名テノールのペーター・シュライヤーが亡くなったことを知った。12月25日ドレスデン、84歳。
芸術は人間を励ますための仕事だと思ってきたが、そう思わせてくれた人のひとりだ。
声というものが心を震わせる凄いものなのだということを教えられた。リートと言えばこの人と言いたくなるほど、ほとんどの名歌を、僕はシュライヤーのレコーディングによって知った。
オペラでも『魔笛』をはじめて全曲きいたスウィトナー盤でのタミーノ役なんかきら星だったし、第九ならブロムシュテット/ドレスデン歌劇場と組んだやつは半端なかった。そして、リヒターのオルガン伴奏にあわせて歌われたバッハを言葉にする力は僕には未だまったくない。
すこし前に亡くなったフィッシャー・ディースカウがいなかったらマーラーを好きになれたかと思うことがあるが、シュライヤーの場合、この人なしには知ることさえなかった音楽も多い。
来日時に歌ったベートーヴェンの歌曲なども極みだったのではないかと思うけれど、この人の歌は何よりも心を明るくしてくれた。
この人の歌を聴いていると、心の固くなってしまった部分がほどかれていったり、消えかかっていた希望や情熱がもういちど蘇ってきたりすることが、多々あった。
僕にとってペーター・シュライヤーは、明るみをくれた人、とも言える。たとえば月光のような力を、この人の歌は持っているのだと思う。
丁寧に、丹念に、歌う。自分を表現するための音楽ではなく、音楽というものそのものを寿ぎ伝える音楽だった。歌ってすごい、聴くたびそう思った。音楽というものがこの世にある素晴らしさを、この人の歌を聴くたびに感じてきた。ダンスでもこういう仕事ができないものかと、よく思う。
この人の歌を通じて、声を通じて、音楽を通じて、すごく助けられ多くを教わったように思えて仕方がない。淋しいが、おなじ時代に生きることができた幸運にも、感謝したいと思う。
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