タイ国経済概況(2020年6月)

1.景気動向
(1)国家経済社会開発委員会(NESDC)は5月18日、2020年第1四半期の経済成長率(速報値)を発表。新型コロナウイルス感染拡大による世界経済の後退や貿易量の減少、干ばつ等が影響し、前年同期比▲1.8%であった。2020年通年の予測については前年比▲5.0~▲6.0%と、2月時の予測値である同+1.5~+2.5%から大幅に下方修正した。また、タイ中央銀行が同月29日に発表した4月単月の経済報告書によれば、タイ経済はさらに減速。新型コロナウイルス感染対策に伴う入国制限を受け、同月の外国人旅行客数はゼロであった。

(2)タイ工業連盟(FTI)が5月20日に発表した4月の自動車生産台数は、前年同月比▲83.6%の2.5万台だった。メーカーの大半が生産を休止していたことから大幅な減少となった。前年同月マイナスは12ヵ月連続。内訳は国内向けが同▲85.4%の1.1万台、輸出向けが同▲81.8%の1.4万台。1~4月の累計生産台数は、前年同期比▲32.8%の47.8万台となった。また、4月の国内販売台数は前年同月比▲65.0%の3.0万台、輸出台数は同▲69.7%の2.0万台。1~4月の累計国内販売台数と累計輸出台数は、それぞれ前年同期比▲34.2%の23.0万台、同▲26.3%の27.0万台となっている。

(3)FTIが5月20日に発表した4月の自動二輪車生産台数は、前年同月比▲50.9%の8.3万台だった。内訳は完成車(CBU)が同▲53.1%の6.4万台で、完全組み立て部品(CKD)が同▲42.3%の2.0万台。1~4月の累計生産台数は、前年同期比▲16.0%の70.9万台。また、4月の国内販売台数は前年同月比▲34.5%の7.9万台、輸出台数は同▲43.3%の3.3万台だった。


2.投資動向
(1)タイ投資委員会(BOI)が発表した投資申請統計によれば、2020年第1四半期の新規申請額は前年同期比▲44%の714億バーツで、申請件数は同+3%の378件であった。国・地域別の海外直接投資額では日本が同▲72%ながら74億バーツと最大で、次いで中国が65億バーツ、香港が35億バーツで続いた。またBOIは、5月21日付で新型コロナウイルス感染拡大による影響緩和策を布告。プロジェクトによって義務付けられている完全操業申請期限やISO9002等の取得期限がそれぞれ延長となった。

(2)プラユット首相を議長とする26人の委員から構成される、国家第5世代通信規格(5G)委員会が5月13日に発足した。デジタル経済社会省が事務局となり、5Gサービス推進を図る。5G周波数は民間大手3社および国営2社が獲得しており、今年中に本格的な5Gサービスの開始が期待されている。また国家放送通信委員会(NBTC)は、5G導入に伴うインフラ環境の向上によりタイへの長期滞在を希望する外国人の在宅勤務需要を取り込む狙いから、タイを在宅勤務のハブとする計画を5G委員会に提案する。


3.金融動向
タイ中央銀行の発表によると、2020年4月末時点の金融機関預金残高は21兆9,708億バーツ(前年同月比+9.7%)、貸金残高は25兆4,406億バーツ(同+4.6%)といずれも増加。


4.金利為替動向
〈金利動向〉
(1)(5月の回顧)
5月のバーツ金利は、20日のタイ中銀金融政策委員会(MPC)での利下げで短中期では金利低下となったが、長期金利は月末にかけてリスク選好の戻りで小幅反発となった。月初公表されたタイ4月消費者物価指数が約11年ぶりの水準となる前年比2.99%となったことや、次回MPCでの利下げを織り込んでバーツ金利は全年限で金利低下。中旬に発表されたタイ第1四半期GDPが前年比1.8%減となったが、事前予想ほど落ち込まなかったこともありバーツ金利への影響は限定的であった。20日に開催されたタイ中銀MPCでは大方の予想通り0.25%の利下げが決定され、政策金利は0.50%と史上最低金利を更新。一方で、4対3とぎりぎりの採決であったことから政策余地の乏しい中での利下げに対しては一枚岩ではないことが垣間見られた。22日開幕となった中国の全人代では香港に対する国家安全法の導入に関しての議論が注目された。これに対しては、トランプ米大統領が導入となった場合には極めて強硬に対応すると発言したことでリスク選好が後退。また同日発表されたタイ4月貿易統計では予想に反して輸出が前年比2.1%増となったが、金相場上昇を背景とした金製品の輸出が急増したことが背景であり、金を除いたベースでは10.3%減であった。これらを受けてタイSET指数は下落、バーツ金利は低下となった。その後、各国・各地でのロックダウン措置の緩和に伴う経済活動再開やワクチン開発への期待でリスク選好が戻りバーツ長期金利が上昇。28日に閉幕した全人代では、香港国家安全法の制定方針が圧倒的多数で採択されたことでリスク選好は再び後退となりバーツ金利は小幅低下し、タイ10年物国債利回りは1.24%台、同5年物利回りは0.81%台とそれぞれ前月末対比では0.03%上昇、0.10%下落となった。

(2)(6月の展望)
先月は経済活動再開やワクチン開発への期待が先行し世界的に株価上昇となった中、タイSET指数も上昇、バーツ長期金利は利下げはあったものの小幅上昇となった。足元の楽観論は期待先行で醸成されており、今後確認されていく経済データや米中をはじめとした主要国動向には注意が必要。今月は9~10日に米連邦公開市場委員会(FOMC)、24日にタイ中銀MPCの開催が予定されている。

〈為替動向〉
(1)(5月の回顧)
5月のドルバーツ相場は続落。新型コロナウイルス発生源を巡って米中の対立激化への懸念はくすぶるが、経済活動再開やワクチン開発への期待からリスク選好度が回復し世界的に株価が上昇、これを受けてアジア通貨買いとなった中バーツ買いも継続。月初、前月からのバーツ高の流れの中ドルバーツは32.3台でオープン後、タイ4月消費者物価指数が前年比2.99%低下と約11年ぶりに大幅悪化したことでドルバーツは32.4台後半まで上昇したが、米中の通商担当トップが電話会談を計画との報道に人民元が反応を示すと、ドルバーツもこれに伴い下落に転じた。さらに米国でのマイナス金利導入の可能性をマーケットが織り込み始めたことや、ロックダウンの解除への期待からドルバーツは軟調に推移。タイ政府のコロナ対策が評価され、海外投資家のタイ債券購入等でドルバーツは一段と下落。中旬に発表されたタイ第1四半期GDPが前年比1.8%減となったが事前予想ほど落ち込まなかったところに、新型コロナウイルスのワクチン開発への期待でリスクセンチメントが改善。ドルバーツも32を割り込んで下落。20日のタイ中銀MPCでは4対3で0.25%の利下げが決定され、政策金利は0.50%と史上最低金利を更新。しかし、利下げは大方の予想通りであったことからドルバーツの反応は限定的であった。22日より開催となった中国全人代では香港に対する国家安全法導入に関しての議論が注目されたが、トランプ米大統領が導入となった場合にはきわめて強硬に対応するとけん制したことで米中間の緊張が高まった。一方、同日発表されたタイ4月貿易統計では事前予想に反して輸出が前年比2.1%増となった。金相場の上昇を背景に金輸出が前年の12倍まで伸びたことが背景ながら、金を除いたベースでは10.3%減であった。これを受けてドルバーツも小幅上昇し一時32台を回復。しかし、日本や欧州での経済活動再開や中国の景気刺激策への期待が勝り、リスクセンチメントがすぐに改善されたことでドルバーツは再び下落。全人代では上述の香港国家安全法の制定方針が圧倒的多数で採決された。これを受けてトランプ米大統領が中国について記者会見を行う予定との報道でリスク選好は後退するも、月末の輸出勢のドル売りフローで上値が抑えられドルバーツは31.8台前半でクローズ。

(2)(6月の展望)
先月は米中問題をはじめとした懸念材料はあったものの楽観ムードが勝り、ほぼ一本調子でドルバーツは下落となった。今月からさらに多くの国や地域でロックダウンの解除もしくは緩和が続くことから、経済活動再開への期待が継続するものと予想される。ただし、経済活動再開に伴っての第2波への懸念、米中問題、欧州でもコロナウイルス復興基金案に対して必ずしも一枚岩でなく難航しそうなこと等、懸念材料は多くあることには要注意。なお、9~10日に米FOMC、24日にタイ中銀MPCが予定されている。


5.政治動向、その他
(1)タイ政府は個人情報保護法の複数の条項について、適用時期を延長する勅令を5月19日に閣議決定。本法案の実質的な適用は2021年5月31日より後となった。本件措置は、新型コロナウイルスの流行ならびに政府機関および民間企業への準備期間に配慮したもの。なお、個人情報保護法は2019年5月に施行され、今年5月27日から適用の予定であった。

(2)タイ政府は5月29日、新型コロナウイルス感染拡大に伴う非常事態令第9条に基づく決定事項(第9号)を官報に掲載し、6月1日以降の夜間の外出禁止時間帯を23時~翌3時に短縮した(以前は23時~翌4時)。また同日より経済活動の規制緩和第3弾として、展示会場や映画館、タイ古式マッサージ等の営業再開を許可した。


(注)本資料は情報の提供を目的としており、何らかの行動を勧誘するものではありません。
投資等に関する最終決定は、お客様ご自身で判断されますよう宜しくお願い申し上げます。


情報提供:
三井住友銀行バンコック支店 SBCS CO., LTD.



 
 
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