世界のどこかで起きていること。

日本人の日常生活からは想像できない世界を垣間見たときに記しています(本棚11)。

オバマ大統領の8年

2016-10-29 16:23:33 | 日記
 “世界の片隅”ではありませんが、アメリカの話を。

 任期が終わろうとしているオバマ大統領、皆さんはどう見ているでしょうか?

 私には「オバマ大統領が掲げる正義・良心に国民がついて行けなかった」と映っています。
 医療保険でも、銃規制でも、社会的正義と思われる政策を進めようとすると、既得権益層から強力な抵抗を受けて頓挫することの繰り返しです。

 例えば「銃規制」。
 誰でも銃を持ち歩ける状況なら、社会が不安定化すればトラブルが発生することは容易に想像できます。
 しかし、それを規制しようとすると「全米ライフル協会」や「銃所有者協会」が反対行動に出るのです。
 その言い分は「銃を持った悪人を懲らしめるのは、銃を持った善人しかいない」と。

 この思想は、アメリカ社会の成り立ちを考えると理解しやすい。
 現在アメリカの支配層にいる白人の多くは、ヨーロッパから来て原住民のインディアンを銃で襲い、片隅に追いやって住み着いた征服者がルーツです。
 “銃の力を使って敵を征服した”人間は常に逆襲される不安と隣り合わせで、銃なしでは落ち着いて眠ることもできません。
 この状況は今でも変わっていないのでしょう。

 象徴的と感じたのが、番組中のオサマ・ビン・ラディンの暗殺事件。
 現場からの報告は「“ジェロニモ”を仕留めた」という暗号でした。
 “ジェロニモ”は白人と戦ったインディアンのアパッチ族の酋長(正確にはシャーマンらしい)の名前です。
 こんな所にも、アメリカの“他人を支配することで成り立つ自分の地位”という思想が見え隠れします。

 “正義・良心”をイメージさせる大統領の次は、その反動なのか、決まって真逆の“アメリカの力を世界に思い知らせるんだ”的なラジカルな人が大統領になります。
 ニクソンの後のレーガン、クリントンの次のブッシュのように。
 ただ、今回のトランプは過激すぎてちょっと無理そうですね。

 私のオバマに対する評価は「歴史に残る誠実な大統領」です。



■ オバマのホワイトハウス 歴史は正義へと“弧”を描く
2016年10月21日:NHK-BS
 オバマ大統領の独占インタビューと関係者への取材によって、8年間の政権の舞台裏に迫る大型シリーズ。長年に及ぶ保守派との攻防を経てオバマが遺した物とは何だったのか。
 最終話では、「オサマ・ビンラディンの隠れ家急襲」を、作戦当日のホワイトハウスの映像とCIA長官レオン・パネッタのインタビューを交えて再現する。後半では、オバマ大統領再選への道のりと、2期目のオバマが力を入れた銃規制や人種差別問題など国内の諸問題への取り組みが語られる。シリーズの締めくくりでは、オバマ大統領自身が未来へのメッセージを語る。

原題:Inside Obama’s White House
The Arc of History
制作:国際共同制作 Brook Lapping/Les Films D’ici/
NHK/BBC/ARTE France(イギリス 2016年)

 
タイミングよく、朝日新聞のオピニオン&フォーラムの欄に「オバマとは何だったか」という渡辺靖氏(慶応大学教授)からの寄稿文が掲載されました。
印象的な文言を引用します;

・バラク・オバマ大統領に関して最も印象的なのは、強靱な理想主義者であると同時に、冷徹な現実主義者であるという点だ。例えば、2009年のノーベル平和賞につながった「核兵器なき世界」を訴えたプラハ演説は理想主義者の側面を、「世界に悪は存在する。時には武力も必要である」と訴えたオスロでの受賞演説は現実主義者の側面を、それぞれ映し出している。両者のはざまに落としどころを模索しようとする矜持をを強く感じた。

・5月の広島訪問は、現実主義者の立場に立てば、現職大統領の被爆地訪問は政治的リスクで敷かない。究極の目標としての「核兵器なき世界」という理想主義なしではあり得ない大胆な行動だった。

・日本が原爆投下への謝罪を求めるなら、米国の世論は真珠湾攻撃への謝罪を求めてくるだろう。

・理想なき現実主義も、現実なき理想主義も、不毛であるという信念。理想主義と現実主義という二項対立の昇華にこそ「オバマイズム」の本質と真骨頂があった気がする。

・今回の大統領選におけるドナルド・トランプ候補(共和党)の躍進の背景には明らかに「反オバマ」感情ーーそしてそのオバマを制御できない共和党指導層に対する憤りーーが存在する。

・「一つの米国」を掲げたものの、保守派からは「妥協に応じない」、リベラル派からは「妥協しすぎる」と不満が募り、結果的に双方の亀裂を深めた面は否定できない。

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