砂蜥蜴と空鴉

ひきこもり はじめました

無題

2005年09月15日 | ログ

冷たい言葉が銃弾に似ているとするなら
詩人の言葉は散弾銃のそれだった

唄う言葉は遠い日の後悔
響くカスタネットは懺悔と贖罪の音程

誰もそんな歌は望まない
けれど詩人は歌い続けた

友人が問うた
君は美しい声で どうして誰も望まない歌を歌うのだと

詩人は答えた
僕は自分の声で 自分の望んだ歌を歌いからだと

重ねて友人は言葉を重ねる
それは間違いだよ 悲劇の主役気取りの芸術家さん

小説は誰かに読まれる為に書かれる

演劇は誰かに鑑賞される為に演じられる

そして音楽は誰かに聞かせる為にある

君の声は美しい
僕らの望む歌を歌ってくれよ

そうすれば誰もが幸せになる
僕らは君の歌声を楽しみ
君も今のように飢えて小金の都合に奔走しなくてもすむ

さぁ そうしよう我が友よ

詩人はとても楽しそうに笑って答えた

ありがとう僕の大切な友達
だけど僕は悲しい歌を歌い続けるよ

僕はこの世界に無駄なものはないと思っている
この世界に意味のないものなんてないと思っている

悲しい言葉があるということは
人に悲しむ意味があるということだ

人を傷つける言葉があるということは
人を傷つけるに足る意味があるということだ

僕の歌は人々を傷つけるだろう
僕の歌は忘れていた痛みを思い出させるだろう

僕はこうして歌い続け
そして遠からず飢えと貧困で死ぬだろう

だけどね
僕はその生涯に意味があると信じたい

それは他人から見れば滑稽な一生に思えるかもしれないけど
神が与えてくれたこの声で
人々を悲しませる歌を歌い続けたことに意味があると信じたい

君の優しさと友情に感謝します 僕の友達

僕は遠からず死ぬだろう
だから最後のお願いだ

僕の死んだあと
人々は僕に同情と哀れみをよこすだろう

それは仕方がないことだ
人々にとってそれは自然なことなのだし
事実 飢えと空腹で終わる人生というのは綺麗なものじゃない

だからね 僕の大切な友達
君はそんな彼らに伝えて欲しい

―――それでも僕は、笑っていたと




それはむかしむかしの物語。
誰も望まない歌を歌い続け死んだ愚か者の物語。
それでも笑って死んだ男の 何処にでもある男の物語。