、ご機嫌で転がり回って遊んでいる。
その姿は、けしからんほどにかわいかった。
それまでのわたしは、14歳で天国へ旅立った先住猫のことを、
まるで昨日の出来事のように度々思い出していた。
ずいぶん長い月日を、そうして過ごしていたような気がする。
彼女はまだ、“おばあさん”と呼ぶのは失礼に思えてしまうくらい、毛艶もよくて若々しかった。
毎年の検診で心臓が弱っていると言われていたのだけれど、日常生活には支障がなく、
よく食べ、よく寝て、よく甘え、よくかわいがられ、それまでの14年間と同じ毎日を暮らしていた。
ある日、通称「香箱座り」と呼ばれる姿勢で朝から体勢を変えずに寝ていることに異変を感じて
病院に連れていってから約1週間後の夜、
彼女は今にも泣きだしそうな顔をしたわたしの腕の中で大きく伸びをしたあと、
爪でわたしの左腕にひと筋の傷をつけ、天国へと旅立っていった。
あの1週間のことは、今思い出しても胸がつぶれそうになる。
この子猫と同じ、お腹が白くてこげ茶色のキジトラの猫だった。
転がり回って遊んでいる子猫を抱っこして、
わたしはこの先、少なくとも20年は健康で生きていくという固い決意をし、
そして、子猫にプロポーズをした。
おまえさんを一生大切にします。だから、一生、一緒にいてください。
かくして、当時ひとり暮らしをしていたわたしの、子猫との2人生活が始まった。
子猫は、姪っ子に「空(そら)」という名前をつけてもらった。
美容室の前で空に出会ったのは、先住猫の命日から数えて
ちょうど1年と1ヶ月目の日の夕方だった。
そして、空と出会ったあの「シャンゼリゼ通りへの扉」のある美容室は
15年前に彼女を拾った公園のすぐ近く。
空は、心のどこかに胸がつぶれそうな想いを抱えていたわたしのところへ
彼女が遣わせた使者なのかもしれない、などと勝手な妄想を抱く。
数日後、動物病院で健康診断をしてもらったのだが、
そこで空は“お土産”もつけて遣わされてきていたことが判明した。
やました家へ15年ぶりに、男の子の猫がやってきたのである。
おしまい。
腹の上で寝る。
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びっくり顔のわんぱくボーイ
大きくなりました。
<やました>
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