砂蜥蜴と空鴉

ひきこもり はじめました

♯186 戯言同盟 a

2006年11月28日 | ログ
「予想もつかない画期的なタイムトラベルの方法とは?」
「10年後の将来設計に不安を感じ幼児退行を起した32歳独身男性」
戯言が始まる。
語り手はいつも二人。僕と彼。あるいは彼と僕。
互いのベッドに寝転びながら、小さく開いた窓から流れる初夏の風を楽しむ。
「最近流行している新種のドラッグ」
「衝撃スクープ。呼吸を止めない若者達。酸素吸引の実態に迫る」
退屈な冗句。欠伸交じりのトーク。差し込む陽に、瞳を閉じる。
優しい気持ちを壊すのは、いつも戯言。
「高瀬正二。人類未満生物以前。1日の大半を睡眠に充てる次世代敗残兵」
「・・・・滝錬太郎。レベル86のベテラン馬鹿。動く喜劇。存在は悲劇」
滝が笑う。
「センスがないな、高瀬よ」
「君にだけは言われたくないな」
一時間のノルマをこなし、僕らはテレビを見ることにした。
「奈倉山噴火だって」
「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きありだ」
「何が言いたいのさ」
「世界は移り行く。山もまた然り。つまり噴火ごときニュースにするなと俺は言いたい」
「世界の変化をニュースにせずに、何をニュースするのさ」
「俺とか」
「おい」
「確かニュースというのはNEWSで各方位の頭文字を取ってるんだぜ」
「そうだね。東西南北、あらゆることを知らせるって意味なんだろうね」
「甘すぎるな。たかだか四方八方を網羅した程度でニュースとは笑わせる」
「四方八方網羅すれば十分でしょ。全方位カバーじゃん」
「果てしなく阿呆だなお前は。いいか、世の中で知るべきことは何か?
 東西南北?ノーだ。政治経済芸能野球。論外だ。そんなものは二の次。
 我々誇り高き歩く猿、略して人間が知るべきは自分自身の事だろうが。
 東西南北カバーする前に世界を視る視点、自分自身を知るべきだろう」
「いや、確かに大事だけど報道機関を通して自分自身を知るのは控えめにいって異常だから」
「今日のニュースです。滝錬太郎氏は日本時間未明にて寝返りを三回打ちました」
「世界で三番目くらいに無意味なニュースだね」
食事の時間になった。
小食な僕は控えめに食べ、滝は食事という概念を始めて知った無機物のように貪欲に肉を頬張った。
そして就寝前。
僕らは最後に軽く挨拶を交わす。
「おやすみ滝」
「うむ。また明日、あるいは明後日だ、高瀬よ」